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父と子

 カイザーに手を引かれながら、瑞希は王城の廊下を歩いていた。

 その時ふと瑞希は、歩きながら廊下の窓から見える空を見つめる。


(・・・やっぱりここは魔界なんだ。だって、あそこまで大きくて赤い月なんて初めて見たからさ)


 そう瑞希は思いながら、暗い空に浮かぶ大きな赤い月を凝視したのだ。

 しかしそこで瑞希は、先程着替えてダイニングルームに向かう時に見た月の位置と今の位置がほぼ同じである事に気が付く。

 そして瑞希は、視線を前を歩くカイザーに向けたのだ。


「ねえカイザー・・・私、月が出てるから今は夜だと思ってたんだけど・・・」

「ん?いや、今は昼間だぞ。あの月の色が、今は昼頃だと知らせているからな。夜だとあの赤色が濃くなるんだ」

「そうなの!?・・・あれ?今、色で判断してるって言ったよね?それじゃあの月って一日中ずっと登ってるって事?」

「ああそうだ。人間界と違って、この魔界ではあの月が常に登っている状態なんだぞ」

「そうなんだ・・・」


 そう言って瑞希は、カイザーから再び月に視線を戻しその妖しい光を発しながらも美しい月を見つめたのだった。






 瑞希はカイザーに連れられ、豪華な装飾の施された扉の前までやって来たのだ。


「・・・ここは?」


 そう瑞希は不思議そうにその扉を見つめながら、隣に立っているカイザーに声を掛けた。

 しかしそのカイザーは、瑞希の質問に答える前にノックもせずにその扉を開けたのだ。


「よお!親父来てやったぞ!」


 そう軽快に言ってカイザーは、瑞希を引っ張りながら堂々と部屋の中に入っていった。


(え?カイザーが親父って呼ぶって事は・・・もしかしてここ、魔族の王様の部屋なの!?じゃあ、カイザーが会わせたいって言った人って・・・魔族の王様!?)


 その事実に気が付き、瑞希は動揺しながら慌てて視線をカイザーの向かう先に向けた。

 するとそこには、一際豪華で大きなベッドが置かれておりそこに一人の男性が横たわっていたのだ。

 そしてカイザーの入室に気が付き、ゆっくりとベッドの背もたれに寄り掛かりながら上半身を起こす。


(・・・え?もしかしてあれが・・・魔族の王様?)


 瑞希はそう驚き、じっとベッドにいる男性を凝視した。

 その男性は、カイザーの髪の色より若干薄い緑色の髪が背中まであり、頭にはカイザーと同じように立派な角が二本生えたカイザーと面立ちがよく似ている美丈夫だったのだ。


(あれ?確か王様って、千年以上生きてると聞いたけど・・・どう見ても四十代後半か五十代前半ぐらいに見えるよ?まあ確かにちょっと弱ってる感じはするけど、長年魔族の王様やってるだけあってそこにいるだけで威厳があるな~。ん?なら二十代前半に見えるカイザーって・・・本当は今何歳なんだろう?)


 そう瑞希は思いながら、楽しそうに王様に近付いていくカイザーの顔をじっと見ていたのだった。


「おおカイザーか、今日も元気そうだな」

「ああ、俺はいつも元気だぜ!それよりも、親父の方こそ今日は調子が良さそうだな!」

「まあな、今日は朝からだいぶ調子が良かったから飯も完食したぞ」

「おおそれは良かったじゃん!」

「それよりも・・・その娘は何だ?見たところ、人間の娘のようだが?」

「こいつ?こいつは、昨日話したシグルドとの戦いで持ち帰った女だよ」

「ああ、惜しくも逆転で押し返されたあの戦いでか」

「・・・親父、わざと言ってるだろう?」


 負け戦の事を言われカイザーが嫌そうな顔をすると、そのカイザーの顔を見て王様は肩を震わせながら笑っていたのだ。


「くく、いやいやなかなか楽しそうな戦いだと思ったからな。しかしあのシグルドと言う男とは私も何度か戦った事があるが・・・あの男の強さは、今まであの王国に生れた歴代の王子の中でずば抜けているぞ。だから、お前があのシグルドとすぐに戦いたいと言う気持ちは私もよく分かる」

