087『駅前散歩・2』
漆黒のブリュンヒルデQ
087『駅前散歩・2』
フィギュアの大半はアニメキャラだ。
それも、その大方が女の子のキャラだ。髪色は色鉛筆の見本のように様々で、なぜかミニスカで露出面積が大きい者が多い。
タタタタタタタタ タタタタタタタタ タタタタタタタタ
目の前を目まぐるしく走り回っているフィギュアたちも、その範疇に入っているのだが、ちょっと違う。
顔つきがバタ臭い。彫が深くて口が大きく、張り付いたような笑顔だ。
啓介流に言うと、ちょっと萌えにくい顔つき体つきなのだ。
「これって、アメコミにゃ!」
「アメコミ?」
「アメリカンコミックにゃ」
「アメリカのマンガなのにゃ、アキバの人気もいまいちニャ」
「それが、なんで豪徳寺に?」
「ニャニャ、今度は空から降って来るニャ!」
フィギュアたちが一本棒になって、それが、何列も何列も束になって豪徳寺の街を縫っていく。
幻なのは分かっている。
いくら、激しく降り注いでも、建物にも道路にも傷一つ付くわけではない。
3Dの実写映像にCGの映像を重ねたような感じなのだ。
わたしは、ヴァルキリアの戦乙女だ。飛び来る矢玉は無意識に躱してしまう。
本能的に、矢玉が落ちてこない道筋を数十メートル先まで察知して、眼前に迫った矢玉を駆けだしヒーローのように
叩き落とすようなことはなく、あたかも、矢玉など振っていないかのように進むことができる。
バシ
そういうことに飽きたのか、ネコの本性なのか、ねねこが一体のフィギュアを叩き落とした。
別の一体が立ち止まって、叩き落とされた仲間を抱き起した。
「あんたたち、ひょっとして、あたしたちのこと見えてる?」
バニーガールのそいつは、まるで、闇酒場に潜り込んだFBIを糾弾するような顔つきで指をさしてきた。
「ニャニャ!」
ビックリしたねねこが、後ろにまわる。
「あんたたち、何者?」
「あたしは20ミリ、この子は12.7ミリ。500キロとか1Tとかが起きださないように走ってるのさ。そこのネコ、邪魔しないでよね!」
「ニャ!?」
それだけ言うと、あとは無視して疾走するフィギュアたちに混じって走り去っていった。
コトンコトン コトンコトン
気が付くと、小田急の高架の上に立っていて、レールがときめいて列車の接近を知らせている。
「いくぞ、ねねこ」
「ニャ」
運転手は、前方に女子高生二人の姿をみとめて、警笛を鳴らして急ブレーキを踏む寸前だった。
あとでカメラを確認しても、なにも写っておらず。繁忙期の疲れが出たのかと思って休暇を取った。
「そんた、大戦中ん機銃弾たちじゃろう」
祖父のマッサージを終えた玉代がのどかに答える。
「かごんまも爆撃されたで憶えちょっ、機銃弾は撃ちだされたや、ほんの何秒かん命じゃっでね。化くっ者もおっかもしれんね」
「そうか、八月は終戦の月だから、そういうこともあるかもニャ」
興味薄げに冷蔵庫からアイスを取り出すねねこ。
この夏は、クロノスに振り回されて家や町内のことがとんでしまっていた。
祖父が読み残した新聞を拾い上げると、豪徳寺の北の建設現場から一トン爆弾の不発弾が見つかったと出ていた。
ちょっと気にならないでもなかったが、ねねこが差し出したアイスを三人仲良く食べているうちに忘れてしまった。
☆彡 主な登場人物
武笠ひるで(高校二年生) こっちの世界のブリュンヒルデ
福田芳子(高校一年生) ひるでの後輩 生徒会役員
福田るり子 福田芳子の妹
小栗結衣(高校二年生) ひるでの同輩 生徒会長
猫田ねね子 怪しい白猫の猫又 54回から啓介の妹門脇寧々子として向かいに住みつく
門脇 啓介 引きこもりの幼なじみ
おきながさん 気長足姫 世田谷八幡の神さま
スクネ老人 武内宿禰 気長足姫のじい
玉代(玉依姫) ひるでの従姉として54回から同居することになった鹿児島荒田神社の神さま
お祖父ちゃん
お祖母ちゃん 武笠民子
レイア(ニンフ) ブリュンヒルデの侍女
主神オーディン ブァルハラに住むブリュンヒルデの父