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漆黒のブリュンヒルデ  作者: 大橋むつお
30/100

030:『ひるでの散歩・1』 


漆黒のブリュンヒルデ


030『ひるでの散歩・1』 





 ヘクチ!


 可愛いクシャミで目が覚めた。


 といっても、わたしのベッドに誰かが潜り込んでいたわけではない。


 目が覚めたら、横に誰かが寝ていたというのはラノベかアニメの世界だろう。


 可愛いクシャミは自分自身のだ。


 元の世界ではヴァルハラの戦士だったわたしには可愛げというものに縁が無かった。この異世界では武笠ひるでという女子高生をやっているが、今でも女子高生としての必須属性である『可愛さ』とか『可愛げ』というものがよく分からない。


 話し言葉は男だし、妖などを相手に戦ったら、この異世界の女子、いや、どの人間よりも強いだろう。


 しかし、見かけはロングの黒髪が良く似合う美少女なのだ。


 この異世界の美少女に対する期待値は絶望的に大きい。


 制服を着崩してはいけないのはもちろんのこと、私服もセンスのいいものを着用しなければならない。髪の手入れも怠ってはいけないし、外股で歩くのもご法度だ。なにより、日ごろの立ち居振る舞いから言葉遣いまで外見に相応しい美しさや可愛さが無ければならない……と、項目的には分かっている。


「先輩は、ちょっと男っぽ過ぎる」


 芳子に言われたのは、ここに来て間もないころ、立て続けに犬と猫の妖を打ちのめした時だ。


「こういう育ち方をしたのだ、いまさら可愛くとかお淑やかにはできん」


 漆黒の鎧を身にまとい、主神オーディンから預かった荒くれたちを引き連れて、辺境の邪神や蛮族と渡り合い、性別を超えた統率力や指揮能力戦闘力を発揮していると、こうなってしまう。


「でも、ひるで先輩の目力だけで、いろいろ被害が出てるんですよ」


「被害? 聞き捨てならんなあ、言ってみろ」


「ちょっと待ってくださいね……」


 芳子が開いたスマホの画面には、ここ三か月の世田谷区内の交通事故と犯罪の統計が載っている。


「おお、犯罪は減少しているではないか」


「その分、事故が増えてる」


「え? これが、わたしのせいだと言うのか?」


「はい、先輩の姿を見た者、悪党なら犯罪を思いとどまります。気の弱いドライバーはハンドルを取られたりして接触事故を起こしています」


「おまえ、話盛ってないか?」


「じゃ、試しに、あのカラス見てください」


「ん、あれか……」


 こちらに向かってくる三羽のカラスに目をやると、先頭の一羽が墜落して、残りの二羽は逃げ去ってしまった。


 

 ……それ以来気を付けている。



 ほら、先日も屋上で梨本明子に出くわすきっかけになった時もガッツポーズに気を使っただろ。梨本明子が直ぐに姿を現さなかったのも、芳子に言わせると「先輩をビビっていたから」ということになる。


 ま、だから、朝一番のクシャミが可愛く出たのは、ちょっと嬉しかったりする。


 嬉しさついでに散歩に出る。建国記念の祝日でもあるしな。


 門を出て表に。


 向かいの二階、一瞬だけ啓介の気配。


 あいつの引きこもりは、ひょっとしてわたしのせいか?


 瞬間思って、打ち消すと、二月とは思えない陽気の中をブラブラと散歩に出たのであった。


 


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