プロローグ
――黄昏時。
辺りが薄暗闇に包まれる中、地平線の彼方がオレンジ色に染まっている。
大きな広葉樹が一本、目の前に立っていた。
その広葉樹は、淡く橙色に発光する葉をふんだんにたくわえており、それらが辺り一面に咲く色取り取りの草花を鮮やかに照らし出している。
そんな幻想的な光景の中、広葉樹の下に一人の少女が佇んでいた。
綺麗な金髪を風に揺らす少女は碧色の目をしている。そして、白のワンピースがとてもよく似合っている。
だが、不似合いなものもあった。
――少女は、哀しげな瞳でこちらを見つめ続けていた。
◆
――君は誰? ここはどこなんだ?
問おうにも声が出ない。
まるで、自分の身体じゃないみたいに言うことを聞かない。
少女は何か言葉を紡ぐように口を動かすが、何も聞き取れない。声が聞こえない。
少女は残念そうに顔を伏せると、数瞬の後、再び顔を上げてこちらを見つめてくる。
そして、少しだけ微笑み何かを言い残すと、寂しそうな顔でこちらに手を振った後、背を向け歩き去ろうとする。
――待ってくれ!
――何を言おうとしてたんだ!? 聞こえないんだ!
追いかけたくても全く動かぬ身体をうらめしく思いながら、去り行く少女の背をただ見送るしかなかった。