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魔界の城

 蝋燭の灯る薄暗い部屋の中。

 その中央にある天蓋付きの豪華なベッドに、瑞希は気持ち良さそうに眠っていた。

 しかしその瑞希の頬に何かがツンツンと突いてくるので、瑞希は目を瞑ったまま眉を顰めて手でそれを払う。

 だがそれでもその突きは収まらず、むしろ速度を上げて激しく突いてきたのだ。


「うう・・・」


 さすがに瑞希はそれが鬱陶しくなり、不機嫌そうに唸りながら薄っすらと目を開けた。

 するとまだぼやけている視界の先に、真っ赤に輝く何かが見え瑞希はそれをボーと見つめる。


「・・・綺麗・・・」


 そう瑞希はぼんやりと呟くと、その真っ赤な輝きがキラリと煌めいたように見えた。


「お!漸く目覚めたな」

「・・・え?」


 突然そんな声が間近に聞こえ、瑞希は驚きながら目を手で擦ってもう一度目の前をしっかりと見つめる。

 するとそこには、瑞希と向かい合わせに横になって指を瑞希に向けているカイザーがニヤニヤ笑いながらいたのだ。


「え?え?えええ!?」


 瑞希はそのあまりにも近い距離にいて一緒のベッドに入っているカイザーに驚き、目を見開きながら驚きの声を上げ慌てて身を起こしてベッドの端まで逃げた。


「な、な、何でカイザーがここに!?・・・って、何で私こんな服着てるの!?」


 カイザーを見ながら激しく動揺していた瑞希は、さらに自分が今着ている服が変わっている事に気が付いて驚愕の表情になる。

 何故なら今瑞希が着ている服は、肌触りの良い光沢のある真っ黒なネグリジェであったからだ。

 瑞希は慌ててシーツを寄せ集め自分の体を隠しながら、自分の体とカイザーを交互に見て困惑していた。


「あ~心配するなって、俺は寝ている女を襲う趣味は無いからさ」

「そ、そうなんだ、良かった・・・でも、この服は誰が・・・」


 そう瑞希はもう一度自分の服に視線を向け疑問に思っていると、突然瑞希の腕をカイザーが引っ張ったのだ。


「へっ?」


 その突然の事に瑞希は咄嗟に対処出来ず、そのままカイザーに引っ張られるまま再びベッドに寝っ転がる事になってしまった。

 さらにその瑞希に上に乗し掛かるようにカイザーが移動し、あっという間に瑞希はカイザーに組み敷かれてしまったのだ。


「カ、カ、カイザー!?な、何を!?」

「言っただろ?寝ている女を襲う趣味は無いって。だから、起きてるお前を襲ってるんだよ」

「なっ!?は、離して!!」

「嫌だ。俺、お前が起きるまで結構待ったんだぜ?でも予想以上にぐーすか気持ち良さそうに寝ててさ、全然起きないんだもんな」


 そうカイザーが、呆れた表情になりながら瑞希の胸元に顔を近付けていく。


「ちょ、ちょっと待って!!」

「何だよ?とりあえず一発ヤらせろよ。お前も気持ち良くさせてやるからさ」

「いやいや!そんなの望んで無いし、ヤられるのも嫌だから!!」


 瑞希はそう叫びなんとかカイザーの下から逃げ出そうとするが、カイザーにガッチリと組み敷かれている為抜け出す事が出来ないでいた。


(ど、ど、どうしよう!?このままじゃあ貞操の危機だよ!!・・・ってそうだ!魔法使えば良いんだ!!ん~どうも魔法の無い世界で生活していた影響で、咄嗟の時には魔法使うの忘れるんだよね。うん!じゃあとりあえず、気絶して貰える程度の電流を・・・)


