第二章 「イドラの大釜」
キリアはミーファとリアラとともに目標としていた北の山を越えた。先ほどの戦闘後は、イドラと遭遇することがなかった。
地図でミーファが示した領域に踏み込んですぐに、とても濃いイドラ・アドミレーションを感じた。それに当てられて気分が悪くなり、動けなくなる。頭痛、めまい、四肢のしびれ、気持ちの落ち込み、不安、幻聴。この状態ではとてもじゃないが作戦行動はできない。キリアはアイドル・アドミレーションを薄く放出し、体に纏う。ミーファとリアラも同じように対処した。気分の悪さはほとんどなくなったが、不安な気持ちだけは、心にこびりついていた。
このイドラ・アドミレーションは北の方角から流れてきているようだった。身体に自覚症状が出るほどの濃いものが充満している場所は初めてだった。この先には確実に、わたしの見たことがないものが待っている。敵の本拠地レンヌ・ル・シャトー、または、大釜と呼ばれる場所があるに違いない。キリアが怖い物見たさと任務達成への期待感に浸り、先へ進もうと言いかけたとき、ミーファがキリアに提案した。
「キリア、ここが限界点じゃないか? いったん、あちら側の山のふもとまで引き返そうよ」
キリアは、現状とチームの力を見定めてミーファに答える。
「確かに、この領域は異様だ。しかし、この先にある大量のイドラ・アドミレーションの正体だけでも見極めよう。それだけならば、成し遂げる余力はある」
「それは無理をしていないか?」
じっとキリアの顔を見つめてミーファが問う。恥ずかしくていたたまれず、キリアは思わず顔をそむけてしまう。
「ああ、無理なんかしていない」
「わかった。もう少し進もう」
キリアはミーファの言葉にうなずき、偵察方針の変更を告げる。
「よし、この先の大量のイドラ・アドミレーションを感じる領域を確認した後、撤退する」
キリアはミーファに目で確認する。ミーファは不安や心配を隠せない表情でうなずく。ミーファはまだ納得できていないようだった。
キリアたちは、さらに先へ進んだ。
次第に景色が変わってきた。空一面が真っ黒な雲に覆われていた。まるで、イドラ・アドミレーションでできているようだった。雲を通って大地に降り注ぐ日の光は偏光されて、日の沈むころの西の空のように紫色をしていた。そして、紫の色の光が照らす大地は、地獄の入り口だと言われれば信じてしまいそうな光景だった。
霧のようなイドラ・アドミレーションが領域中に漂っている。ねばりつくような空気の中を歩くのはとても不快だ。周囲を見渡すと、視界が開けている。これは、辺りにある樹木に葉がないからだ。光合成をあきらめて枯れてしまったのだろうか。土は、からからに乾いていた。握っても固まらず、指の間からさらさらと落ちていく。草花も全く見当たらない。砂漠化の一歩手前のような環境だ。
手近な樹木に発信器を取り付けた後、キリアたちはイドラ・アドミレーションが濃くなる方向に移動を続けた。キリアも他の二人も目の前の光景に圧倒されて、話すことができなくなった。途中、小動物の形をした獣型イドラがキリアたちの前を横切った。警戒したが、そのイドラからは敵意を感じなかった。静かな空間に乾いた土を踏みしめる音と砂煙が充満する。その中から、ミーファが異なる音を聞き分けたようだ。
「川の流れる音がする」
「どちらからだ?」
キリアがミーファに尋ねた。
ミーファは北東方向を指さし、「あっちからよ」と答える。
「水の近くならば、人間が住んでいるかもしれない。敵の本拠地の可能性がある。行ってみよう」
キリアたち三人は北東の方角に向きを変える。敵本拠地だった場合を考えて、一層の警戒態勢で進む。進んだ先で、キリアたちは川を見つけた。幸か不幸か、敵の本拠地は見つからなかった。キリアたちは分かれて川の周囲を探索する。
