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漆黒のブリュンヒルデ  作者: 大橋むつお
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009:『お弁当にしなくてよかった』


漆黒のブリュンヒルデ


009『お弁当にしなくてよかった』 





 踏切を渡ると道路は混んでくる。すぐ脇の駅から出てきた生徒たちが合流するからだ。



 ピークには間があるので混雑と言うほどではないけど、同じ制服の群れが同じ方向に歩いているのは、なかなかの圧だ。


「おはようございます」


 駅前には通学指導の先生が立っているので挨拶。無言で通ると感じが悪いので、される前に声をかける。


「おはよう」


 定年前の原田先生は鷹揚に返してくれる。


「おはようございますぅ」


 小さな声が続いた。先生の陰に隠れるように生徒会の腕章付けた二年生がいる。芳子といっしょに当選した子だ。


 どうやら、朝の立ち番に生徒会も加わったようだ。


『顔の見える生徒会』というのが新会長・小栗結衣の方針だ。さっそく実行ということなんだ。


 勇み足という感じがする。生徒指導の前面に生徒が出るというのは感心しない、生徒会は生徒と学校の調停者というスタンスをとるべきだ。立ち番などと言う生徒に直接圧を加えるような位置に立つと、一般生徒には学校側の組織に見られてしまうが……まあ、好きにやればいい。なにごともやってみなければ分からないことってあるしな。


 流れの中に違う制服が混じっている。近所で最寄りの駅が共通のO学園だ。


 うちもO学園も小田急線の経堂を利用する者が多い。宮坂駅よりも遠いが混雑しないし便利だからだ。宮坂駅を利用するのは東急を利用した方が便利な世田谷から来る子たち。


 

 正門には五人も先生が立っている。生徒会も三人、会長の小栗と芳子、それに一年の男子。



「おはようございます、先輩!」


 芳子に先を越される。


「ああ、おはよう」


 芳子だから鷹揚に返す。小栗さんには目礼だけ、先生たちへの挨拶は怒声でかき消された。


「ちゃんとしてんだろーが! さわんなっ!」


 男子が呼び止められてキレている。第一ボタンが外れて、髪の色があやしい。ああ……男子の生徒会。


「ボタンは閉めるとこだったし、髪の毛は天然だ!」


 こういうのは先生が対応すべきなのに、スカートの長さを指導していて出遅れてる。


「ちょっと、きみ」


 小栗さんが出た。


「んだよ! 関係ねーやつ出てくんな!」


「わたし会長、正門で怒鳴ったりしないで」


「そっちが怒らせっからだろーがあ!」


 なんとカバンをぶん回しだした。


「いかげんにして!」


 小栗さんは男子の手首をねじり上げた。彼女は空手道場の娘だ、軽いもんだろう。


「こっちの台詞だあ!」


 言うと同時に、男子は腕を逆に捩じった。


 小栗さんが一回転して吹っ飛んだ!


 あそこまで捻りこまれて逆回転させるのは人間業じゃない。


 小栗さんは、なんとか受け身で凌いだが、これは危ない。男子は腰を捻って蹴りの姿勢に入っている。


「待て!」


 声をかけてしまった。


 放っておいては怪我人が出る!


「んだ!……てめえは!?」


 振り向いた男子はギョッとした。こいつ、声をかけただけで、わたしが尋常の者でないと悟った?


「こっち、こいよ」


「ち」


 舌打ちすると猛然と突進してきた! 力の差を機先を制することで挽回しようとしている!


「フン!」


 半身にかわして、腕をとって校門の外へ駆ける。


 人目があるところは避けたい。


「てめえ……何者だ!?」


 動物的な目で睨みつける男子……こいつ、獣の臭いがする!?


「自分から名乗らない奴に言う名前はない!」


 グオーー!


 吠えた口には人と思えない牙が生えて、生臭い息を吐きだした。


「消えろおおお!!」


 ドゲシ!


 渾身の蹴りを喰らわす!


 キャイーーーーーーン!


 男子は、尻尾が二股に分かれた大きな犬になって逃げ去った。


 犬の妖か……毛をむしっておいたので、いずれ後を追うこともできるだろう。



 大暴れしたので、カバンの中がグチャグチャ。


 お弁当にしなくてよかった(^_^;)。


 


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