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漆黒のブリュンヒルデ  作者: 大橋むつお
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090『天空橋駅』

漆黒のブリュンヒルデQ 


090『天空橋駅』   





 東京に住んでいる者すべてが東京に詳しいわけではない。



 まして、世田谷の女子高生、土地勘のあるのは家と学校の周囲。あとは、たまに出かける渋谷と秋葉原くらいのものだ。


 ブァルハラからとばされて来たのだが、そういう設定になっている。親父が設定したのか、親父に縁ある神々の仕業かは分からんけどな。


 保育所以来、遠足などで、あちこちに行ってはいるが、先生に引率されてバスや電車で出かけるので、地理的感覚は、それほど優秀ではない。


 あ、むろん保育所の頃から、こっちに来ているわけではないが、こちらに馴染むにつれ間尺に合うように記憶が生まれてくる。


「カーナビで走ってると道を憶えないからなあ」


 祖父がこぼしていた。


 現役の頃は、仕事の都合でよく車を走らせていたのだが、定年前の十年ほどはカーナビを頼りにしていたので、五十代半ばから行ったところは記憶があいまいなんだそうだ。それと同じだ。




 というわけで、芳子と二人で京急に乗って、羽田を目指している。




 アメリカへの留学を控えている芳子に付き合って、空港まで行くリハーサルをしている。


「やっぱり、足を運ばなきゃ分かりませんからね」


 要所要所で足を止めて周囲の景色をスマホの地図と重ねて確認。


 ノホホンとしているようで、こういうところに手を抜かないところが芳子の長所だ。


「要領悪いんですよね、小栗先輩とかはグーグルで調べたら、あとはぶっつけ本番で行ってますよ」


「いや、大事なことだぞ。自分の力を知って準備しておくということは。それに、スマホのナビじゃ分からないこともあるからな」


「あはは、ですね」


 そう笑いながら、電車が来るまで今川焼を頬張っている。


 乗り換えの為に階段を下りたら、いい匂いがしてきて、足を止めると新規開店の今川焼の出店が開いていて、オープン特価の今川焼を買って、ベンチでパクつきながら乗り換えを待っているのだ。


「あ、来ますよ!」


「おお」


 急いで残りを頬張る。車両の中でモグモグするわけにはいかないからな。


 一人なら座れる席があったけど、芳子と二人、扉の所に立つ。


「やっぱり景色見えるのは楽しいですね♪」


「そうだな、景色も運賃のうちだな」


 芳子は、元来もの喜びする性質で、缶コーヒーを奢ってやっても、目を盛大にへの字にしてくれる。


 横に立っていても、芳子の瞳はせわしなく左右に動いているのが分かる。


「あ、次の駅は『天空橋駅』って云うんだ!」


 通過する駅の表示板を目ざとく見つけて感動を発する。


「空港にピッタリの駅名だな」


 天空といっても、空中に浮いていてファンタジーが生まれるような駅ではない。川を渡って、空港につく一つ手前の小さな駅だ。


 駅の開設に合わせて駅名を募集して選ばれた駅名であるらしいが、わたしも好きだな。


 天空とくれば、一般にはアニメに出てくる空中都市を連想するんだろう。


 わたしにとっての空中都市は、ブァルハラで、煙たい親父の顔しか浮かんでこないのだが、まあ、それもいい。




 うん……?




 芳子の姿が二重にボケる。


 あ、例の……。


 芳子を留学に急き立てたのは、自分の名前も忘れた女学生の霊だ。


 いつもなら、名前を付けて昇華させてやるが、こいつは憑いたままにしてある。


 いや、違う。


 女学生の他に、別のが憑いている。巧妙に女学生の陰に隠れているが、車体の振動でブレるので分かってしまう。


 男の霊だ……戦時中に撃墜されたアメリカの戦闘機乗りだ。


―― おい、おまえ ――


『Oh, you can see me?(え、見えているのか?)』


―― ああ、丸見えだ ――


『…………』


―― おまえは、ヘンリー・マクブライドだ ――


『Oh, yeah. ......(そ、そうか……)』


 少しだけ悔しそうな顔をすると、スルスルと芳子から離れ、過行く天空の駅の駅名表示のところから立ち昇って行った。


 駅の名前も、優れたものは、昇天のよすがになるのかもしれない。





☆彡 主な登場人物


武笠ひるで(高校二年生)      こっちの世界のブリュンヒルデ

福田芳子(高校一年生)       ひるでの後輩 生徒会役員

福田るり子             福田芳子の妹

小栗結衣(高校二年生)       ひるでの同輩 生徒会長

猫田ねね子             怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく

門脇 啓介             引きこもりの幼なじみ

おきながさん            気長足姫おきながたらしひめ 世田谷八幡の神さま

スクネ老人             武内宿禰 気長足姫のじい

玉代(玉依姫)           ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま

お祖父ちゃん  

お祖母ちゃん            武笠民子

レイア(ニンフ)          ブリュンヒルデの侍女

主神オーディン           ブァルハラに住むブリュンヒルデの父

 

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