数年前に書いたやべえ作品
小春日和の某日。
「いっけな〜い。遅刻、血黒、治国〜」
私は佐知千紗。華の小学二年生!
いけない、今日はいつもに増して遅れているんだ。このままじゃ先生に恫喝されちゃうよ。
私の住んでるマンションと目と鼻の先、目くそ鼻くそに私の通学する学校がある。
これなら絶対に遅刻しないね!
大嘘吐きました。今現在私の状態が鬼畜遅刻魔ロリでした。
居住地と学校が近い輩は何処の田舎でも遅刻するのは一般常識である。
あっ、彼処の黄金テカテカデコレーション眼鏡が特徴的な女性は……。
「おーい。糞ゴリラ教師ー!」
「遂に出てくる気になったか……。既に四時間の遅刻だぞ。何してたんだ」
やはり糞ゴリラだ。もう言われ慣れてて、悪口に全くの無反応ムハンマドである。
「早くしろ。今日は運動会で、皆が精一杯頑張っていたぞ。特に、50メートル走の攻防戦は紙一重で、私達のクラスが勝利を収めて……、って消えた……」
今思い出したけど、今日は運動会の日だ!
この学校の運動会は学年対抗で、確定申告並に確定で十中八九、低学年は勝てません。身体的能力の差が有り余りすぎる。仕事しろよ。
しかし、こんな出来レースにもこの無常の世の真相を存じず、純真無垢な子供達は無邪気にひたむきに走り踊るのである。私が言うことじゃないけど。
しかし、周りを見渡ても人っ子一人グラウンドを走っていない。それどころか校庭周りの廊下で皆が瘴気を漂わせながら食事を取っている。
この陰鬱な雰囲気に呑まれると、視線を彷徨わせるだけで悪寒が脊髄を逆撫でする。
彼らは箸を銜えながら、他学年の生徒にまるで畏怖の念を植え付けるかの如く睥睨する。
譬えるならば、無料大型アプデが到来したPCゲームのようなものだ。畢竟、有料DLCなんぞに頼らずとも、ゲームを贅沢三昧遊び惚けることなど可能なのである。再三だが、一度金を貢いだゲームに何故課金アゲインしなくてはならないのだ。
「これより、昼の部。学年対抗綱引きを開始する。飯を喰っている奴は即座に排水溝へ廃棄しなさい。躾がなっていませんね」
「はーい!」
否、それは倫理観道徳的に考えて、いかんでしょ。何言ってんのよ、糞ゴリラ。
笑顔でのたうち回り、弁当の中身の具材をお釈迦にする子供達を眺めるのは何の飾り気もなく悲しいよ。野菜を育てた農家、カウ、ピッグ、鶏、フィッシュ。全ての食材に贖罪をしなさいよ。
悲しい悶着が私の脳漿を泳ぎはしゃぐ。もうこの死面には苦笑するほかない。
辺り一帯を一瞥すると、既に全校生徒が一致して、校庭に集っていた。
「よーいドン!」
糞ゴリラの呼び声で皆が一斉に空を仰ぎ、おっせはっせの掛け声で綱を引く。
だがしかし、
「……の合図で引き始めろよ」
「ややこしいことをするな!」
全校生徒合致の全力ツッコミである。因みに私も承知の上で、混ざっていた。
綱引きだというのに、口から放つ号砲が徒競走のものと同一なのは、殊更おかしいだろう。うんこ!