その川は液体化したイドラ・アドミレーションが流れる川だった。真っ黒な液体が地形に沿ってとうとうと流れている。目の前で小魚が跳ねた。その小魚は魚型イドラだった。川のほとりには大小さまざまな虫型イドラが這いまわり、その川の周辺だけは、植物型イドラが生い茂っていた。
まるで、イドラの世界だ。それは、イドラが存在することが普通である世界だった。あまりに日常から離れすぎている。キリアは自分が異世界に迷い込んだかのような現実感のなさと戦っていた。この異世界に三人しか人間がいない孤独。自分を強く保たないと、圧倒されて動けなくなってしまう。
キリアは川面を覗き込んだ。透明度は全くなかった。その代わり、今朝、洗面所で見た鏡のように、自分の顔が映り込んだ。自分の顔は不安と恐怖を浮かべていた。自分の顔をこれ以上見たくなくて、顔をそむける。きっと、この異様な環境に対してのものだ。おじけづいている場合じゃない。わたしは、なんとしてもこの任務を達成するんだ。
その後、キリアは川下の方をじっと見つめる。この先は何があるのだろう。より大きな川か、海か、それとも湖か。
ミーファとリアラが戻ってきた。キリアはミーファとリアラの方に合流する。
「ミーファ、近くに人間はいそうか?」
「いや、いない。人間の生活の痕跡は一切ないよ」
「リアラはどうだった?」
「アタシも同じ」
期待が外れて、全員がしばし沈黙する。雰囲気を切り替えるように、キリアは自分が気づいたことを二人に話す。
「このイドラ・アドミレーションの川なんだが、流れの先には何があるのだろう」
リアラが答える。
「何って、そりゃあ川か、海か、湖か……だな。それがどうしたんだ?」
キリアは川下を指して言う。
「全く根拠はないんだが、この川の流れつく先に、液体化したイドラ・アドミレーションが溜まる場所があるのではないか? そして、溜まる場所なら大釜と呼ばれそうだと思ったんだ」
リアラは驚きとともにキリアに同意する。
「確かに、それなら大釜と呼ばれるもの納得できる。」
キリアはうなずき、再び達成目標を更新した。
「この川下にある場所を確かめる。これが本日の最終目標だ」
「了解!」
川の流れに沿って、移動を続けた。
途中で、水生動物の姿をしたイドラの襲撃があったが、難なく切り抜ける。
川幅が太くなり、液体化したイドラ・アドミレーションの流れが速くなってきた。
前方を見ると、川とそのほとりの道が途切れていた。
水が落ちて、水面にぶつかるような大きな音が聞こえてくる。
ミーファが「あの先は滝だ!」と走りながら大きな声で言う。
ここまで前方に見えていた、大地が盛り上がり反り立っている壁のおかげで、遠くまで見渡せなかった。ようやく向こう側が見える。滝になっているということは、あの先は断崖絶壁になっているのだろうか。キリアはこのときだけは先の光景が見たくて仕方がなかった。あの先には何が待っているのだろうか。
道の終わりまで走り切り、そこで見た光景は、キリアの想像をいくつも越えていた。
そこは、大釜という名にふさわしい場所だった。
反対側のふちが霞んで見えないほどの巨大なクレーター。
円周上のあらゆる箇所からここと同じように滝が流れ落ちている。
どれも液体化したイドラ・アドミレーションのようだ。
それが流れつく先は、クレーターの底にできた、小さな街がそのまま入る巨大な湖だった。
湖の周囲には植物型イドラが生い茂っている。
そこから飛び立つ大量の鳥型イドラ。
水辺で群れを作って休憩をしている草食動物の獣型イドラ。
それを追い回す肉食動物の獣型イドラ。
そして、湖の中には、幻想世界の生物を模して生まれる「神話型イドラ」である二匹のドラゴンがくつろぐように水浴びをしていた。
キリアたち三人は、声を出せないほど驚き、目の前の、自然の神秘を感じさせる壮大な光景に、絶望していた。
「こんな場所があるなんて……信じられない」
リアラはその場にへたり込む。
