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ギフトを授かる(三人称視点)

 この世の生物には神様から“ギフト”が与えられている。それは不可能なことを可能にしたり、行動を最適化したりと様々な力を秘めている。

 ギフトを授かった時は自然と自分が何のギフトを授かったのか理解できるようになっているが、そのギフトを十全に発揮できるほど知能があるかどうかを問わないため本人が理解できない場合もある。それ故に人間は、明らかに他の同種の個体と違う動きをする動物を特殊個体と呼び、種族全体が様々なギフトを使うものを魔物と区分けした。


 また、ギフトを授かるタイミングは基本的にそのギフトに関わる行動を取ったときで、それ故にギフトを授かるまでは色々な行動を取ることを推奨されている。

 例えば、料理をしていたらある日料理のギフトを授かるとか、剣の素振りをしていたら剣術のギフトを授かる等がよく挙げられている。これらの行動から授かるギフトを人は強化系のギフトと呼ぶ。


 しかし、場合によっては思いもよらないギフトや、そもそも努力しただけでは再現できないギフトが授かることもある。これらを異能系のギフトと呼び、そういう人は15才の誕生日を迎えた瞬間にギフトが与えられる。この事からほとんどの国では15才が成人だと考えられている。

 例えば、火や風などを自在に産み出し操る魔法のギフトや、無からなにかを造り出す創造のギフト、あらゆる情報を使い手の知識の有無にかかわらず読み取る鑑定のギフト等がある。


 また、異能系のギフトは本来普通の生物ができないことをできるようにするためなのか、色々と制限される条件がついている。同じギフトでも条件は違うことの方が多く、場合によっては制限が厳しすぎてギフトをほとんど使えないこともある。




 大きな通りの端を二人の少年が歩いていた。片方は短く赤い髪に赤茶色の目で同年代で見ると少々大きい背丈で筋肉がしっかりついているために圧迫感があるが、人好きのする笑顔を浮かべていてあまり恐怖感を与えないように見える。もう片方は目にかからない程度の長さの水色の髪に青みがかった緑色の目で、同年代の少女と同じくらいの背丈でほどほどの体格、疲れたような表情をしている。


 水色の髪の少年がため息をつきつつ呟く。

「明日はとうとう15才の誕生日かぁ。色々やったのに結局ギフトを授かってないから見落とした強化系か異能系か…せめて使いやすい条件の異能系であって欲しい」


「あまり制限ないギフトだと良いな。もし面白いギフト貰ったら色々試してみようぜ」

 赤い髪の少年が明るく答えた。


「じゃあ明日実験するから昼過ぎにうちに来いよ」

 水色の髪の少年がなげやりに答えた。


「異能系だと制限つくとはいえできないことできるようになるんだから楽しみにしてようぜ。俺は楽しみにしてる」


「自分の事だと単に楽しみにってだけに思えないのがなぁ」



 そして水色の髪の少年、フリッシは赤い髪の少年、ジャールととりとめもない話をしながら帰宅した。

 フリッシの家はごくありふれた一般家庭であり、両親と3つ下の妹との4人家族だ。特に裕福でもなければ貧しくもなく、父親が働き母親が家事をしている。ほんの少しの自慢としては母親が料理のギフトを持っているので家の料理が美味しい所だろうか。


 この国ではギフトを活かした仕事にこだわる人は少ない。勿論いない訳ではないが、裁縫ギフトの料理人や計算ギフトの兵隊、釣りギフトの農家だっている。というのも、強化系のギフトは確かにその行動を補助、強化、効率化してくれるが、それが本人の好きなこととは限らないためである。やりたくないのにギフトがこうだからとその仕事に就くよりも本人のやりたい仕事を努力させつつやらせた方が誰にとっても幸せだと考えられているのだ。

 勿論、好きなこととギフトが一致してる人はギフトがない人より呑み込みが早かったりと成果を出しやすくはある。

 また、異能系の場合はそもそも条件として仕事にできるかどうかわからないというのも理由のひとつに挙げられる。



 夕食を終えた後、フリッシはどんどん落ち着きをなくしていった。椅子から立ったり座ったり、部屋の中をうろうろしたりとじっとできないでいる。両親はそんなフリッシの気持ちを理解し、微笑ましく見ていたが妹は容赦がなかった。


「おにぃ、邪魔」


 フリッシはすごすごと二階の自室へ入っていった。




 ただ待つのも落ち着かず、かといって音を立てたら家族に迷惑がかかるだろうと考えたフリッシはベッドに入って寝ようとした。しかし緊張からか全く寝付けず、とても長くゆっくりに感じる時間をベッドで過ごし、結局ベッドの中でギラギラとした目の中日付が変わり誕生日を迎えた。

 その瞬間に、フリッシは自分のギフトを把握した。



 ギフト『創造』

 条件

 ・創造できるのは常温常圧下における液体だけである。成分等の詳しい知識は不要である。

 ・創造する液体は周囲の圧力と同圧で、温度は融点より高く沸点より低ければ任意に変更できる。指定のない場合は周囲の温度と同じになる。

 ・創造する液体は手から出る。この時、自身は触れようとしなければ手に付かない。

 ・薬を創造することは可能だが、死者を蘇生させたり寿命を伸ばしたりするものは創造できない。また、このギフトで創造した液体は生物の生命を脅かすことはできない。

 ・創造した液体は自身か、使用対象にしている者にしか使用できない。使用対象者は一名のみで、いつでも自由に変更できるが直接対象者に触れている必要がある。

 ・創造した液体は使用対象者でない第三者が触れたら消失するが、自身か使用対象者が使用した液体は第三者が触れても消失しない。



「条件が多いが…わりと緩い方か?とりあえず明日詳しく実験するとして、今は眠れる液体でも創造して無理矢理にでも寝るか」

 フリッシは上を向いて口を開け、手から睡眠薬を創造しようとした瞬間に何かに気付いたかのように止まった。


(あれ?このまま睡眠薬作って飲んだとしたらいつ眼が覚めるんだ?ギフトに命を脅かすことができないってあるから死ぬことは無いだろうけど、効果が切れずに死ぬまで眠り続ける可能性はあるのでは? …何かで実験してから試すことにして今日は落ち着いて寝ようか)