今日の糞ゴリラ眼鏡は運動会の影響か、見事に浮かれきっている。いつもの些細な悪戯にひたすら全力で膝蹴りを加える屑な糞ゴリラに戻ってくれたら一円あげるわ。
「ふざけてはないぞ。それでは始める、よーいドン!」
皆が一斉に力瘤をつくり、全体重を後ろへかける。さながら伝説の傭兵の如し。
最近発見したのだが、私って実は男なのかもしれない。
物事には何にでも御膳立てが必要不可欠だ。今まで親に自分を只の生娘と信じこまされていたのは、この世の道理に沿った道標なのかもしれない。くもないか。
「優勝、二年生チーム!」
この学校の校長が空前絶後の叫びで戦績を発表する。
この無常の世について惚け耽っていた私と違い、真剣に勝負を切磋琢磨していた彼らには敬意を払うべきであろう。
教室に戻りました。
「おい、佐知! お前が遅刻しちまったせいで、優勝しちまったじゃねえか。どう落とし前つけんだよ、おい」
おや、委員長の楠さとし君じゃなイカ。さながら狐目のような吊り目に豚鼻が特徴的な好青年だ。
彼は七つの大罪の内の一つ、憤怒のスタンドを纏い私に近づいてきた。
「否、優勝できて何故憤慨なのかしら? 逆に遅刻した件について、褒め称えてもらいたいまである」
周りの怨嗟のレーザービームが傷口に沁みる。やはり私が遅刻するのはまちがっている、とでも云いたいのだろう。超絶怒濤の矛盾が双眸に突き刺さって、視界が暗闇の他に何も無い。
私は赦しを乞うことにした。
「ごめん、だなんて云えば君達の憤りモードは解除されるのかな? 畢竟、この無常の世は私を中心、『核コア』として廻っている」
華時雨はとどまりを知らない。
桜は春になると咲き誇り、夏になると美しく姿を光へと消し去る。
瞳に映る郷愁は友へお囃子の語り部となり、永遠と家宝として受け継がれる。
虱と弘法は、伝染す人と筆を選ばない。
自己心酔に浸っていると、周りの反応は意外にも険しかった。
「厨二病乙」
酷くね? 私って真摯な態度が一部の下界隈で有名なんだぜ。
「もうお前は最低だ。ビッチだ、アバズレ、ヤリマンだ。卑屈、低俗、低脳ババア」
毅然としている楠は尚も暴言の槍を投げ止めない。そんなに人を嬲り虐めて楽しいか。嗜虐趣向のサドスティック下衆野郎め。
言い訳がましいが己という神に従ったのみ。
「言っておくが、最低でビッチでアバズレで
ヤリマンで何が悪い? お前らに損得があるのか。そういうのを傲慢というんだぞ。うんこ!」
「此奴認めやがったぞ! ハハッ。変態は帰ってくれないかな。もう君を僕らの仲間だと認めない」
えぇ……。見放し確定かよ。最初の想定通りなのだろうな。私という頭脳明晰、天才美少女が邪魔でつい慟哭してしまったのだろう。
周囲からは「キモっ」「引くわー」「おぇええええええええ」「吐くのはないわ」「それは問題外、蚊帳の外」という主に私と吐いた奴に対する批難が浴びせられる。
しかし、私のとある衝撃発言により、状況は冠履顛倒となり、市場は反落する。
「この学校は私のお父さんが経営している。畢竟、私に反逆するならば『退学』になる、のですが皆さん恐れなどないようですね。」
私の弾劾に級友達は慄く。喚く者もいれば、お経のようなものを呟く禿兄ちゃんもいる。
揃って言えるのは私に脅えている、という性癖だけだ。
だがしかし……。
「なんだよ、藪から棒に。皆騙されてはいけない、それは欺瞞だ。只にお前が虚仮威しの詭弁を嘯いているだけであってだな……」
たった一人、それは胡乱だという確信を孕んだつぶらな瞳の男がいた。其奴の名前は……楠さとし……ではなく、――安倍さとるだった。名札にそう書かれていた。
「否、誰だよお前!」
このクラス全員の声がハモる。まさか、ここまで病み嫌っていた級友と以心伝心つうかあの仲になるとはな。
実際問題初めて見る面ではある。全員から懐疑の念を向けられた謎の男は自供し始めた。
「俺の名は安倍さとる。この世で最も偉い人だ! お前ら全員ぶっ殺すぞ! まず火炙りで、それから双眸を摘出すると、硫酸をぶっかけて放置。これにてチェックメイトだ」
「畢竟、お前のダンボール生活が始まったということだ。さよなら」
斯くして、この学校は私の所有物となった。楠は左大臣になり、私のサポートを精魂こめてお送りするようになった。
十年後……。
世界は崩壊した。
私の美しい顔。そして、頭脳明晰、単純明快嫣然とした恣意的鱈育成の腕を見込んだ屈強な男達が私を廻って、世界遺産に蛮行の限りを尽くした結果、荒廃した地球となった。
涙ぐんだ双眸にはもう何も映らない。