「ドラゴンが二匹も……、それに、あのイドラの数。ワタシが感じた『数多くの大量のイドラ・アドミレーション』は、ここのことだったんだ」
ミーファは、無防備に座るリアラを強引に伏せさせる。
キリアも自分の腕と脚が震えるのを感じた。しかし、今度のは武者震いではない。本当の恐怖からくる震えだった。さっきまで抱えていた不安は圧倒的な恐怖で塗り替えられた。
「二人とも、ここから左に回り込んだ場所に植物型イドラが少ない丘があった。そこに移動しよう。そこで、この『イドラの大釜』の写真を撮り、データを収集したあと、撤退だ」
キリアは二人に立つように促す。ミーファは即座に「了解」と応える。思考停止していたリアラも、すぐに正気に戻って「了解」と応える。
キリアたちは移動を開始した。
キリアたちは小高い丘に登り、丘の頂上からイドラの大釜の光景を見下ろしていた。その湖は、どこから見ても本当に大きくて、にわかには信じられない光景だった。
キリアたちは三人で手分けしてイドラの大釜の撮影とデータ収集を始めた。
キリアはデータを集めながら、どれだけイドラを退治しても、減らない理由がわかった。こんな場所があれば、イドラは無尽蔵に生まれてくるだろう。たった今、湖の中から獣型イドラの群れがぞろぞろと陸に上がる光景を目撃した。
キリアがそんな思考を巡らせながら、イドラの湖面を見ていると、湖面に何か映像が映っていることに気づく。何だろう。その映像を理解しようとじっと見つめていると、その映像から目が離せなくなってしまった。そして、次第に視覚以外の全ての感覚情報が遮断され、まるで、夢を見ているような感覚におちいる。その夢の内容は、湖面に映っていた、キリアが小さいころの映像だった。自分の視界の真ん中ににいる女性。それはわたしにとって大切なことを教えてくれた恩人だ。
……。
わたしにとって、大切なこととは何だっただろうか? 恩人とは、誰だっただろうか? どうしても、思い出せない……。
目の前の大画面いっぱいに、トップアイドルのマリアが歌い、踊っている。スポットライトを浴びて、爽やかな汗と充実した笑顔を浮かべて、きらきら輝いていた。
キリアは、アイドルのこれほど生き生きした表情を初めて目撃した。大きな会場が狭く感じるほど、ステージを縦横無尽に駆け回り、オーディエンスとの距離も近く感じた。
キリアは、経験したことのない感動を味わっていた。その感動は、大きくて複雑で、理解できなかった。だから、大きく目を見開き、少しも逃さないよう、食い入るように見つめていた。
「マリア・レイズのライブ映像、買ってよかった!」
隣でいっしょに映像を観ている■■■先生が興奮していた。キリアは、先生の横顔を覗き見る。映像の中のマリアと同じように、きらきらした笑顔をしていた。それを見て、わたしも、わくわくしてきた。
「どう? キリア。マリアのライブ、すごいよね!」
「はい! わたし、アイドルのライブ、初めてです。こんなに迫力があるんですね!」
「そうだよね。迫力あるよね! この迫力はマリアだから、かもしれないな。他のアイドルじゃ、こうはいかないかも!」
「そうなんですか? 何て言えばいいんだろう……。マリアからは、自信? かっこよさ? みたいなものを感じます」
「自身やかっこよさか。キリアはそう感じるんだね! 後でいっしょに話そうか」
ライブが次の曲に移る。リズムの良い曲だった。その曲を聞くやいなや、■■■先生は、突然、話題を変える。
「あっ!この曲の振り付け、あたし踊れるのよ! 今日のレッスンで教えてあげるね」
「はい!」
先生は、がまんできないのか、座りながら上半身だけで踊り始めた。わたしはそんな先生を見ていると、すごく楽しい気分になる。そして、同時に心から安心できる。
楽しいのに、安心する。
ふふっ、何か変な感じだ。でも、ずっと感じていたい。これが普通になったら……。
ああ、いつまでも、この時間が続けばいいのに……。
どすっ!
