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聖女降臨

 和泉は櫓の上で、天に向かって両手を上げ祈りを捧げていた。


「わたくしをこの世界に使わした神よ、今こそわたくしに聖女の力をお与え下さいませ!」


 そう和泉が強く願ったその時、和泉の体が神々しく光だしたのだ。


「ああ!来ましたわ!来ましたわ!!わたくしの内から、力が湧き出してくるのが感じられますわ!!」


 和泉はそう言って歓喜の声を上げながら、喜びに打ち震えていた。

 そんな和泉の様子を、櫓のすぐ近くの木陰に隠れて瑞希が苦笑しながら見ている。


「・・・うん。明菜が思い込みの激しい人で良かった」


 瑞希はそう言いながら、手を和泉にかざしていた。

 実は和泉が光輝き出したのは、瑞希が魔法を使ってわざとそのようにしたからである。

 理由は簡単。

 これから行おうとする事を、聖女だと信じられている和泉がしたように見せ掛ける為であった。

 何故わざわざそんな事をしているのかと言うと、今更瑞希が本物の聖女だと名乗り出ても誰も信じてくれない事など分かりきっているし、本当は聖女じゃ無いと和泉が知って傷付けるのも良くないと考えたからである。

 だが一番の理由はーー。


(あんな・・・目立つ事絶対無理!!!)


 そう皆の注目を集めながら、恍惚の表情で櫓の上に立っている和泉を見ながら頬を引き攣らせていたのであった。


「さて・・・これだけ目立たせれば充分かな。とりあえず明菜の光はこのままにして・・・ではこれから本番だよ!」


 そう瑞希は言うと、今度は戦場に向かって手をかざし出したのである。


(今回は味方全員に掛けるから・・・全力で行くよ!まず体力アップ!次に防御力アップ!そして攻撃力アップに魔力量アップと魔法攻撃力アップ!!大盤振る舞いで掛けまくりだ!!)


