表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
漆黒のブリュンヒルデ  作者: 大橋むつお
81/100

081『ダイダラボッチ・2』 


漆黒のブリュンヒルデ・081


『ダイダラボッチ・2』 





 山の上で途方に暮れてしまった。



 クロノスの爺さんは居ないし、ダイダラボッチには逃げられてしまうし。


 ブァルキリアからこの異世界に来て、元の半分ほどしか力を発揮できないわたしだが、時空移動能力がゼロなのは堪える。以前、時空を超えて全国の八幡を巡る旅に出たが、あれはスクネ老人の力で八幡の煙道を使ったからだ。


 こんな海進期の縄文時代に放り出されては、元に戻るすべがない。


 が、焦っても仕方がない。


 待っていれば、一休みしたクロノスが戻って来るだろう。元々は、クロノスが頼んできた仕事なんだからな。


 名も知らない広葉樹の根元で横になる。


 リスやウサギたちがチョロチョロ現れる。どいつも令和の時代のよりも大きい。きっと縄文の気候が合っているんだろう。みんな目がクルクルしていて可愛らしい。


 そんな小動物たちを見ているうちにウトウトしてしまう。


 まあいい、クロノスも時計店に戻って休んでいるんだ……



 夢を見た。



 どこかの田舎だろう。囲炉裏を囲んで三人の子どもたちとお婆ちゃんが秋の夜長を過ごしている。


「むかーしむかーし、ここいらへんにはダイダラボッチいう大男がおったげな。身の丈こそは雲を突くようだったけんど、根はやさしいやつでな、毎朝起きてはお日様に手を合わせて、自然の恵みに感謝してから海の方にノッシノッシと歩いていったがじゃ。人の村やら、獣の住み家は気を付けて避けながらな。そいで、半日かけて海に行っては、両手で海の水をすくって口に含むと、器用に貝やら魚を濾して食べよった。そいで、貝やら魚を口に入れたまま、自分の住み家まで戻りよる。戻ったころには、口の中は貝殻と骨ばかりになっとる。途中で吐き出したら、みんなに迷惑が掛かるっちゅうんで、吐き出さんのじゃなあ。なんせ大男なもんじゃけ、そんなもんを吐き出されたら、道はふさがり、谷は埋まったり、川を堰とめたり、運が悪いと人や動物が下敷きにしてしまうかもしれん」


「やさしいんだね、ダイダラボッチ」


「そうだよぉ、そいで、住み家に戻ったダイダラボッチは、周りに人や獣がおらんことを確かめてから、プププと口の中のもんを吐き出しよる。プププってなあ」


「ププププ」


「プププ」


「「「アハハハ」」」


 ダイダラボッチの真似をして子どもたちが喜ぶ。


「んじゃから、ここいらの山の中から貝殻がドッチャリ見つかるってわけなんさ」


「それが、お山の貝塚なんだね」


「アハハ、そうさそうさ……」


 孫と婆ちゃんが暖かく笑っていると、風呂から上がった一番上の孫が腰を下ろして、こう言った。


「それは違う」


「え、どう違うんじゃ、兄ちゃん?」


「昔は、縄文時代言うて、今よりもうんと暖かい時代があって、ここらへんまで水に浸かっとたんじゃ。それで、昔の人が採った貝殻やら魚の骨を捨てたのが積もり積もって貝塚になったんじゃ」


「そんな、海がここまで来とったなんて、おかしな話じゃ」


「モースいう外人の先生が大森貝塚を発見なさって、研究が進んでな。今じゃ確かなことと認められとる。その証拠にな、貝塚からは土器の欠片や、釣り針の折れたのやらも見つかって、明らかに人のゴミダメちゅうことが分かっちょるんだ」


「ええ、そうだったんか?」


「婆ちゃんの言うたんは、迷信なんじゃな」


「迷信は言い過ぎじゃが、まあ、お伽話じゃ」


「なんじゃ、お伽話か」


「兄ちゃんの話の方が、おもしろいじゃ!」


「他にも、遺跡の話とかもあるぞ」


「聞かせて聞かせて!」


「よし、そんじゃ、みんな俺の部屋にこい」


「「「うん!」」」


 婆さんは囲炉裏の傍で一人ぼっちになってしまった。



 そうか……それで、ダイダラボッチは居場所が無くなったというわけか。



 目が覚めたわたしは、群馬県にダイダラボッチを探しに行くことにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