「そうだろう?正直俺も、今すぐまたシグルドと戦いたいと思ってるんだぜ!」


 王様の言葉に、カイザーはとても興奮した様子になる。

 しかしすぐに気を取り直し、カイザーは王様に顔を近付けて小声で話し掛けたのだ。


「実はこの女・・・・・どうもシグルドの想い人っぽいんだ」

「ほ~そうなのか?」

「まあ、どうも片想いぽかったけどな」


 小声のカイザーに王様も同じように小声でカイザーと話し、そして二人は瑞希をチラリと見てニヤニヤと楽しそうに笑い合った。

 そんな二人に一体何を話されているのだろうと怪訝に思いながらも、瑞希は二人に声を掛ける事にしたのだ。


「あの・・・」

「ん?ああミズキすまんすまん。俺がお前に会わせたいと言っていたのにまだ紹介してないな。えっとこのベッドでのんびり寝ているのが、俺の親父でありこの魔界の王でもあるオベロ王だ。そして親父、こいつが人間の女でミズキって言うんだ」

「あ、初めまして。ミズキです」

「うむ、私がオベロだ。しかし・・・カイザー、お前がわざわざ私に女を紹介してくるなど初めてだな。それも人間の女とは」

「まあな。だってこいつ面白いから、親父に会わせてやろうと思ったんだ」

「確かに・・・人間の娘が、こうも平気そうに私を見て普通にしているなどあり得んからな」

「そうだろう?結構気に入ってるんだ!」

「・・・それ、あまり嬉しく無いんだけど」


 瑞希は肩を抱いてきたカイザーの手をつねって外し、胡乱な目をカイザーに向ける。


「っう!・・・まあ、こう言う所も面白いんだ」

「くく、なるほどよく分かった。しかし・・・その娘を見ているとサリアを思い出すな」

「俺が小さい時に病気で死んじゃった母さんを?」

「ああ。サリアは見事な銀髪が特徴的の美しい女だったのだが、その淑やかな見た目に反して何事にも動じない肝の据わった女だった」

「・・・なんか母さんが、よく笑ってよく怒ってた記憶があるな」

「うむ、あれは良き母であり良き妻であり良き王妃であった」


 オベロが、何かを思い出しているかのように遠い目をする。

 そして何かを噛みしめるように目を一度閉じ、再び目を開けてカイザーを見つめる。


「お前にも、そんな相手を見付けて欲しいものだ」

「親父・・・」

「さて、さすがに話し過ぎて疲れてきた。少し眠りたいのだが・・・」

「ああ悪い!じゃあ俺達は出ていくよ」


 そう言ってカイザーは、瑞希の手を握って部屋から出て行こうとしたのだ。

 しかし、その瑞希の背にオベロが声を掛けた。


「・・・ミズキ殿」

「はい?」

「・・・息子の事を頼んだ」

「え?」


 オベロの呼び掛けに振り向いた瑞希は、そのオベロの言葉の意味が分からず思わず聞き返したが、オベロはそれ以上何も話さずただ微笑みながら瑞希達を見送ったのだ。

 ただそのオベロの顔色は、入ってきた時よりもだいぶ悪そうに瑞希には見えたのだった。






 部屋の扉をパタリと閉め、カイザーは再び瑞希を連れて歩き出す。

 そのカイザーに、瑞希は疑問に思っている事を聞いてみる事にした。


「ねえカイザー・・・オベロ王ってどこか悪いの?」

「ん?ん~あ~まああれだ、ただ単に・・・老衰なだけだ」

「え?見たところそんな歳に見えなかったけど?まあ確かに千年以上生きてるとか聞いたけど・・・あの姿見たら、その話も嘘のような気がしてきた・・・」

「いや、確かに親父は千年以上生きてるぜ。だからさすがに老衰がきてるんだ」

「・・・ちなみに、カイザーって今何歳なの?」

