025:『ねね子の正体』
漆黒のブリュンヒルデ
025『ねね子の正体』
ねね子はおきながさんの眷属なんだな?
のっけに聞いてやると、通学カバンを胸に抱えて黙ってしまった。
仮病で休んだのは悪気を恐れての事なんだろう、責める気はなかったが、ちょっと意地悪してやりたくて、登校途中に出遭うと同時に質問したのだ。
ねね子も妖に違いなく、妖と言うのは容易に素性を明かすものではない。それを聞くのはちょっと意地悪。
「それは『おまえのウンコの臭いをかがせろ』と言うくらい恥ずかしいことニャ」
「な、なんだ、その例えは!?」
「ねね子は、ただのネコなのニャ」
「ただのネコが人に化けるか」
「化けるニャ、長生きすると化けるニャ」
「いったい何歳なんだ?」
「むかし、お江戸に公方様がいらしたころニャ」
「ほう」
江戸の公方様と言えば徳川将軍、その時代は二百六十年ほどになる。ざっくりしすぎているが、まあいい。
「このへんの木の下で雨宿りしてたイケメンが居たニャ♡」
「惚れたのか?」
「そーゆうんじゃニャクてえ! 分かったのニャ、もーすぐ雷が落ちるって!」
「かみなりか……」
「それで、こっちにおいでって知らせてやったニャ」
「こんな感じか?」
記憶にあるオイデオイデの仕草をしてやった。
「そ~ニャそーニャ(^▽^)」
「そこが、たまたま豪徳寺の山門だったんで、そのイケメンは豪徳寺に恩義を感じてニャ、豪徳寺のあれこれ世話をしてやることになったニャ」
「わたしも、ここに来る寸前、ネコに落雷から救われたんだぞ」
「それは、良かったニャ!」
そこまで話すと、背後に気配を感じた。
振り返ると、わたしたちと同じ制服のお下髪が立っている。
「なにか用?」
お下げは、ただニコニコと笑っているだけだ。
面と向かってみると人の気配ではない。お下げの足元には影が無いのだ。
「妖か?」
プルプルプル
お下げは、とんでもないという風に首を振った。怪異と感じたねね子は、早手回しにわたしの後ろにへばり付いている。
「そうか……おまえは高田淳子だ」
「……高田……淳子」
「そうだ、それがおまえの名前だ」
「嬉しい……やっと思い出した!」
満面の笑みを浮かべて高田淳子は通学路を正面から照らす朝日に溶けていった。
「この道をまっすぐに日が上るのは年に一回だけニャ(o^―^o)」
あっさりと済んでしまったが、奇跡に近いことをしたのかもしれない。