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漆黒のブリュンヒルデ  作者: 大橋むつお
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049『高知八幡宮の末吉と膝カックン』 


漆黒のブリュンヒルデ


049『高知八幡宮の末吉と膝カックン』 





 お姉ちゃんとケンカしたがや。



 拓馬がいきゆう土佐城西高校が選抜で優勝したがやき。


 拓馬は野球部やけんろ、補欠の球拾いじゃ。ずっとベンチに座っとってバッターボックスには立たずじまいじゃ。そんなんを喜ぶのはアホじゃき。


「けんど、自分が参加した野球部が優勝したんやき、嬉しいに決まっとろーが。せやき、それを喜んでやることのどこが悪がかや!」


「未練じゃき。自分を振って城西なんか行きゆう拓馬を応援するんは未練じゃき!」


「み、美登里……」


 あとは言葉にならん、ワナワナと震えよって、これは手が出ゆうろ……思うた瞬間右頬に衝撃が来た。


「た、拓馬がサウスポーやいうて、真似せんでもええがやろ!」


 それだけ吠えると、ローファーをつっかけて家を出た。


 


 家を出て三十秒で高知八幡宮の前に来る。




 今日は、新学年の教科書受け取りだけやき、ちっくとばあ時間があるき。


 鳥居を潜って、お財布から五十円出して、賽銭箱に投げ入れて二拍手一礼。


 ほんとは二礼二拍手一礼やけんど、通学途中じゃきに略式。


 このまま学校行っては、人とかモノにあたってトラブルおこしそうやき、切り替えるんや。


『帰りに、はやいっさんお参りしいや』


 え?


 聞きなおすがあ返事はない。


 おみくじを買うと『末吉』


 末に吉いうは、いつごろの末やろうかといぶかりながら鳥居を出て自転車にまたがる。


 表通りの赤信号に捕まって、はてな?


 なんで自転車に乗りゆうがや?


 あ……自転車に乗りゆうが忘れるぐらい興奮しとったが。




 学校に着くと、早や着いとる子ぉらが城西の噂に花を咲かせちゅう。




 そやけんど、熱中はしゅうけんど、お姉ちゃんみたいに浮ついた風はないがや。


 そらそうじゃ、そうそう城西の野球部に知り合いの居る子はおらんろ、それも、城西野球部に振られるっちゅうは。


 教科書購買の次に副読本の列に回ると、急に足カックンをされる。


「キャ!」


「アハハ、美登里、隙じょきけじゃが」


「もう、小学生か」


「ねえ、城西野球部の話、聞いたがか?」


「あ、うん。めでたく優勝じゃろ」


「ほりゃ古いが」


「え?」


「じつは、優勝戦前日にな、宿舎の旅館で女湯を覗きゆうたいうて、週刊誌に載ったがや」


「え……まっことか!?」


「まっことじゃ!」




 週刊誌は今朝発売されたばかりいうことじゃ。


 お姉ちゃん、見てなきゃえいがやけど。


 淡い期待は、即否定されたが。


「もう、テレビのワイドショーでもやりゆうが(^▽^)/」


「へちゃー(;^_^A」




 教科書の入った袋の何倍も重い気持ちで真っ直ぐいぬる気持ちにもなれんがやき、帯屋町筋商店街をうろつく。


 教科書はコインロッカーに入れた、やっぱり重いし。


 どの店に寄るでもなく、中央公園に足を向けると……出くわしてしもうた。


 植え込みの向こうのベンチに、拓馬とお姉ちゃんが腰を掛けちゅう!


 植え込みを挟き、こっち側のベンチに掛ける。


『ほんなら、優勝は取り消し?』


『しょうがないろ』


『ちやな』


 何を気楽に! 覗きなんかやったら謹慎やろうが! なにをデートまがいの事をしちゅうがかや!



『やけど、男風呂の庇からなら女湯が覗けるとゆうたのは週刊誌の記者だ。みんな特ダネ欲しさの記者にのせられたんだ、のるほうもわりぃけど』


『そうじゃったが!?』


『うん、でも、ほりゃあゆうちゃならんて学校に言われとる』


『そうなが……半分以上は週刊誌がわりぃと思うよ』


『ありがとう、その言葉ばあで嬉しいよ……ほんとに、電話してくれて嬉しかった』


『だって、心配やもん。それに、拓馬自身は覗きにゃ参加しとらんて分かったし』


 え……そういうとこも補欠か。


 あとは焦げ木杭に火が付きそうながで、こっそりといぬることにした。



『な、まっこと末吉じゃったろ(⌒∇⌒)』



 神さまが声ばあで応えてくださる。


「ありがとうございました」


『美登里、おまんの末吉はまだまだじゃ』


「え?」


『教科書、コインロッカーにしはやたままじゃろが』


「あ、あ、しもうた!」


 はやいっさん帯屋筋商店街に取って返す。


 コインロッカーを開けたげに、自転車が無いことに気づく。


 教科書の重い袋を抱えて学校に戻り、改めて自転車の前かごにつきいぬるんやけど、教科書の重みでハンドルがフラフラ。結局自転車屋さんに寄って五百円でゴムロープを買うて後ろの荷台に固定した上で、安全運転でいぬる。



 ああ……なんか、さんざん。



「今度はドジっ子だったな」


「でも、神さまは、ああいう三枚目が好きニャ(^▽^)/」


「そうか……しかし、土佐弁きつすぎないか? 自分でしゃべってても分かりにくいところがあったぞ」


「あ、昭和五十年だったから、今よりも方言きついニャ」


「で、ねね子はどこにいた?」


「膝カックンをやったニャ」



 ああ、やっぱりな……。


 


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