 そう瑞希は心の中で思いながら、掴まれていない方の右手に電流を貯める魔法を使おうとしたのだ。

 しかし、どれだけ意識を集中しても全く魔法が発動する様子が無い。

 その事に瑞希は困惑しながら、他の魔法も発動するか試してみたのだが、やはり全く発動しなかったのだ。


「・・・どうして?」


 瑞希は呆然と右手を見つめながらそう呟く。


「ん?どうした?・・・ああ、もしかして魔法を使おうとしてるのか?」

「っ!」

「くく、何度やっても無駄だぞ。お前には、魔法を使う事は出来ないからな」

「え!?」


 カイザーは瑞希の胸元から顔を上げ、瑞希の顔を上から見下ろしながらニヤリと笑う。


「ど、どうして?」

「それはな・・・そのミズキの右手首に嵌めてある腕輪が、魔力封じの効力があるからだ」

「ええ!?」


 瑞希は驚きの声を上げ、右手首に嵌まっている黒曜石のような色の装飾の無いつるっと黒光りしている腕輪を凝視する。

 そして瑞希はなんとか左手をカイザーの拘束の手から抜き取ると、すぐにその腕輪を外そうとした。

 しかしその腕輪には留め金なんて部分は全く無く、右手首にピッタリと嵌まっている為どんなに頑張っても外す事が出来ないのである。


「何で外せないの!?と言うか、どうやって付けられたの!?」

「ふふん、それはどれだけ頑張っても外せないぞ。何故なら、その腕輪は俺様の魔力を込めて作った物だからな。俺が外さない限り誰にも絶対外せない」

「なっ!!」


 そのカイザーの言葉に、瑞希は唖然とした表情でカイザーを見上げた。

 カイザーはその瑞希の表情を見て満足そうに笑い、呆然としている瑞希の両手を掴んで頭の上で拘束したのだ。


「あ!」

「魔法が使えない理由も分かった事だし、そろそろ本格的に進めるぞ」

「っ!い、嫌!!」


 瑞希は体を揺すって暴れるが完全に両手を掴まれている為、逃げる事が出来ないでいた。

 そんな瑞希をカイザーは面白そうに見ながら、瑞希の首元に顔を埋めペロリと首筋を舐める。


「ひやぁぁぁ!!」

「・・・もう少し色気のある声出せねえのか?」

「だ、出せる訳無いよ!!良いから離れて!!」


 呆れた声で言うカイザーに、涙目になりながら瑞希は訴えるがカイザーは瑞希の首元から顔を離してくれなかった。


(どうしようどうしよう!!・・・そうだ!あの漫画で見た場面、今なら出来るかも!)


 そう瑞希は思い、まだ自由に動く足で思いっきり膝を突き上げたのだ。


「!?!?!?」


 瑞希の突き上げた膝がカイザーの急所に強く当たり、カイザーは声にならない悲鳴を上げて瑞希の横に倒れ悶絶しだす。

 その隙にカイザーの拘束が解けた瑞希は、慌ててベッドから飛び下り乱れた衣服を急いで直してすぐさま扉に向かって走り出した。

 そして扉のノブを掴もうと手を伸ばしたその瞬間、ガチャリと扉が開きそこから一人の女性が部屋に入ってきたのだ。


「え?」


 瑞希は手を伸ばした状態のまま固まり、その入ってきた女性を驚愕の表情で見つめた。


(うぉぉぉぉぉ!凄い美少女のメイドさんだ!!!)


 そう瑞希が心の中で叫んだように、その入ってきた女性は水色のボブカットの髪型に小さいながら二本の角を生やし、背中には蝙蝠のような羽が付いて黒いメイド服のスカートの裾からチラチラと悪魔のような尻尾が見えている。

 さらにその瞳は鮮やかな赤い色をしており、そしてまるで白磁のような無機質で白く綺麗な肌をしている美少女だったのだ。

 しかしその女性の表情は無表情で、じっと固まっている瑞希を見つめてきた。


「あ、あの・・・」

「っう!女にあんな反撃されたの初めてだ」

「っ!!カ、カイザー!!」


 後ろからカイザーの声が聞こえ瑞希は慌てて振り返ると、そこには苦痛に歪んだ顔でベッドから降りてくるカイザーの姿があったのだ。

 瑞希はそのカイザーの姿に驚愕し、すぐさま女性を避けて扉の外に向かおうとした。

 しかしそれよりも早くその女性が瑞希の腕を掴み、逃げられないように捕まえてきたのだ。


「お願い!離して!!」


 そう瑞希は叫ぶが、女性は全く表情を変えず無言で瑞希をその見た目からは想像出来ない強い力で掴まえ続けてきたのだった。


「無駄だ。そいつは俺の血から作った人形だからな。俺の命令しか聞かん」


 カイザーはそう言って瑞希に近づいてくる。

 そして瑞希はそのカイザーの様子に、もう逃げられないと思い思わず眉を顰めた。

 しかしカイザーは、その瑞希の横をすり抜けて扉から出ていこうとしていたのだ。


「・・・え?」

「あ~さすがに、あそこまで抵抗されたら襲う気も無くなった。だから今回は諦めてやるよ。まあ『今回は』だけどな」

「っ!!」

「ああそれから・・・その服を誰が着替えさせたか気にしていたが、そいつに着替えさせていたから安心していいぞ。ん~さすがに腹が減ったな・・・よし!ミズキも着替えて一緒に飯食おうぜ!着替えはそいつに手伝わせるからな」


