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全体魔法

 人間と魔族が入り乱れる中、シグルドとジルは焦りの表情を浮かべながら次々と魔族を倒していた。


「シグルド様!やはりどんな攻撃魔法も魔族に効きません!」


 ジルはそう言いながら、魔法を使うのを早々に諦めあまり得意では無い剣で魔族と応戦している。


「くっ、一体奴等はどんな手を使って・・・仕方がないここは一旦撤退をして体制を・・・」

「シグルド様危ない!!」

「くっ!!」


 シグルドが前から襲い掛かってきた魔族を剣で防いでいると、そのシグルドの背後から別の魔族が襲い掛かろうとしていた。

 その様子にジルが気が付き、シグルドに向かって危険を知らせようと叫んだ。

 しかしシグルドは目の前の魔族と応戦していて動く事が出来ず、さらにジルも襲い掛かってきた魔族と戦っていた為シグルドの下に行けないでいた。

 そしてそのシグルドの背後にいる魔族が、大きな爪をシグルドの背中に向かって降り下ろそうとしたまさにその時ーー。

 何故かその魔族の動きがピタリと止まり、そして次の瞬間口から血を流し白目を向いて横に倒れた。

 するとその倒れた魔族の後ろに、血の付いた短剣を握って立っている無表情のロキがいたのだ。

 そのロキは地面に倒れ事切れた魔族をじっと見つめ、それからいつもの飄々とした表情に戻ってシグルドに顔を向ける。


「やあ、シグルド様大丈夫?さすがにオレが来なかったら、ちょっと危なかったよね?」


 そう言ってロキは、シグルドに向かってニヤリと笑った。


「ロキ!?何故お前がここに!?もしやミズキに何かあったのか!?」


 シグルドはそう叫びながら、目の前の魔族を剣で斬り捨てロキの下に近付く。

 そしてジルもなんとか魔族を蹴散らせ、二人の下に駆け寄ったのだ。


「そのミズキから伝言を預かって来たんだ。あ、ちなみにミズキは治癒部隊のテントより後方の森の、安全な場所にいるから大丈夫だよ」

「そうか・・・それで伝言とは?」

「えっと確か・・・」


 そうしてロキは、シグルドとジルに瑞希から頼まれた伝言を伝える。

 しかしその話を聞いた二人は、怪訝な表情でロキを見てきた。


「・・・ミズキの頼みは分かったが・・・それで一体どうなるんだ?」

「さあ?さすがにオレでも、ミズキが何を考えているかなんて分からないからさ。ただこの事を伝えてきて欲しいと頼まれたんだ」

「・・・・」

「シグルド様、どう致しましょう」

「・・・分かった。ここはとりあえず、ミズキの言った通りにしよう。きっとミズキには何か考えがあるのだろう。ジル、至急各部隊に伝達を!」

「はっ!畏まりました!!」


 シグルドは少し考えてからすぐに、瑞希が頼んできた事を実行する為ジルに指示を出して走らせる事にしたのだ。

 そしてその指示を受けジルはすぐに踵を返し走り出そうとしたが、ふと足を止め真剣な表情でロキを見てきた。


「ロキ、すまないが暫くシグルド様を頼む」

「あ~分かったよ。まあミズキにも頼まれているから、少しの間だけ手伝うよ。ただミズキも心配だから、その内勝手に戻るけどな」

「・・・それまでに戻るよう努力しよう」


 そうジルは頷き、そして今度こそ伝言を伝えるべく戦場内を駆け抜けていったのだ。


「ロキ・・・暫く私の背中を頼む」

「・・・そんなにオレの事信用して良いの?もしかしたら、後ろから刺すかもしれないぜ?」

「・・・お前はそうしない」

「・・・あんたも、ミズキ並みに変わってるよな」


 ロキはそう言って、呆れたような照れているような複雑な顔をしながらシグルドと背中を合わせて短剣を構え、シグルドもそんなロキにフッと笑いながら同じように剣を構え直したのだった。






 瑞希は、治癒部隊のテントからだいぶ離れたぽっかりと空間が空いていた森の中に一人佇み、フードを頭から外してじっと遠視の魔法で戦場を見つめている。


「・・・よしよし!ロキは上手くシグルド様と合流したみたいだし、ジルさんが私の頼んだ事を各部隊に伝えてくれたみたいでちゃんと体制を取ってくれてるね!」


 そう瑞希は、満足そうな顔で頷きながら戦場を見渡す。

 その瑞希が見ている先には、ジルの指示で魔法部隊が一ヶ所に横並びで集められ、その前を剣部隊が守るように並び魔族と交戦していた。

 そして魔法部隊は、一切攻撃魔法を使わず剣部隊に障壁を張って魔族の攻撃から守る事に集中しているのだ。

 実はこの体制を瑞希がロキに頼んで、シグルドに伝えて貰っていたのである。


「さて、じゃあそろそろやりますか!」


 そう言って瑞希は指をポキポキと鳴らし、大きく背伸びをしてから両手を前にかざし始めた。


「とりあえず集中して送る為に・・・」


 瑞希はそう呟くと、目に識別の魔法を掛ける。

 すると瑞希の目は今度は青く輝きだし、そしてその瑞希の目から見える戦場の魔法使いにだけ頭の上に杖のマークが浮かび上がったのだ。


「よしよし!上手くいった!じゃあ次は・・・魔力量アップの魔法だね!」


 瑞希は意識を集中させ、そしてかざした手から戦場にいる魔法使い達に向かって魔力量アップの魔法を送り出した。

 すると今度は、その頭上に杖のマークが付いている魔法使い達の体が緑色に輝き出す。


「ふむふむ、これも上手くいったね!それじゃ魔力量が増えた事だし、次は魔法攻撃力アップの魔法だ!それじゃ三倍・・・いや念の為四倍・・・え~い!もうおまけだ!五倍にしよう!!」