 さすがにこれを大声で叫ぶ訳にはいかなかった瑞希は、代わりに心の中で叫んだのだ。

 そうして瑞希は心の中で叫びながら、次々と魔法を発動させていったのである。






 モンスター達と対峙していたグロリア王国軍と魔族の軍隊は、突然体の奥から沸き上がってくる力に動揺していた。

 そしてよく見ると、うっすら体が光っているようにも見える。

 するとその中の兵士の一人が、櫓の上で神々しく光輝いている和泉に気が付く。


「おお!聖女様が光輝いているぞ!!」

「ではこの力は・・・聖女様のお力か!!」

「俺達魔族にも力をくれるのか・・・」

「うぉぉぉぉ!我々には聖女様が付いてるぞ!!」


 そうして兵士達や魔族達の士気が一気に上り、モンスターに向かって突き進んで行ったのである。

 その様子を、シグルドは怪訝な表情で見つめていた。


「この力は・・・」


 シグルドはそう呟きながら、襲ってきたモンスターを剣で一凪ぎして一刀両断する。


「この状態に見覚えがある・・・」

「あ、やっぱりシグルド様もそう思う?」

「ロキ!」


 いつの間に近付いてきたのか、ロキが近くのモンスターを難無く倒しながらそう複雑そうな顔でシグルドに話し掛けてきた。


「おい!何だこの力は?」


 さらにカイザーも、戸惑った表情でシグルド達に近付いてくる。


「・・・もしかしてこの力は・・・」

「・・・あ!あんな所にミズキが!!」

「「何!?」」


 ロキがある場所を指差しながら言ったその言葉に、シグルドとカイザーが同時に驚きの声を上げそして慌ててロキの指差した先を見た。

 するとそこには、木陰に隠れて見えないようにしているミズキが両手を戦場に向けていたのだ。


「・・・一体どうやって城から抜け出したんだ!?」

「さぁ?でもまあ・・・ミズキだからな。それにしてもこれって・・・ミズキの力かな?」

「・・・多分そうだろう。まあ、あの時の事を知っているのはほぼ私達ぐらいだから、他の者は皆聖女の力だと思っているのだろう」

「おお!これがあの、俺達魔族軍とシグルドの軍が戦った時にミズキが使ってた力か!!これすげえな!今までの何倍もの力が湧いてくるぜ!」

「・・・なあ、オレ思ったんだけどさ・・・もしかして、ミズキが聖女って事無いかな?」

「・・・実は私も薄々そうでは無いかと思っていた。ミズキのあの規格外れの力がそれを物語っている」

「だよな~でも、ミズキ本人は隠してたいみたいだけど」

「まあミズキの性格ならば・・・そうだろうな」

「ん?何の話だ?」


 二人の話にカイザーが付いていけず、不思議そうな顔で二人を見比べていた。


「いや、こっちの話だ。それよりも今はミズキの身の安全だ」

「分かってるって。まあでもどうせ二人は、軍を率いないといけないしオレが行くよ」

「・・・頼む」

「よく分からんが、ミズキを守りに行くんだな。なら、絶対ミズキを守れよ!」

「言われなくてもそうするさ!」


 そうしてロキは、二人から離れ大急ぎで瑞希の下に向かったのであった。






 瑞希は魔法を発動させ続けながら、じっと戦況を見つめる。


「うん・・・なんとかさっきよりも押し返せるようになったね。剣も魔法もだいぶモンスターに効いてるようだし。でも・・・やっぱり数は圧倒的に不利っぽい」


 そう瑞希は難しい顔をしながら、次から次にやって来るモンスターの群れを見つめていた。

 しかしそんな瑞希の背後に、一匹の大きなネズミのようなモンスターが近付いてきている事に瑞希は全く気が付いていなかったのである。

 するとそのネズミのモンスターは、体勢を低くし飛び掛かる体勢を取った。

 そして一気に跳躍し、瑞希の首元目掛けて鋭い牙を剥き出しにしながら大きく口を開けたのだ。

 しかしその口が瑞希の首元に届く一歩手前で、物凄い早さで飛んできた短剣にその身を貫かれ、そしてそのまま短剣と共に木に刺さったのである。

 するとそのモンスターの断末魔に驚いた瑞希は、手をかざしたままそのモンスターが突き刺さった木を見て目を瞠る。


「ミズキ!!」

「っ!ロ、ロキ・・・」


 焦った表情で突然現れたロキに、瑞希はあの告白とキスを瞬時に思い出し一気に顔が赤くなった。

 しかしそんな瑞希にロキは苦笑しながらも敢えて何も言わず、瑞希の横を通ってモンスターと一緒に木に突き刺した短剣を引き抜いたのだ。


「あ、あのロキ・・・」

「あの時の事は今は考えなくて良いよ。それよりも・・・魔法に集中しなよ」

「っ!・・・えっと、私がこれやってるの・・・バレてる?」

「まあね。でも安心して良いよ。気が付いているのは、オレとシグルド様とカイザー・・・ああ後は、一緒にいなかったからハッキリとは分からないけど、多分ジルも気が付いてるんじゃないかな」

「うっ!」

「まあでも、それ以外は皆あの聖女の力だと思ってるよ」

「・・・あ、あのねロキ・・・」

「良いよ、無理に言わなくてさ。だってミズキが本当は何者であっても、オレにとってミズキはミズキだからさ」

「ロキ・・・」


 ロキが笑顔でそう言ってくれたので、瑞希はそのロキの優しさに嬉し涙を浮かべたのである。


「ほらほら、そんな泣いてる暇無いだろう?ミズキの事はオレが必ず守るから、ミズキは自分のすべき事に集中しなよ」

「うん!ロキありがとう!」


 そう瑞希はロキに笑顔でお礼を言うと、再び真剣な表情になって顔を戦場に向けたのだ。


(そうだ、今はこの戦いを終わらせるのに集中しよう!あとの事は終わってから考えれば良いや!)


 瑞希はそう心の中で思い、魔法発動を維持する事に集中した。

 そうして瑞希を襲ってくるモンスターはロキが次々と倒し、瑞希は魔法を発動し続けていたのだが、しかし一向に戦いの終わりが見えて来ないのである。


(・・・何であんなにモンスターがいるの?相当な数をこちら側は倒しているのに、全く減る気配がしないんだけど!!これじゃいくら体力アップしてても、先にこちら側が限界きちゃうよ!!)


 瑞希は戦場を見渡しながら、そう焦りの色を顔に滲ませていた。

 しかしそこで、瑞希はある事に気が付きじっとその一点を見つめる。


(あれは・・・・・なっ!?)


