違和感
「痛いんだな…。これだからヤンキーは!、っとそれは置いといて。トオルくん達は異世界ものって分かるかな?」
最近よく聞くから知ってる、と答える。隣にいるカイトとゲンジも知ってるらしい
「知ってるなら話が早いかな。そういう作品の主人公は大体最初から強い主人公が多いんだけど例えば複数人、今の僕らみたいに何人かまとめて異世界に来ちゃう作品だと主人公は周りは特別な力を持っているのに主人公にだけそういう力が一見無い、という作品が多いんだ」
そこまでを息継ぎ無しに言い切る葉隠さん。一応聞き取れるからいいけど、この人さっきまでと違ってすごいハキハキ話してるよ
「で、だけど。そんな主人公の状況にトオルくんは似てないかい?」
息継ぎしてから葉隠さんはそう続けた
確かに、あまり詳しくは無いけどそういう風に言われるとそうなのかもしれない
「おいおい葉隠さん、主人公はこの俺五條源治だぜ?なんせ五大元素適性ってやつなんだし絶対強いじゃん、なカイト?」
「ま、まあ強そうだよね確かに」
「だろ?」と喜ぶゲンジをよそに葉隠さんは俺に小声で耳打ちしてくる
「も、も、もしも最弱系主人公だったら、出来れば僕に復讐とかそういうのはしないでね?僕も気をつけるしぃ…」
そう言い終わるやいなや、扉が開いて教皇様が入ってきたので葉隠さんは離れていった
俺たちはなんとなくで横一列に並ぶ。こういうのはやっぱり日本人気質ってやつなんだろうか
1番左が俺、隣にはゲンジ、カイトと続きその隣に葉隠さんでヤンキーっぽい人。そこから女の子達が並んでいる
並んでいると教皇様が話し始める
「異世界より来て下さった勇者諸君、昨晩は満足頂けただろうか」
いえいえ、豪華な夕食に豪華な個室で結構満足でしたよ
俺がそう思っているように皆とりあえず不満はないらしい。「さて、本題に入ろう」と教皇様は前置きし、話始める
「勇者諸君にはこの世界を脅かす魔王を討伐して頂きたいのだ」
教皇様が言うには現在魔王はかなり人々を追い詰めており、すでに魔王が治めていた領地に1番近い国は攻め落とされているらしい
「そこで、我々は女神に信託を頂いたのだ。異世界より勇者を呼びなさい、私達も加護を与えて協力します、と」
葉隠さんではないけれど、異世界ものにはよくある話で割と納得出来る。しかし、ここからが奇妙だった
「我々は女神様の信託の通りに準備をし、召喚の儀を行なったはずなのだ。なのに何故か本来よりも人数が多いのだよ」
昨日はギャルっぽい女の子が食ってかかっていたが、今日はとなりの女の子になだめられているからか声を荒げてはいない
「一体何故なのだろうな…。ともかく、選ばれた勇者様以外の方々には女神様に元の世界に戻すようお願いをしようと思うので今暫くお待ち願いたい」
それを聞いて安心した。せっかく異世界に来たのに何もせず元の世界に戻るのは少し後ろ髪を引かれるが、聞いた所によるとかなり危険な情勢らしい
そんな世界に加護ってやつを貰わなかった俺がいてもすぐに死んでしまうかもしれない。そう考えると早く戻る方がいいんだろうな
どうやらそれで納得したのだろう、皆不満の声は上がらなかった
「では、加護を貰っているのはどなたかな?我々には確認出来ないので、そうだな、挙手を願いたい」
当然俺を手を挙げない。とはいえ、誰が勇者なのか気になって横を見て確認してみるとカイト、ゲンジ、葉隠さんが手を挙げる…
しかし、それで終わらない。結論から言えば、俺以外の全員が手を挙げていた
「こ、これはどういうことだ!?」
教皇様が狼狽え、周りにいた兵士達や貴族らしき人達も同じような様子
当然俺達呼び出された側も驚く
「どういうこと?呼び出された勇者ってのは4人でその4人だけ加護ってのがあって、それ以外はおまけの筈なんでしょ?!!」
「そ、その筈なんだがなぁ…」
「なのにどうして、アタシも入れて9人もその加護ってのがあるのよ!」
「お、落ち着いて、コハルさん!」
コハルと呼ばれたギャルっぽい女の子は昨日よりも一層怒って見える。いや、あれは動揺もあるのかな
コハルさん以外も大なり小なり動揺が見える。
大広間全体がざわざわとしていると急に辺りが暗くなる
「こ、これは?」
「な、なんで急に暗く…」
そうして大広間が辛うじて辺りが見えるくらいに暗くなったところで、何者かの声が聞こえた
その声は暗く不気味で、そこし得ぬ恐怖を思わせるようなものだった
「クックックッ…全ては我の計画通り。貴様ら人間どもの希望の芽を摘むために仕組んだのだよ」