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漆黒のブリュンヒルデ  作者: 大橋むつお
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091『世田谷城址公園』 

漆黒のブリュンヒルデQ 


091『世田谷城址公園』   





 こんなところがあったんだ……



 学校帰り、芳子と二人で足を伸ばして世田谷城址公園に来ている。


 いや、足を伸ばすというほどではない。


 なにせ、豪徳寺の南隣だ。


 通学路との間にマンションが立ちふさがっているが、子どもの頃から住んでいれば、十分に生活圏……というよりも子供には絶好の遊び場だ。通学路からはマンションと重なって背景の森のように見え、豪徳寺の緑とあいまって、日常の景色であって、特に意識することも無かった。


 中世からの城跡を整備したもので、面積は世田谷八幡ほどだろうか、石垣で囲まれた防塁の跡がそこここにあって、防塁の合間を森の小道が走り、小道は枝を伸ばしてそれぞれの防塁を繋いでいる。


「子ども会の行事で来たじゃないですか、昆虫採集とか写生の会だったけど、先輩は男の子と戦争ごっこばかりやって叱られてましたよね」


「え……ああ、そうだったな。勝ってばかりなんで飽きてしまったがな」


 状況に合わせて自動生成された記憶なんだが違和感がない。


 さすがは、北欧の主神と言われた父だ。娘を放逐するにも無駄がない。


「わたしも入れてもらいたかったんですけどね、あの頃は見てるのが精一杯でしたからね」


「そうか、じゃあ、こんど学校のみんなで鬼ごっこをしよう」


「ですね、でも、出発は明後日だから、戻ってからですね」


「そうか、もう明後日なんだなぁ……」


 芳子のアメリカ行きは、半分は芳子に憑りついている女学生の霊が望んでいるからだ。


 ここに来たころなら問答無用に成敗していたかもしれない。


 名前を持たないあやかしは、ただただ危ない存在だと思っていたし、いまも、そのことに変わりはないと思っている。


 今度のことは……まあ、特別だ。


「友だちがね、お握りを落っことして、転がって行ったんですよ」


「おお、おむすびころりんではないか!」


「そうなんですよ! ころころ転がっていくと、本当に切り株のところに穴があって、コロリンと落ちて行って……」


「穴の中に白ネズミとかいたのか?」


「話し声が聞こえて、ともだちと覗いていたら先輩が来たんです」


「え、そうなのか?」


「そしたら、とたんに話し声がしなくなって、お握りも友だちのお弁当箱に戻っていて」


「そうか、なんか、いいことをしたのか悪いことをしたのか分からんな」


「いい思い出です!」


「そうか、それは良かった」


 アハハハハ


 二人で笑っていると、公園の入り口辺りで良からぬ気配がした。


「ちょっと待ってろ」


「先輩……」


 公園入口のところに国民服の男が立っている。


 少し疲れた感じで、明らかに戦時中から、このあたりを徘徊しているあやかし、あるいは妖化しかけた零体だ。


「そこを動くな! 貴様の名前は……」


『松本順二です』


「なに……」


 国民服は、たった今、わたしの頭に浮かんだ名前をシレっと答えた。


「貴様……」


『お騒がせして申し訳ありません、まだ怪しの空気を纏っているかもしれませんが、浄化の道を進んでおりますので、どうかご容赦のほどを……』


「そ、そうか、ならば行け」


『失礼いたします』


 そう言うと、国民服は横断歩道を渡って道の向こう側に行ってしまった。道の向こう側にはゲートルの学生服が待っている。


 国民服が促すと、学生服は気後れしながらもキチンと礼をして、国民服と共に東の方に去って行った。


 芳子の待っている防塁に戻って、ささやかに森林浴を楽しんで家に帰った。




☆彡 主な登場人物


武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ

福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員

福田るり子             福田芳子の妹

小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長

猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく

門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ

おきながさん            気長足姫おきながたらしひめ 世田谷八幡の神さま

スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい

玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま

お祖父ちゃん  

お祖母ちゃん            武笠民子

レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女

主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父

 

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