055『玉代の自己紹介』
漆黒のブリュンヒルデ
055『玉代の自己紹介』
かごんまから参ってめった荒田玉代じゃ、武笠どんとは従姉妹同士で、住めも武笠どんの家で下宿じゃ。東京どころか豪徳寺周辺ん事もさっぱりじゃっで。こんあたりを頼りなか顔でウロウロしちょったら、道に迷うちょっ証拠じゃで教えてもれると嬉しか(^▽^)/。かごんまは、どけ行ってん桜島が見ゆっで、道に迷うたや桜島を見っ。桜島ん微妙な形や距離感で居場所が分かっんじゃ。東京には桜島は無かで、東京に来て、桜島んごつわたしを導いてくるったぁ、先生方を始め、こん学校のみなさんじゃて思っで。何卒宜しゅうたのみあげもす。
先生に紹介されて教壇に立ったときは、大柄で目の覚めるような美しさに圧倒されたクラスメートたちだが、玉代が転校の挨拶をすると、コテコテの鹿児島弁と持ち前の明るさと温もりに、みんなファンになってしまった。
「よろしく荒田さん、掃除当番とかで同じ班になるから、仲良くしてね!」
「こちらこそよろしゅう、住江どん」
「お昼とか、いっしょにできると嬉しいかも!」
「そんたよかど、門野どん」
「好きな食べ物とかは?」
「かごんまラーメンじゃろうか、坂東どん」
「部活とか入るの?」
「よかクラブとかあったやて思うとどん、時間がねえ、まあ、よろしゅう三好どん」
朝礼が終わると、女子たちが集まってきて質問攻めにする。もうソーシャルディスタンスもへったくれもない。
男子も興味有り気なんだけど、圧倒されて近寄ることも出来ないみたい。
コロナウィルスのため部分登校なので授業は二コマしかないんだけど、休み時間になると、噂を聞いた他の学年や。よそのクラスの子までやってきて、もう、玉代は時の人という感じになってしまった。
「でも、玉ちゃん偉いよね、いちいち相手の名前確認してるんだ」
柱の陰から様子を見ていたねね子が、ピョンと出てきて感心する。
「そうじゃないよね、玉ちゃん」
「ひっでも気ぢちょった?」
「うん、五人くらいで変だと思った」
「え、なにがあ?」
「みんな、自分からは名乗らんのじゃ。ちょっとあり得らんやろ」
「あ、そう言えばそうか!」
「みんな、自分ん名前を忘れかけちょっごたっ」
「名前を忘れるのって、古い妖だけだったじゃない?」
「わたしがこけ来たんな、わたしん休養んためだけじゃなかみてね」
それは頷ける、今朝登校途中で見かけたランニングの学生たちも、わたしひとりの手には負えなかったものな。
「玉ちゃん、ねね子、オキナガさんとこに行くよ!」
「え? お昼ご飯食べたいニャ!」
「メシは後だ」
「そんニャー!」
「ねね子どん、苗字をゆてごらん」
「え、苗字……えと……」
ねね子は、呆然と立ち尽くしてしまった。