 ギフトを手にした興奮からか中々寝付けず日がのぼる少し前にようやく眠れたフリッシだが、朝は平等にやってくる。


「おにぃ、さっさと起きて!!」

 フリッシの耳許で妹、ベティが大声で呼び掛けた。普段ならここまでされずともフリッシは自力で起きてくるが、さすがに寝付けたのが遅すぎたのか中々起きてこないので母、ケイティがベティに起こしに行くように頼んだのだ。

 ただ、大声で叫ばれても起きないのはベティもさすがに予想外だったようでどうしたものかと困ってしまった。


「起きない方が悪いよね、うん」

 そう呟くと、拳を握りしめ少し加減してフリッシのお腹に振り下ろした。


「ふぐぅっ!?」

 言葉にならないような苦悶の声をあげフリッシは目を覚ました。いや、覚まさせられた。


「おにぃ、おはよう」

 ベティはにっこりと挨拶した。なんとなく不機嫌さを感じたフリッシはひきつった笑顔でなんとか応えた。


「お、おはよう…もう少し優しく起こしてくれると嬉しい」


「それじゃ起きなかったんだからおにぃが悪い。嫌ならちゃんと声だけで起きようね。というか寝坊すんな」

 色々と言い訳は思い付いたが、機嫌のよくない妹に下手に反抗してもひどく言い返される未来が予想されたのでフリッシはおとなしく口をつぐむことにした。


「あ、そうそう。おにぃ、成人おめでとう。良いギフトもらった?」


「ありがとう。ギフトは結構良いもの貰ったと思うけど、細かい条件とか確認する実験したいところかな」


「へぇ、どんなのだったの?」


「下に母さん居るだろうし、同じ説明することになりそうだからまた後でな」


「んー、まぁいいか。じゃあ早く下に来てね」

 そう言い残してベティは一階に降りていった。


 着替えてから一階の洗面所で軽く身支度を整えたフリッシは、朝食をとりにダイニングへ行った。


「フリッシ、おはよう。それと成人おめでとう。今日は朝がゆっくりなのね。寝付けなかった?」


「おはよう、ありがとう。やっと貰えたギフトが嬉しくてね、中々眠れなかったんだ。」


「で、おにぃ、どんなの貰ったの?」

 聞きたそうにしていたベティがすかさず口をはさんだ。


「創造だった。条件はわりと緩い方かな?」


「どんな条件?」

 ワクワクした顔でベティが聞いてくる。


「大雑把に言えば作れるのは液体ならほぼ何でも良いらしい。んで他にも」


「なんでも!?なにそのすごい緩いの!良いなぁ!」

 最後まで聞くより早く驚きの声があがった。ケイティも声には出してないものの驚いている。


「まぁ、作る方じゃなく使う方で少し制限ついてるけどな。簡単に言えば自分と自分が触ってる一人にしか使えない。」


「それでも結構緩くない?すごいじゃん、おめでとう」


「ありがとう。んで、色々試してみたいんだけど出して欲しいものとかある?」

 軽い気持ちで尋ねたらケイティの方から声がかけられた。


「それなら例えば手荒れのクリームとか出せる?家事をしてるとどうしても荒れちゃうからねぇ」


「試してみよっか。母さん手出して」

 ケイティの手を包むようにフリッシの手で覆い、手荒れを治しつつ潤いを保ち手荒れを予防できる液体を想像して創造する。


「あ、なんか気持ちいい。なんとなくあったかい気がするわ」

 効果が出てるかは見えないが、手触りが変わりしっとりぷるぷるしてきたので二人にはすぐに成功だとわかった。また、創造した時になにかを消費したような感覚がなかったので使い放題使えそうなのはフリッシにとってとても嬉しい結果になった。そして対象者に指定するのは発声したりする必要もないこともわかった。

 発動時に対象者だと強く考えていた訳でもないので、自然に意識を向けるだけで対象者に指定できることがわかったのも収穫だった。


 ケイティの手がすっかりキレイになったのを見て、ベティはこれからのことを思い兄に少し同情した。なにせ荒れてたのが治っただけではなく、潤いやしっとりさがみてわかるほどに変わったのだ。フリッシは気付いてないが、女性なら見てわかるし羨ましくもなる。

 つまり同じことを周りの女性、特に家事をこなすメイドや主婦は強く求めるだろう。もしこれが手だけでなく身体中に効果がでるなら更に増えるかもしれないとまで考えた時にふと思った。


(身体中を同じようにってことは身体中をおにぃに触られるってこと? …うん、それを望む人はきっとそんなには居ないよねぇ。おにぃのことが好きならともかく、そうでもないなら手だけで終わるかな)


 最低でも手にはやってくれと集まるだろうことはベティの中で確実視されているようだった。

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