「俺?ん~三百歳過ぎた辺りから数えるの面倒になって数えて無いからな~」

「さ、三百歳以上!?」


 その予想外の年齢に、瑞希は驚愕の表情で固まる。


「まあ、魔族なんて皆長生きだからな。歳を気にしてるのは人間ぐらいだぜ?それよりも、これからこの城の中俺様が案内してやるよ!」

「え?いやべつに・・・あ~うん、宜しく!」

「何だその間は?」

「いや気にしないで!それよりも早く行こう!」

「あ、ああ・・・」


 瑞希は逃げる為に、この際城の中をしっかり見て回ろうと思い至った事を、カイザーに悟られないように慌てて案内を促したのだった。

 そうしてそんな瑞希を怪訝に見ながらも、カイザーは瑞希を連れて城の中をあちこち案内して回ったのだ。






 結構広い城の中を歩き回り、そして今一階の廊下を歩きながらさすがに瑞希は疲れていた。


「カ、カイザー・・・今日はもうこれぐらいで良いかな・・・」

「なんだ、もう疲れたのか?俺は全然平気なんだけど?」

「・・・いや、あんたと一緒にしないで欲しい」


 不思議そうに見てくるカイザーを、瑞希は目を据わらせて見つめ返す。

 するとその時、瑞希の目の端に気になる場所が映ったのだ。


「あれ?あの厳重に警備兵が警備している下に繋がる階段って何?」

「ん?ああ、あれか・・・」

「カイザーどうしたの?」


 瑞希の見ている先を見て、カイザーは困った表情で言いにくそうに言葉に詰まる。

 その瑞希達が見ている所は、廊下の途中の壁にそこだけ不自然に開いた地下に通じる場所だった。

 その入り口を、武装した警備兵が両側に立って警備している。

 そんな明らかに、何かその先にありますよと思わせるような場所を見て瑞希はとても気になったのだ。


「カイザー?」

「・・・あの階段先には・・・巨大扉があるんだが、その扉には何重もの鎖で封印されているんだ」

「え?その扉の中って何があるの?」

「さあ?俺もよくは知らない。だけど親父が、あそこだけは絶対に近付くなと子供の頃から厳しく言われている場所なんだ」

「・・・もしかして、扉の状態知ってるって事はカイザーあそこ降りた事あるの?」

「・・・ある。まだ子供だった俺は好奇心が勝って、兵士の目を盗んであそこに降りてみたんだ。そしてその巨大な扉を目にした」

「それでどうしたの?」

「・・・あの扉は、絶対開けては駄目だと子供の俺でも感じた」

「え?何で?」

「・・・何故かその扉の中から、得体の知れない禍禍しい気配を感じてな、さすがの俺様もすぐにその場から逃げ出したんだ」

「禍禍しい・・・一体中に何が・・・」

「分からん。だが俺もそれ以来一度も近付いていない。だからミズキも、あそこには近付かない方が良いぞ」


 カイザーのその言葉を聞きながら、瑞希はじっとその暗い階段の空間を見つめる。

 するとその時、そこから何故か嫌な気配を感じ瑞希はゾクッと身震いをしたのだった。


「うん・・・私もなんだか、あそこには近付かない方が良いような気がするから絶対行かないよ」

「そうしろよ。・・・ん?あれは・・・」


 カイザーが突然何かに気が付き、じっと廊下の反対側を凝視する。

 瑞希はそんなカイザーを不思議に思いながら、カイザーが見ている方に視線を向けたのだ。

 するとその瑞希達と反対の廊下から、瑞希達の方に歩いてくる一人の男性がいたのだった。


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