096『ゆったり女子会』
漆黒のブリュンヒルデQ
096『ゆったり女子会』
三人で出かけるのは初めてかもしれない。
豪徳寺の駅近にイタ飯屋が出来たと言うので、玉ちゃんとねね子の三人で出向く。
「うわあ! なんか、お爺ちゃんに気を遣わせてしもうたかもしれん」
出かけに、お祖父ちゃんくれた封筒を開けて玉ちゃんが恐縮する。
「おお、諭吉がトリオでいるニャ(^▽^)/」
「まあ、再来年には引退だし、諭吉にも旅をさせてやろうって気持ちなんだろ」
「え、ひるでの祖父ちゃんはとっくに引退してるニャ?」
「諭吉が引退するんだ。後継の渋沢栄一は、もう印刷にかかってるぞ」
「え、そうなのニャ? 短かったニャ、ついこないだまでは聖徳太子だったニャ」
「あたいは慶長小判が出た時ん感動がふてねえ、それまで、日本中バラバラやった貨幣が統一されたときはビックリしたじゃ」
「ああ、そういうこともあったっけニャ?」
「ねね子、あたいと大して変わらん歳なんに、感動うしねえ」
「あはは、仕方ないよ。猫に小判て言うじゃない」
「あ、バカにすんニャ! ねね子は、全国招き猫の総本家ニャ!」
「なにかお土産買うて帰るぞ」
「「うんうん」」
話がまとまって、商店街の先に新装開店の花輪に彩られたイタ飯屋が見えてきた。
豪徳寺の商店街にはアーケードが無い。道幅も狭くて、いかにも東京郊外の駅前通りという感じなんだけど、わたしは好きだ。
スコンと空が覗いて印象が明るい。大きな店というと高架下のデミーズか、高架を出てすぐのみそな銀行ぐらいのもので、その他は世田谷ローカルというような地元店舗が寄り添うように並んでいる。シャッター締め切りの店というのもほとんどなくて、適度な賑わいが好ましい。いまは姿を消したが、クロノスが時計屋を開いていたのもむべなるかなだ。
お店も新装開店の割には行列が出来ているわけでもなく、それでも三人揃って座れる席は空いていなくて、愛想のいいウェイトレスが、急きょ折り畳みの木製椅子を出してくれて、期せずして日向ぼっこ。
「どうぞ、お待ちの間にメニューをお決めくださ~い(^▽^)」
差し出されたメニューを開くと、美味しそうなコース料理や単品料理がいっぱい並んでいる。
「イタ飯限定というわけでもないんだなあ……」
定番のパスタやピザの他にもジャガイモや牛肉の煮込み的な南ドイツの家庭料理風のものまであって、好感が持てる。アルプスを挟んだ北イタリア、南ドイツ、南フランスあたりの家庭料理をベースにアレンジしたメニューだ。
「テイクアウトも充実してるニャー!」
「ほんとだ、柔らかそうで、爺ちゃんばっばんにも喜んでもれそうじゃ」
「じゃあ、テイクアウトに……これとこれ」
「これも、いいニャ(´∀`)」
席に案内されるころには、自分たちのとお土産のテイクアウトまで決まって、久々のゆったり女子会をもつことができた。
「わーい、諭吉と一葉が残ったニャ!」
お勘定をして、意外にも残ったお札をヒラヒラさせて喜ぶねね子。
「ちょっと、恥ずかしいからやめろ!」
「だってだって、嬉しいニャぁ~」
苦情を言うと、ますます調子に乗るねね子。
「あはは……あれぇ?」
それを楽し気に見ていた玉ちゃんが、ふと、商店街の空を指さした。
ひらり……はらり……
「え、お札ニャ?」
空からひらりはらりとお札が舞い降りてくる。
諭吉も居れば、一葉、野口英世も……伊藤博文……聖徳太子……大隈重信……板垣退助……神功皇后……武内宿禰……
道行く人たちも空を見上げたり、手にとってみたり……
しかし、まともお札は、最初の方だけで、途中からは半分や三つに切られたものがほとんどになった。
描かれている肖像たちも、苦悶の表情になってきて、手に取った人たちも怖気を振るって投げ出した。
☆彡 主な登場人物
武笠ひるで(高校二年生) こっちの世界のブリュンヒルデ
福田芳子(高校一年生) ひるでの後輩 生徒会役員
福田るり子 福田芳子の妹
小栗結衣(高校二年生) ひるでの同輩 生徒会長
猫田ねね子 怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
門脇 啓介 引きこもりの幼なじみ
おきながさん 気長足姫 世田谷八幡の神さま
スクネ老人 武内宿禰 気長足姫のじい
玉代(玉依姫) ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
お祖父ちゃん
お祖母ちゃん 武笠民子
レイア(ニンフ) ブリュンヒルデの侍女
主神オーディン ブァルハラに住むブリュンヒルデの父




