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ヤドカリ警官  作者: 直井 倖之進
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『ヤドカリ警官』④

「隼人だって? 隼人が、やったって言うのか?」

「はい。私、瀬戸君が、泣いている美穂ちゃんの後ろに立っているのを見たんです。手にフライパンを持っていたので、多分、それで美穂ちゃんを叩いたんだと思います」

 有紗の話に、「フライパン」の名詞が出た。校内をフライパン片手にうろついている児童など隼人だけであろうから、彼女の証言は十分信用に値する。

「あいつが……」

 今し方まで交番にいた彼の姿を思い出しながら、真中は、何の気なしに周囲を見回した。

 すると、いた。

 並ぶ背の高い下駄箱の陰に隠れるようにして、隼人が様子を窺っていたのである。

「隼人」

 真中が名を呼ぶと、彼は普通にこちらへと歩いてきた。

 別に悪びれるでも逆に尊大な態度を示すでもなく、本当にごく普通だ。

 そして、

「何か用か?」

 これまた普通にそう聞いてくる。

 しかし、

「話は聞いていたな。お前が、美穂ちゃんをフライパンで殴ったのか?」

 そう真中が問いかけたその瞬間だけ、彼は僅かにしゅうを見せた。

「どうなんだ?」

 再度、真中が確認する。

 隼人は小さく溜め息をつき、短く言った。

「さぁな」

「さぁな、って、自分のことなんだから自分が一番よく分かっているだろう。答えろ!」

 真中の声色が変わる。

 これに、隼人は、心底呆れたような顔つきになった。

「あのなぁ、今、俺は容疑者という立場なんだぞ。疑いをかけられている身ってわけだ。それなのに、答えろ! なんて偉そうに言われて、答えるわけがないだろ。黙秘する」

「何が黙秘だ。そんなことをして、損をするのはお前だぞ」

 そう真中が(たしな)めるが、これにも彼は反論した。

「どうして、俺が損をするんだ? この際だからはっきり言っておくけどな、刑が軽くなるからって交換条件のせいで、日本の犯罪者の自首率は世界一じゃないか。別に自首での逮捕が悪いとは言わないけどさ、それは、裏を返せば、警察が役に立っていないっていう証拠でもあるんだぞ。もし、真中さんが“まとも”な警察官でいたいんだったら、容疑者に正解を求めるんじゃなくて、自分の頭で考えて判断して見せろよ」

「う、うーむ」

 何と言い返すこともできず、真中は唸った。

 確かに、引き継ぎの書類にも記されていたように、隼人は、将来ノーベル賞を取るほどの大人物になる可能性を秘めた賢い少年だ。

 だが、それでも、少年は少年、子供は子供、十歳は十歳なのである。

 それなのに、そんな十歳の少年に、真中は完膚なきまでに言い負かされた。(あまつさ)え、「自分で考えて判断しろ」と挑戦状まで叩きつけられたのである。

 これは、絶対に負けるわけにはいかない。

 真中は、全ての大人の代表者にでもなったかのような気持ちで口を開いた。

「分かったよ。隼人の言うとおりだ。お前が犯人なのかどうなのかは、警察官らしく俺が判断してやる」

「そうか。それでこそ真中さんだ。で、どうなんだ?」

 隼人が、試すような視線を向けてくる。

「そ、それは……、少し考えさせてくれ」

 真中は思案を開始した。


 今回の事件、もし犯人が隼人でなかった場合には、それが誰であるのかをここで指摘する必要は一切ない。美穂が落ち着きさえすれば、すぐに判明するからだ。

 要は、隼人に犯行が可能だったか否か。それだけを推理すればよいのである。

 そして、これまでの聞き込みによって分かっているのは、

『泣いている美穂を有紗が見つけた時、美穂の背後に立つ隼人以外、現場には誰もいなかったこと』

『被害者である美穂は、額に怪我をしていること』

『被害者は、「くぅづがぁ~、くぅづがぁ~」と、何かを伝えたがっていること』

 の三点。

 はてさて、隼人は本当に美穂を殴ったのだろうか。

 ご訪問、ありがとうございました。

 次回更新は、4月22日(土)を予定しています。

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