ギフトの実験 1
今話からは一人称でいきます
手を綺麗にする液体を塗り終わったところで、次はどんな実験しようかなぁと考えたところで、ふと思い出した。
「そういえばジャールと色々試してみようって昼過ぎに呼んでたっけ。どうせ実験するなら実験だ…あいつがいるときにするかな」
能力の話になったからまだごはん食べてないしちょうど良いから食べるか。今朝のメニューはいつものようにトーストだな。せっかくだから自分の好みのジャムでも創造してみるか。
…ジャムって液体か?試してみよう。
「えーと、なんか俺の好きな味のジャムを創造ーっと」
さすがに指定が大雑把過ぎたか。じゃあ味の想定もしてみるか。今の気分は…自然の甘さを感じるイチゴジャムがいいかな。イチゴの果肉をしっかり潰して種が気にならないように処理して、酸味を感じつつも砂糖の感じがしないイチゴの甘さを引き立てるジャム。そのままでも甘くて美味しいけど、食パンを軽くトーストしたことで生まれるサクサクの食感を消さず、小麦の香りを引き立て調和する素晴らしいジャムを。軽く焦げた茶色に食パン本来の白と対比するような鮮やかな赤いジャムを、と。
…なんか想像するだけでお腹空いてくるな。気のせいか手から甘い香りがするような?い
「うぉっと、ジャムの創造成功してる。いいね、やっぱこのギフトすっごいわ。」
しっかりパンに塗って一口齧る。想像を現物にしたような、ともすれば想像を超えてるような美味しいジャムに思わず顔がほころぶ。
「なんかすごい美味しそう。一口ちょうだい?」
隣のベティの呼びかけで我に返った。思わず夢中になるくらい美味しいが、ギフトで創造したものなので分けるのに否やは無い。チラッと今朝のことが頭によぎったが、水に流したのでチクチクと言うのは勘弁しておこう。
一口分をちぎってベティに渡す。
「ほいよ。これすっごい美味いぞ」
ベティは軽く、ありがとうと礼の言葉を返しつつ口に入れた。
「何コレ。何コレ?受け取った時は甘い香りがしたのに口に入れたらただの食パンなんだけど」
言われて思い出したが、そういえば創造したものは触って許可を出さないと消えるんだったか。思わぬところで制限が効果を発揮してしまったようだ。
「ギフトの制限忘れてたわ、ごめん。ちょっと手貸して」
手を差し出しつつ応えると、ベティも思い出したのか手を握り返して応えた。すこしイタズラするか。
「おっけ。ハイ、あーん」
「変なこと言うな!」
ぷりぷりと怒られたが素直に口にした。
「うわ、すっごい美味しい。おにぃと手を繋ぐのが必須でなければ毎日食べたいくらい美味しい」
まぁ、何が悲しくて兄妹で手をつないで食べさせないといけないんだとは思うので余計なツッコミは入れないことにした。決してこっちをニヤニヤしながら見ている母さんから逃げたわけではない。逃げたのではなくごはんの続きを食べるのだ。だから母さんそんな目でこっちを見続けないで。
ごはんを食べ終わった頃に家の呼び鈴が鳴った。母さんが対応すると、すぐに戻ってきた。
「ジャール君来たわよ」
「よっ。どうせ早く色々試したがるだろうから早めに来たぞ」
どうやらジャールが来るまでどうしようかと悩むことは想定されていたようだ。ちょうどいいからベティも巻き込んで色々実験するか。
「気遣いありがとうな。んじゃ実験してみるか」
まずは何から試すか。とりあえず触れてるっていう条件からでいいかな。服越しでも良いのか、髪や爪はどうか、向こうが透ける薄布はどうか、こっちも手じゃなくて良いのかってところからかな。
「実験は良いがまずどんなギフト貰ったのか教えてくれよ? じゃなきゃなんも言えないしさ」
「それもそうだな、すまんすまん。俺のギフトは液体限定の創造だった。細かい条件はこれから確認するしいいだろ?」
「おお、なんかすごそうじゃん! おめでとー。条件はまぁ、その通りだからいっか。まずはどんな実験から始めるんだ?」
「最初は制限にある使用対象者に直接触れてないといけないってのを試してみようと思ってる。触るのはどこでもいいのかとか、服や薄い布越しでも良いのかとかだな」
「ほう、触ってないといけないのは面倒だな。とりあえず服越しならすぐに試せるだろ。ほれ、腕触ってなんか出してみな」
そう言いながらジャールは腕をこっちに向けてきた。まだ春先なので薄くはない長袖の上着を着ているので、試すには丁度いいだろう。右手で軽く腕を掴んで左手にコップを持ち、その中に常温の水を創造した。
「ほい。普通の水だから安心して触ってくれ」
「そう言われると逆に怖いんだが!?」
そんな風に若干怯えながらも水面にジャールの指が触れた。すると、元から空であったかのように水が綺麗に消えてしまった。
「服越しじゃあダメかー、残念。ちなみに、条件の中に創造した液体で命を脅かすことはできないってあるし、怪我をすぐに治せる魔法のような液体も多分創造できるから心配しなくていいぞ?」
「それって死なない程度なら怪我する可能性あるし自分でつけた怪我を治せる確証がないってことじゃねえか!余計怖いわ!」
言い換えれば確かにその通りなので、にっこり笑顔で返事とした。呆れたようなため息で返されたが問題ないな、うん。
「まぁ、付き合いも長いし冗談だとはわかってるが、言い方に気をつけてくれよ?」
軽く注意されたがこんな軽いやりとりなんて気心知れた相手にしかやらないのは当然だろう。
「それはさておき、続きやってこうぜ」
ということでさっくり話を進めることにした。
結論から言えば、すべての部位で試したわけではないものの、実験した一般的な部位に限れば対象の体であればどこでもいいし、なんならこっちも手である必要がないことも分かった。流石に裸にならないと触れないようなところは試してないし試したくない。きっと試す機会もないだろう。
変わり種でいえば、髪の毛同士ですらオッケーだったのはすこし面白かった。ベティの提案に乗った俺たちも俺たちだが。
あと、やはりというかなんというか、抜け毛はダメだった。既に対象の一部ではないと判断されるらしい。
そして向こうが透けるほど薄い布もダメだった。肌に直接触れてる感触はあるのに。解せぬ。




