絶望感
何者だ!という兵士達の声に応えるように中空に半透明の人物が現れる
「人間ども並びに異世界より来た勇者達よ、お初にお目にかかる。我こそが魔王なり」
魔王と名乗るそいつは黒いローブを見に纏い、見た目はあまり人間と変わらないが大きく湾曲した黒い角が二本頭から生えている
「ま、魔王じゃと!?兵士達よ、攻撃せい!」
教皇様の命令により中空に浮かぶ魔王へと弓矢や魔法で攻撃する兵士達。だが、半透明なことから分かるように攻撃は届かない
「ハッハッハッ!我はそこにはおらんよ。今はそなたらの元に我が姿と声のみを届けておるに過ぎんからな」
魔王の挑発に対しコハルと呼ばれてたギャルっぽい女の子が乗る
「魔王だかなんだか知らないけど、何が目的な訳?!こっちはいきなり訳分かんないとこ呼び出された上にあんたを倒せとか言われてるんだけど?!さっさと出てきなさいよ!!」
捲し立てるように彼女が一息に言うが魔王はまぁ落ち着け、と取れるような身振りを取ってから口を開く
「勇者の1人か、勇ましいことだ。では、かの勇者のために手短に話すが我の目的はな、貴様ら人間とそこにいる勇者達へ絶望を届けに来たのだよ」
魔王の言葉に場が静まる
絶望?ゲームで言えば最初の街にいきなりラスボスが出てきてるような状態で何があると言うんだろうか
「この世界の人間達よ、気づかぬか?勇者達は何故多いのか、と。異世界より来た勇者達よ、気づかぬか?女神から備わったという加護とやらがイマイチ感じられぬのではないか、と」
呼び出した勇者の数が多いという話はすでに教皇様から聞いていたし、加護の話に関しては俺は分からないけどカイトやゲンジ、葉隠さんは感じていたみたいだった
俺は分からないけどさ
「それらは全て我が計画のうちよ。貴様ら人間が異世界より勇者を呼ぶことに事前に対策を講じたという訳だ」
「女神より授けられる加護を人数を増やすことで分散させ、さらに召喚陣に呪いを付与する紋様を加える、これにより勇者達は確実に弱体化するという訳だ」
なんだって!?本来なら4人だって話のとこを俺含めて10人まで増やしてる。例えば加護が1人に5つ与えられていても1人2つにまで減らされてるってことになる
「そして呪いとは、授かった加護に対しマイナスに働くというものだ」
そう言って魔王はゲンジを指差す
「お、俺?!俺がなんだってんだよ!?」
「貴様が授かった加護は恐らく魔法に関するものではないか?」
「だからなんだって言うんだ」
「魔法に関する加護に対してはな、魔力に素養の薄い者を選び、かつ魔力がほとんど育たぬような呪いが掛かる。つまり貴様は碌に魔法も使えぬ魔法使いということだ」
あまりに絶望的宣言。もしも魔王が言うことが本当ならゲンジは戦力として見れば0に等しいってことになる
項垂れるゲンジを他所に魔王は次々に俺達勇者達を1人ずつ指差し、呪いを解説する
魔法に関する加護は才のない者を選び、肉体的な加護はなんらかの制限を掛ける。さらにそれらはほとんど育たないように成長制限まで掛ける
ゲンジだけではなく、教皇様や兵士、俺達勇者達は魔王を恐れている。魔王は宣言通りに絶望を届けにきていた
最後に魔王の指は俺を示す
「貴様には、聖剣を扱うための加護が付与されている筈だ、違うかな?」
俺は応えない。そもそも加護が何か分からなかった訳だしこれ以上魔王の思い通りになるのは嫌だと思ったからだ
「その加護には……特別面白い呪いが掛かっているな、楽しみにするがいい」
そうして10の絶望を届けた魔王はもう一度辺りを見渡した後一礼する
「ではさらばだ、人間と勇者達よ。せいぜい我を倒しに来れることを願っているよ。何故なら、そうしなければ勇者は元の世界に帰れないのだからな」
そう最後に付け足し、高笑いとともに魔王の姿は消えた
魔王を倒さなければ元の世界には帰れない。しかし、人間には敵わない上、そもそも魔王を倒すために呼ばれた俺達は戦力外
この日この世界は真に絶望に包まれ、そして俺達勇者達は『使えない奴ら』として世界に認知されることになる