 瑞希のその見つめている先は、絶命したモンスター達の屍の山であった。

 しかしその屍に黒い靄が降り注ぐと、そのモンスター達の屍が立ち上り再び動き出したのである。


(そ、それは反則でしょうが!!ゾンビ作戦とかそりゃ全く数減らないの当たり前だよ!!!)


 瑞希はそう心の中で叫び、キッと上空に浮かんでいる『厄災の王』である靄を睨み付けたのだ。


(・・・やっぱりこれは、ラスボスを直接倒さないとどうにもならない状態だよね。でもどうすれば・・・だって、あの『厄災の王』には弓も魔法もそのまま体を通り抜けちゃうから全くダメージいかないし・・・あ、カイザーが飛んで直接攻撃しに・・・ああ駄目か。ん~なんかまるで雲を相手にしてるみたい・・・ん?雲?)


 そこで瑞希は、ふとある考えが浮かびじっと考え出す。


(あれ?確か昔、学校の授業で雲は水で出来ているとか聞いたような・・・そしてそれが、冷えて氷の結晶になった物が地表に落ちてきて雨や雪になるとかだった・・・はず)


 だいぶ昔に受けた理科の授業の内容を思い出そうとし、瑞希は眉間に皺を寄せる。


(もしそれがあの『厄災の王』に当てはまるとしたら・・・もしかしたらいけるかもしれない!!)


 そう瑞希は強く頷き、一時的に皆に掛けている魔法を持続させる魔法を発動した。

 しかしこれは、掛けている相手が多すぎる為短時間しか持続する事が出来ない。

 なのですぐまた魔法を発動しないといけない為、瑞希は素早く行動に移った。

 瑞希は両手を今度は『厄災の王』に向けると、その『厄災の王』を取り囲むようにそして気が付かれないように絶対零度の氷の魔法を発動させたのだ。

 するとみるみる内に、『厄災の王』の靄が周りから固まりだしたのである。


『な、何だこれは!?か、体が思うように動かぬ!!』


 『厄災の王』はそう驚きの声を上げ、目を驚愕に開いた。


(よし!思った通りだ!あの『厄災の王』には直接魔法をぶつけられないみたいだけど、間接的な魔法なら効くみたい!ならこのまま更に魔法の威力を強くすれば!!)


 そう瑞希は思い、更に意識を集中して氷の魔法の威力を強くしたのだ。


『ぐっ、ぐぁぁぁぁ!我の体が、お、重くなる!浮く事が、維持出来ぬ!!』


 『厄災の王』がそう叫ぶと同時に、すっかり氷の固まりとなった『厄災の王』がそのまま地面に墜落した。

 しかし激しく地面に激突した『厄災の王』だったが、砕ける事なくその場に転がる。

 だが体が完全に氷っている為、それ以上動く事が出来ないでいた。


(あの衝撃ぐらいじゃやられないか・・・ならここは!!)


 瑞希は右手を『厄災の王』にかざしたまま氷の魔法を維持し続け、そして左手をシグルドの方に向けたのだ。

 すると呆然と落ちてきた『厄災の王』を見つめていたシグルドの持っていた剣の刀身が、赤くメラメラと燃え盛る炎に包まれたのだ。

 その突然の事にシグルドは驚き、燃え盛る自分の剣を見つめたがハッと気が付き視線を瑞希に向けてきた。

 そして瑞希は、そのシグルドに真面目な顔で大きく頷いたのである。


(やっぱり・・・ファンタジーな世界なら魔法剣だよね!!)


 そう瑞希は、表情に出さないように心の中で大興奮していたのであった。

 シグルドはそんな瑞希の表情に全てを悟り、シグルドも真面目な表情で瑞希に頷き返すと剣を構え直して、まだ地面に転がっている『厄災の王』に向かって走り出したのだ。

 そしてシグルドは『厄災の王』の一歩手前で跳躍すると、炎の剣を大きく振り被り着地と同時に『厄災の王』を切り付けたのである。

 するとシグルドに切られた部分から、どんどんひび割れが全体に広がっていったのだ。


『ば、馬鹿な・・・我が、我が!人間如きにやられるなど!!!』


 そんな『厄災の王』の叫びと共に、『厄災の王』の体は粉々に砕け散りそして霧散したのであった。

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