064『アイスの美味しい食べ方』
漆黒のブリュンヒルデ
064『アイスの美味しい食べ方』
『猛犬に注意』と『セールスお断り』の間、大昔の『赤十字社員章』のステッカーの上にアスクレピオスのお札を貼る。
ほら、豪徳寺駅前の明日暮医院でもらった役病退散のお札さ。
効果はてきめんで祖母のマイバッグだけでなく敷地内に根を生やし始めたコロナウィルスが絶滅した。
「だけじゃなくって、お祖母ちゃんが配ったマイバッグにも効き目が出始めてるよ!」
玉代が安堵の悲鳴を上げた。
玉代は、祖母から情報を聞いて、人にあげたマイバッグを調べて回っていたのだ。根が鹿児島の荒田神社の神さまなのでわたしには無い能力があるのだ。
お札そのものも対人ステルスになっていて、人には古びた赤十字社員章しか見えていない。
「なんで、WHOのマークが貼ってあるのかニャ?」
ねね子が掃除の手を休めて首をかしげているのが部屋の窓から見えた。
どうやらねね子に見えているようだ。
「ほっとくと、喋ってしまうかもしれないよ」
玉代が心配する。
たしかに、あのお喋り半妖には注意しておかなければならない。
「ねね子ぉ! アイスあるから食べにおいでよ!」
窓を開けて声をかける。
「おー、今行くニャ!」
箒を仕舞うと、あっという間にわたしの部屋に上がってきた。
玉代がアイス三本を持ってきて女子会になる。
「おー、さすがは武笠家! ショコモナカなのニャ!」
「ねね子も好きなの?」
「もちのろんニャ! そーだ、ねね子がウラワザ見せてやるニャ! ひるで、オーブントースターを借りるニャ!」
「オーブントースター?」
「そうなのニャ!」
「ちょ、アイスを焼いてどうする!?」
ねね子は、むき出しにしたショコモナカをオーブントースターにぶち込んだ。
「まあ、見てニャ(^▽^)/」
三十秒焼いて出てきたショコモナカにビックリした。
外側のモナカは香ばしく焼けて、中は冷え冷えのままのチョコアイス!
「う、うまか!」
「お、美味しい!」
玉代と二人で感動してしまう。
「で、あのWHOのマークはなんなのニャ?」
「あ、あれはな……まあ、食べてからだ」
女子を黙らせるのには美味しいものを食べさせるのが一番! これは漆黒の姫騎士でも神さまでも半妖でも変わりはない。
「ああ、おいしい、もっと食べる?」
玉代の提案で冷凍庫から、もう三つ取り出して、裏ワザショコモナをオーブントースターにぶち込む。
「あ、そうだ! お母さんが『こんどは、わたしが歌舞伎にご招待』って言っていたニャ」
「え、なんだそれ?」
「こないだ、武笠のお婆ちゃんにお芝居連れて行ってもらって嬉しかったから、今度はうちでご招待したいって言ってたニャ」
「あ、そう言えば先週芝居を観に行くって……」
「それって、ノーマーク。世田谷区内しかトレースしてないニャ!」
その劇場でクラスターが発生したのは、慌ててスマホで検索した十分前だった。