「うっ!ふぅっうぅ……」
しかし、キリアは聞きなれない音と静かなうめき声を聞き、目を覚ます。
過去の優しい思い出を、当時の状況そのままに再体験していた。ここが過去か、現在かがはっきりせず、ぼんやりした状態で自分の左隣を見た。
そこには。
黒い大剣で胸を刺し貫かれたリアラが立っていた。
リアラは苦悶の表情で、私の方を向く。
「ごめん、ドジっちゃったわ……」とかすれた小さな声を漏らす。
後ろからミーファが「リアラ!」と悲痛な声で叫ぶ。
黒い大剣がリアラの胸から引き抜かれる。
どさぁっ。
リアラが地面に力なく無造作に倒れる。
その黒い大剣を持っていたのは、黒い甲冑を身に付けたイドラの騎士だった。
その騎士は、凄まじいイドラ・アドミレーションを放っていた。
これまでのイドラとは比べ物にならないほどだった。
キリアとミーファは即座に身体を反転し、輝化して戦闘態勢を整える。
黒の騎士は、キリアとミーファに向き合う。
「ようこそ、イドラの大釜へ。歓迎するよ」
黒の騎士は人の言葉をしゃべった。
この黒の騎士は、「人型イドラ」だった。
キリアは、目の前の人型イドラである黒の騎士と対峙する。どう動くのか目が離せない。
人型イドラはこの領域で散々遭遇した野生のイドラとは決定的に異なる特徴を持っている。それは、読んで字のごとく、人間の形をしていること。次に、そのイドラは言語を理解しており、会話ができること。そして、人型イドラは自然発生せず、特別な方法で生まれることだ。
「まず、あたしから名乗ろうか。あたしの名前はデュラハンだ」
突然、目の前の黒の騎士、デュラハンが積極的に話しかけてきた。キリアとミーファは警戒して何も返すことができない。
「あたしは、マリアから産まれた『名づけられた子ども』の一人だ」
そう。これが人型イドラの生まれる特別な方法だ。敵組織の首魁、マリア・レイズがイドラを身ごもり、彼女の胎から産まれるのだ。
デュラハンは大剣を鞘に納め、さらに話を続ける。
「あたしの任務は、イドラの大釜の防衛だ。三ヶ月ぶりに大きなアイドル・アドミレーションを放出するアイドルが、ここに迷い込んだことがわかった。だから、急いでここに来たんだよ。あたしの見立てじゃ、お前たちは実力者だ。ぜひ、闘っておきたいと思ってな。これまでの奴らとは比べ物にならなそうだ。ふふっ、楽しみだ」
デュラハンの顔は、兜に付いたバイザーで隠れ、どんな顔で話しているかはわからない。しかし、凶悪な笑顔で威圧するような話し方をしているのだろう。
キリアはミーファに目配せをする。ミーファが小さくうなずく。次の瞬間、ミーファが倒れたリアラを介抱する位置に、そしてキリアはその二人をデュラハンから守る位置に立ちふさがる。
キリアはデュラハンをにらみつけ、腰を落とし、戦闘態勢になる。デュラハンはまたしても饒舌にしゃべりだす。
「隙だらけだったので、つい、手が出てしまった。なぜ、おまえたち『白のアイドル』は、イドラの大釜を見ると、みんな呆けたように意識を失っているんだ? あたしたちイドラは、そんなことにはならないんだが……。ああ、そういえば、あたしたちの組織の『黒のアイドル』もイドラの大釜を見ると、ぼうっとして動かなくなるな。アイドルだからなのか?」
デュラハンの言い訳のような言葉に怒りが込み上げる。
この人型イドラが言うように、わたしたちは白のアイドルと呼ばれる。白のアイドルがイドラとの戦闘で、聖杯の中のアイドル・アドミレーションが尽きたあと、大量のイドラ・アドミレーションの中に長くさらされると、聖杯をイドラ・アドミレーションに侵されて、「イドラ化」してしまう。そのイドラ化には段階があり、その最終段階は黒のアイドルとなることだ。
