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漆黒のブリュンヒルデ  作者: 大橋むつお
72/100

072『利根4号機』


漆黒のブリュンヒルデ・072


『利根4号機』 





 波しぶき……え?



 意識がクリアーになると船の上だと言うことが分かった。


 振り仰ぐと、頭上に電柱のようなものが二本のびている。振り返ると、軍艦の大砲だと分かる。


 わたしは、軍艦の前甲板の砲塔の前に立っている。


 波浪がきつく、大きな軍艦のようだけど結構揺れる。


 無意識に足腰で揺れをいなしているのは、数多くの戦場で馬を乗りこなしてきたからかもしれない。


 右舷に向かって数歩出ると、同じ15サンチの砲塔が背負式に二基……いや、二番砲塔の後ろにさらに二基。その後ろに小振りな艦橋が精悍な騎士の兜のように座っている。艦橋の後ろには演奏直前の指揮者が伸ばした腕のようにマストのヤードが張りだし、その後ろには蹲ったような煙突が真後ろに煙を吐き出し、煙の合間に後部マストに翻る旭日旗が窺える。


 艦橋や甲板のあちこちに対空・対水見張り員がいるのだが、わたしの存在に気づく者はいない。


 この艦で何かをしろというわけか……う!?



 この艦に関する情報がインストールし終えたアプリのようにクリアになった。



 昭和十七年六月五日 重巡利根はミッドウェー攻略艦隊の一艦として南雲中将指揮のもとに中部太平洋を驀進している。攻撃目標はミッドウェー島であるが、近海に敵空母艦隊を発見すれば、そちらを優先的に叩くべしとの命を受けている。


 重巡利根は、その――居るかもしれない――敵空母部隊を発見するため、索敵機を飛ばす準備の真っ最中なのだ。


 史実では、この時の利根四号機がカタパルトの故障のために出発が遅れて、この時各艦から飛びたった数十機の索敵機の中で、ただ一機敵空母部隊を発見して味方艦隊に通報している。


 しかし、通報は間に合わず、ほぼ同時に日本艦隊を発見した敵攻撃機部隊によって、空母四隻を撃沈されて、日本は敗戦に至るまで勝機を失うことになる。


 これを何とかしろというわけか?


 わたしは四基の砲塔の脇を通って、タラップを上がり艦尾の飛行甲板を目指す。


 飛行甲板には不調に気づいた飛行科の整備兵たちがカタパルトに取りつき、四号機のコクピットから操縦士と測敵手が悔しそうに下りようとしている。


 このカタパルトを直せばいいわけだな。


 ん?


 なんだ、この胸騒ぎ。カタパルトの修理だけではうまくいかない気がしてきた。


 取りあえずは艦橋に向かった方がいい。


 数千回に及ぶ戦いの経験が飛行甲板に下りることを躊躇わせ、わたしを艦橋に向かわせた……。


 


 


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