 そう瑞希は叫ぶと、戦場にいる魔法使い達に今度は魔法攻撃力アップの魔法を掛けだした。

 すると今度は、魔法使い達の体が赤色に輝き始める。

 そうして魔法使い達の体は、緑色と赤色が交互に点滅した状態になった。

 ちなみにその色の付いた体や杖のマークは、瑞希の魔法の目からしか見えていないのである。

 実はこの方法、瑞希が元の世界でやっていたゲームの中で、仲間全員によく掛けていた補助魔法の応用であったのだ。


「さて、これで準備は整ったかな?後は・・・魔力が尽きないように魔力を送り続ければ良いから、そろそろ合図を送りますか!」


 そう瑞希は言って、左手を前にかざしたまま魔力を送り続け右手を上にかざした。

 するとその右手の掌から光の玉が現れ、そして空に向かって撃ち出されたのだ。

 そうしてその撃ち出された光の玉は物凄い早さで上空まで登ると、まるで閃光弾のように辺りを一瞬眩い光で照らし出したのである。






 その光はシグルド達のいる戦場にまで届き、その突然の光に人間も魔族も一瞬動揺した。


「あれは・・・そうか!あれがミズキの合図か!!よし!剣部隊左右に散開!魔法部隊一歩前に出て攻撃魔法発動!!」


 そうシグルドが隊列を組んでいた部隊に叫ぶと、その声を聞いた剣部隊が左右に分かれて魔法部隊の前から退き、そして目の前が開けた魔法部隊は、前方にいる魔族の大軍に向かって其々得意の攻撃魔法を撃ち出したのだ。

 するとその向かってくる攻撃魔法を見ながら、魔族達は馬鹿にしたような笑い声を上げる。


「へっ、何か企んでやがると思っていたが・・・ただ魔法を一斉に撃ち出してきただけかよ。そんな事したって無駄だってまだ分からないらしいぜ、あの馬鹿な人間共はさ!けけけ」


 そう魔族の一人が言い笑い声を上げると、周りにいた他の魔族達もそれに同意するかのように余裕の顔で笑いだした。

 しかしそんな笑も、何かが激しく割れる音と共に攻撃魔法が魔族達に当たり出すと、一変して大きな悲鳴に変わったのだ。

 その攻撃魔法が当たった魔族達の体が、あっという間に炎に包まれたりカチコチに氷付けになったり、風に切り刻まれたり稲妻が体を駆け巡ったりと、明らかにあり得ない程の威力を持った魔法であった。

 そんな魔族達を、無事だった魔族達や魔法を撃った魔法部隊、そして剣部隊やシグルド達が呆然と見つめたのだ。

 しかしすぐにシグルドは気を取り戻し、まだ呆然としている兵士達に指示を出す。


「何をしている!今がチャンスだ!!剣部隊、動揺している魔族や攻撃魔法を受けて弱っている者を狙え!!魔法部隊はそのまま攻撃を続けろ!!」


 そうシグルドが叫ぶと、再び激しい戦闘が始まった。

 しかし先程と違って魔族に攻撃魔法が当たる為、完全に人間側が優勢に立ったのだ。

 そうして一気にシグルド達が形勢逆転すると、魔族達は動揺した表情で少しずつ後退をし始めたのであった。






 一気に人間側が巻き返し出したその戦況を、丘の上でカイザーが目を見張りながら凝視する。

 その傍らには側近と思われる小柄な魔族が立っていて、その魔族は焦った表情で戦場を見渡す。


「カイザー様!どういう訳か、人間共の魔法が我々に効いてます!」

「くっ!何故だ!!さっきまで俺の作戦通り、奴等の魔法など全く効かなかっただろう!!」

「はい・・・カイザー様の指示で急ぎ作らせた、魔法無効防具のお陰で先程まで我々が優勢でした。しかし、何故か突然その魔法無効防具が効かなくなったのです。正確には・・・人間共が、その魔法無効を上回る程の攻撃魔法で攻撃し始めてきたのです!!」

「何故だ!?」

「分かりません!!しかし今分かっている事は・・・このままでは我々は全滅してしまいます!!」

「くっ!・・・分かった、退却だ!!」

「はっ!」


 カイザーが悔しそうな顔で撤退を指示すると、その側近の魔族が懐から大きな笛を出しそして勢いよくその笛を吹き鳴らした。

 するとその笛を聞いた魔族達は、一斉に退却を始めたのだ。


「くそっ!あともう少し、シグルドと戦っていたかったんだ!!」

「カイザー様、今回は仕方ありません。どうぞカイザー様も退却を!」

「ちっ、仕方がない。楽しみはまた今度だな」

「そうです!次こそはカイザー様が勝ちますよ!・・・しかし、やはりいきなり人間共の攻撃魔法が強くなったのは不思議です。確か・・・あの強い光が突然現れてからでしたね」

「そう言えばそれからだったな。・・・確か、あの辺りから光が上がっていたはず・・・」


 そうカイザーは呟き、じっと光が上がったシグルド軍の後方にある森を見つめる。

 するとカイザーは、おもむろに背中から蝙蝠の羽に似た大きな羽を出現させると、その羽を大きく羽ばたかせ空に向かって浮かび上がったのだ。


「カ、カイザー様!!何を!?」

「ん~ちょっと気になるから、あそこ見てくるな!」

「なっ!?お一人で危ないです!お止め下さい!!」

「大丈夫だって!それに俺様は強いからな!まあ心配せずに、先にお前は他の奴等と一緒に魔界に帰っていろ」


 カイザーはそう言い残し、地上で慌てている側近の魔族から視線を外して、一直線に光の玉が上がった森に向かって飛んでいったのであった。

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