【第二部】第四十五章 新たな未踏領域
――“青ノ翼”ホーム・広間――
「新たな未踏領域の情報が、リムタリス協会支部に持ち込まれたんだ。場所は、ここから北――“セラーレの森”の奥深く」
「“セラーレの森”って、この国の北端で“神界”に面してませんでしたっけ?」
この世界では、人間、妖獣、動物やモンスター――そして、神族や魔族が住み分けて生息している。そして、それぞれの生息域は、大別して次の様に呼び習わされる。
人間の住む領域……“人界”
妖獣の住む領域……“獣界”
神族の住む領域……“神界”
魔族の住む領域……“魔界”
そして、動物やモンスターはどこにでもいる。また、“御使いの一族の村里”や、先日行った“ガラート村”など、異種族が共存する場所もある。だが、これは稀であり、例外として扱われていた。
そして、ここ――リムン国は“人界”だが、北は“神界”に面している。その国境の最北端が“セラーレの森”なのだった。
◆
「うん、その通り。“神界”に立ち入る命知らずはいないし、“セラーレの森”にこれと言った珍しいものも無いから立ち入る人自体あまりいないんだけど……最近、とある“ゴールド”クラスのギルドが行って来たみたいでさ」
エーリッヒがテーブルに置いていたグラスを手に取り、ブドウ酒を一口含む。
「腕試しだったみたいだね。“神界”ギリギリまで行ってみようと探索してたら、奥深くに<結界>があって、入れないところがあったと」
「<結界>ですか?」
エーリッヒが頷く。
「かなり強力な結界だったみたいだね。押そうが、武器を叩きつけようが、魔法をぶつけようが――どれも全く効かなかったらしい」
「おっと。一応注意しとくが、そういう結界には、カウンターとして罠がしかけられてることもあるから、強引に突破とかはやめといた方がいいぞ」
「……そのギルドはかなり無謀」
ラルフとレインから注意が入る。なるほど……。
「じゃあ、正攻法としてはどう突破するんですか?」
「おおよそ三通りかな」
1 術者に解除してもらう。
2 性質を見極めて、正しい解除方法を取る。
3 魔法<ディスペル>で解除する。
「術者が中にいたら、まず1はダメだ。2はその結界についての知識が要る。周囲の複数箇所に結界を維持する物体があるから無効化するとかね」
それも知識が無いと難しそうだ。じゃあ――
「3は弱い結界なら解除できるけど、強い結界ならまず無理だね。――それに、<ディスペル>自体が上級魔法で、八大属性以外の特殊なものでもあるから、使える人が少ない」
「……私は使えるけど、そんな強い結界はたぶん無理」
凄いなレインさん。<念話>だけでなく、<ディスペル>まで使えるなんて。だけど――
「それじゃ、結界の突破は難しそうですね」
「そう。結界の解除は、そもそもかなり高難度なんだ。運良くその結界についての知識があれば別だけど、そんな都合良くは持ってないしね」
エーリッヒが肩をすくめる。じゃあ無理かとアレンが諦めかけた、ちょうどその時――
◆
「だがな、我が君! ――そして、稲姫よ! 其方らには、一体“何の力”がある?」
青姫が立ち上がり、持って回った聞き方をする。稲姫を見ると、ちょっと不機嫌そうだ。しかし、“力”か――
「俺と稲姫に共通する力なんて、稲姫の力くらいだよな。そうすると――ああ、そうか!」
「<魔素操作>でありんすか?」
稲姫も俺と同じ答えにたどり着いた様だ。答えを聞いた青姫が満足げに頷く。
「そうじゃ。結界といっても、魔素で出来ておるのだろう? 其方の<魔素操作>でなら、解除できると考えられるのじゃ!」
人差し指を立てながら青姫が力説する。――確かに一理あるな。
「それにじゃ、我が君。結界を張った術者や道具が見つかれば、“あ奴”の術に対抗できるかもしれぬじゃろ?」
「なるほど! ――だが、それも“根源からの力”を元にしてたら、“門を閉める”奴の力には――」
「後ろ向きはダメにゃご主人! マズは調べるにゃ! ダメだったらダメだったで、別の方法を探すにゃ!」
アレンは琥珀に喝を入れられる。――そうだったな。
「ああ、すまない。弱気になってたな。探しに行こう!」
「うむ、頑張ろうぞ!」
「その意気にゃ、ご主人!」
「<結界>を手に入れるでありんすよ!」
盛り上がるアレン達。だが――
「――あ~。ごめんなんだけど、わからないことが多すぎて。“あ奴”とか、“門を閉める”力とか……色々と教えてくれない?」
「……置いてけぼり」
「もう洗いざらい吐いちまえよ。な?」
エーリッヒ、レイン、ラルフが蚊帳の外でムスっとしていた。アレン達は顔を見合せ頷き合う。
「そうですね。皆さんにはお話しておきます」
――そうしてアレン達は、三人に過去の経緯を語り聞かせた。




