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漆黒のブリュンヒルデ  作者: 大橋むつお
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058『だるまさんがころんだ』 


漆黒のブリュンヒルデ


058『だるまさんがころんだ』 





 玉代の言葉はコテコテの鹿児島弁だ。



 化学の先生が鹿児島の出身なんだけど、職員室に提出物を持って行った時に、この化学の先生が「いやあ、君のは鹿児島弁じゃなくて薩摩弁だわ!」と感動した。


 鹿児島から出てきて二十年になる先生は、アクセントに癖がある程度で、文字に起こすとほとんど標準語。


「直そうて思うちょるんじゃじゃっどん、意識しちょっち言葉にならんで困っちょっ。こん頃は、逆にクラスんしたちが慣れてくれて、なんとか以心伝心じゃっで」


「それはいいことだ、お互いに慣れてバイリンガルになっとよかよね」


「あ、先生、鹿児島弁に戻ってるニャ!」


 ねね子が指摘すると「ほんなこつね!」と、先生の周囲が暖かな笑いに満ちた。




「だけどね、ねね子は思うニャ、玉ちゃんは思いっきりの美人じゃん。美人がコテコテの方言喋ってるってギャップが可愛いとかカッコいいとか思ってもらえるニャ」


 玉代がジャンケンに負けてジュースを買いに行っている間にねね子がこぼす。


「ねね子がこぼすなんてめずらしいなあ」


「何百年も猫又やってると、いろんなことがあったニャ。玉ちゃんは、そういうこと思い出させてくれるニャ」


 ねね子は、自分から身の上を語ることはめったにない。自分の事を猫又と言うのも初めてで、突っ込んでもいい話なのだが、突っ込めば真っ赤になってゲシュタルト崩壊しそうなのでやめておく。


「ねえ、あっちで『だるまさんがころんだ』やっじゃ! ひっでもねね子もおいでじゃ!」


 ジュースを投げてよこしながら玉代が上機嫌。鹿児島弁で『ひるで』は『ひっで』になるようだ。


「いこう、ねね子!」


「よし来たニャ!」



 ジュースを買いに行くと、ピロティーで退屈そうにしているクラスメートに出会ったので、急きょ『だるまさんがころんだ』をやることになったらしい。


 お嬢さんが多い学校で、子どもがやるような遊びをやる気にさせるのは、やっぱり才能だと思う。わたしたちがピロティーに付いた時には参加者は男女込みで三十人ほどになった。


 尻込みする子が二三人出た。


「ああ、男ん子てっしょは抵抗があっどね……よし、こげしよう!」


 なんと、男だけのチームを作り、玉代は男組のリーダーになった。鬼はねね子だ。


 だーーーーーるまさーーーーーんがーーーーーこーーーーろーーーーーんーーーーーだ!


 ねね子は、とてもゆっくりとカウントをとる。


 かと思うと、急に早くなったりして、緩急の付け方がなかなかに面白い。


「なんか、夜這よべをかけちょっみて」


 この時代、訛らずに言っても『夜這い』は意味が通じないだろうけど、玉代が夜這いの気分で息を潜め腰をかがめて鬼に近づくと、純情な高校生たちにも、なんとなく分かってしまい、あちこちで忍び笑いが漏れてきてしまう。


 ねね子も吹き出しそうになるのを必死でこらえて、なんとか、そのターンを終わった。


 ちょっとイタズラ心に火が点いた。


「ねえ、なんとなく分かるんだけど、実際の夜這いって、どんなの?」


 玉代に振ると、みんなも興味津々な顔になる。


「むかしん事なんじゃじゃっどん、娘が年頃になっとね、まあ十五六歳。庭に面した一人部屋で寝っごつ親はゆとじゃ。すっと、ないごてか近隣近在に噂が広まって、男どもが夜に、そんおなごん子ん部屋に忍び寄っ。何人も通っちょっうちに娘は妊娠してしまうわけど」


「うわあ」と「アハハ」が湧きおこる。


「え、とゆうと、だれが父親か分からなくならない!?」


 興味津々のK子が手を挙げる。


「アハハ、そうすっとね、親は娘に聞っんよ『可能性んあっ男はだれだ?』ってね。すっと娘へたしてしもた男たちん名前を挙ぐっわけじゃ。時に十人前後になっこともあっ!」


 あっけらかんと玉代。


 アハハハハハハハ(^O^)(≧▽≦)(^Д^)


 もう、みんなお腹を抱えて笑い転げる。笑い転げながらも「それから?」という顔をしている。


「DNA鑑定もなか時代じゃっで、娘は、男ん中でいっばん好きな男ん名前を挙ぐっわけじゃ」


 ええーーーーー!?


 ビックリはするけれど、みんな完全に面白がっている。


「そいで、そん男は、そん娘ん家に入り婿してめでたしめでたしになっとじゃ。生まれた子が、そん男ん子に似ちょらんで、他ん男に似ちょってん、文句をゆたり言われたりちゅうこっににはならん。まあ、こいが母系制社会ん婚姻んかたちじゃなあ」


 ピロティーは朗らかな笑いに満ちて、尻込みしていた女子たちも加わって楽しく『だるまさんがころんだ』を三回やって昼休みが終わった。


 たまには、こんな昼休みもいいもんだ。


 



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