黒のアイドルになると、これまでの人格は崩壊し、別人のようになり、これまでの生活圏から姿をくらまし、いつの間にか敵組織のノヴム・オルガヌムに所属しているそうだ。そして、組織の一員として、世界に混乱をばら撒くようになる。
「ミーファ、リアラの状態は?」
キリアは小さな声で、祈るように尋ねる。ミーファが、はっきり手短に報告する。
「大丈夫、イドラ化は第一段階まで。治療可能だよ」
キリアは「良かった」と声に出して安堵する。アイドルが、アドミレーションによる攻撃で身体に傷を負うことない。その代わりに聖杯に傷を負うことになる。アイドルは心を賭けて闘うのだ。
そして、こちらも手短にミーファに命令する。
「ミーファ、リアラを連れて撤退して! リアラが優先。この場所のデータは、第二優先だ」
ミーファからの返事がない。迷っているのだろうか。キリアはもう一度促す。
「ミーファ! 早く!」
「キリアは? キリアはどうするの?」
「わたしは、ここにいる。このデュラハンを足止めする」
ミーファがリアラを背負うのを横目で確認する。
「気を付けて」
キリアがミーファにそう伝えると、ミーファもキリアに「そっちもね。ちゃんと追いついて」と応える。
キリアは、ミーファにうなずき、自分の長剣を抜く。
そして、もう一度デュラハンをにらみつけたあと、彼女に向かって突撃する。
デュラハンが大剣を抜き、キリアの突撃に合わせて、剣を振りかぶる。
ぎぃん!
火花が散り、低く重い金属音をさせて、長剣と大剣がぶつかり合う。
その間に、ミーファがリアラを背負い、全力で撤退を開始した。
デュラハンはミーファの撤退を妨害する気はないようだ。
キリアは、デュラハンと鍔迫り合いを続ける。押し負けないように歯を食いしばって剣を握り、体全体で押し返す。
「おまえが残ったか。あたしにとっては、良い状況だ」
「何が、ぐぅっ……、良い状況、なんだ?」
キリアはデュラハンに対して、初めて反応する。体全体に力を入れているため、上手くしゃべれなかった。
「ふふっ、ようやくしゃべったな。おまえは他の二人よりも明らかにアドミレーションを多く放出している。そして、聖杯も深いようだ。どうせ闘うなら、一番強いやつと闘いたい。だから良い状況なんだ!」
デュラハンからぐぐっと剣を押し込まれる。キリアはその力を利用して、自分の剣を押し、反発する力で後ろに飛び退る。デュラハンから距離を取った。
デュラハンは大剣を下げ、片手で兜のバイザーを上げる。彼女の素顔が見えた。
キリアは、それを見たとき、どきりとした。
今まで、人型イドラは何度も見てきた。人型であるのは姿かたちだけで、顔は人間のそれとはまったく異なっていた。「目、耳、鼻、口のようなものがついている部分」といってもよいものだった。
しかし、目の前にいるデュラハンの顔はまさしく人間だった。薄い灰色の肌、兜の端から覗く真っ黒で艶を消した髪、三白眼で淡い紅の瞳と大きな口を持っていた。
まるで人間。どこで見分けるのか、わからなかった。キリアはじっとデュラハンの顔を見つめていた。
「何を驚いているんだ? そんなにこの顔が珍しいか?」
キリアは焦って視線を外す。デュラハンがからかうように笑う声が聞こえる。
このままでは、全てが彼女のペースになってしまう。キリアはデュラハンの実力を計り、これからの戦術の検討を始める。
先ほどの鍔迫り合いで、デュラハンはキリアがこれまでに出会ったどのイドラよりも強敵であること、その実力はイドラの大釜で見た神話型イドラをも上回ることを理解した。
わたしは彼女に勝てるだろうか。
デュラハンの出現で、これまで抱いていた成功するイメージが払しょくされていく。どれだけ楽観的に考えても、今までと同じような心になることはなかった。