 そうカイザーは扉付近に止まって振り返りながら瑞希に言うと、そのまま瑞希に背中を向けて手をヒラヒラと振りながら今度こそ去っていってしまった。

 そんなカイザーを瑞希は呆然と見つめていると、瑞希を掴んでいた女性が今度は強い力で引っ張りだしたのだ。


「え?あ、ちょっと何処へ?」


 瑞希はそう女性に向かって声を掛けるが、女性は瑞希の声など聞こえていないかのように無言で前を向きどんどん進んで行ってしまった。

 そうして瑞希はその女性のメイドに、ネグリジェから黒色と赤色を基調としたドレスに着替えさせられ身支度をしっかりと整えられたのである。






 瑞希はメイドに案内され、ダイニングルームにやって来た。

 そしてそこには、大きなダイニングテーブルの席に既にカイザーが座っていたのだ。

 するとカイザーは、メイドに連れられて入ってきたドレス姿の瑞希を繁々と見てきた。


「ほ~結構良いじゃん!」

「・・・ありがとう」


 瑞希は感嘆の声を上げるカイザーに苦笑いを向けながら、メイドの案内でカイザーの向かいの席に着席する。

 するとすぐに執事の格好をした魔族がゾロゾロと現れ、瑞希とカイザーの前に料理を並べ始めたのだ。


「・・・・」


 瑞希はその料理の数々を見つめ、密かにホッと胸を撫で下ろす。


(・・・良かった。見た目は人間の世界と同じ料理ぽいな。味の方は・・・うん!美味しい!!)


 目の前にあるスープを一口口に含み、その美味しさと特に変な料理では無かった事に頬を緩めたのだ。


「・・・あんな事あった後なのによく食えるな。本当、お前って変な女だよな。今まで気まぐれで拐ってきた人間の女は、皆恐怖で縮こまって飯は食わんは襲っても泣きながら諦めたように抵抗しないから興醒めしてたんだよな」

「・・・その女の人達はどうしたの?」

「ああ、他の奴にやった」

「なっ!!」

「て言うのは冗談で、適当な場所の人間界に返してやったよ。まあ、その後は自力で帰れたかは知らんけどな」

「・・・・」

「そう睨むなって。子が出来ても面倒だから、最後までしてないだけ有り難いと思って欲しいな」


 じろりと睨み付けてくる瑞希に、カイザーは苦笑を溢したのだった。


(・・・まあ、今更私が何か言ってももう済んでしまった事だからどうにもならないからな・・・その女性達が無事な事を祈るよ)


 そう瑞希は思いながら再び食事を再開し、これからの事を思案し始める。


(とりあえず、魔法を封じられている今の現状ではすぐに逃げる事はほぼ無理だろうね・・・あ、このお肉美味しい!・・・だったら、暫く大人しくしてこの場所の把握と逃げ道を確認する事がまず重要・・・うぉぉぉ!このソース滅茶苦茶美味い!!・・・だから、今は食べ物を食べて逃げる為の体力を付けないとな・・・何この飲み物!?凄くフルーティーで飲みやすい!!・・・ただ当面の間一番気を付けないといけないのは、再びカイザーが襲ってきた時にどう対処するかだよな・・・お!このデザートのフルーツタルト美味!!これ今度ロキに作って・・・ってあ!ロキ!!)


 瑞希はふとここに連れてこられる前に見たロキの様子を思い出し、持っていたフォークを皿の上に置いて焦った様子でカイザーの方に顔を向けた。


「カ、カイザー!ロキはどうなったの!?」

「ロキ?・・・ああ、あの俺が凪ぎ払った白い髪の男か」

「そうよ!それに確か・・・シグルド様もいたよね?二人はどうしたの!?」

「さあ?俺はミズキを寝かせた後、ミズキを抱えてすぐに飛び去ったからな。まあ、あのロキって男はシグルドがなんとかしたんじゃないか?」

「・・・・」


 カイザーの言葉を聞き、瑞希は険しい表情で考え込んだのだ。


(・・・確かにシグルド様の事だから、あんな状態のロキを放っとくとは思えないけど・・・でも、ロキ相当怪我酷そうだったから・・・)


 瑞希はカイザーにやられてぐったりとしていたロキの様子を思い出し、シグルドに助けられている事を心から願っていたのである。

 すると食事を終えたカイザーが席を立ち、瑞希の下に近付いてきて瑞希の手を取って立ち上がらせた。

 そのカイザーの行動に瑞希が驚いていると、カイザーはニカッと笑ってきたのだ。


「ミズキ、お前に会わせたい人がいるから今から行こうぜ!」

「え?ええ?誰に会わせたいの!?」


 瑞希の手を握ってズンズン歩くカイザーに必死に付いていきながら、瑞希は慌ててカイザーに聞いてみるが、そのカイザーは楽しそうにニコニコしながらもその質問に答えてくれなかったのだった。

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