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人間vs魔族

 シグルド率いる軍隊が北の国境に向かって急いでいると、その途中で敗走してくる兵士達と出会した。

 どうやらその兵士達は、もう一つの北の砦を守っていた者達だったのだがシグルドの援軍間に合わず陥落してしまったのだ。

 その報告を聞いたシグルドは悔しそうな顔をしたが、すぐに表情を戻し無事な者を部隊に入れ怪我をした者を治癒部隊に任せると、再び魔族軍と交戦する為に進軍したのだった。

 暫く進み広大な草原に到着すると、そこを魔族軍との交戦の場に決め各部隊は隊列を組み始めたのだ。

 そして治癒部隊は、後方の森の中にテントを張り怪我人を迎え入れる体制を整える。

 そうして全ての準備が整いいつでも戦える状態になった頃合いに、シグルド軍の向かいにある少し小高い丘の上に魔族の大軍が現れたのだ。

 その魔族の軍団が現れた事で、シグルド軍の兵は皆武器を構えいつでも戦闘を開始出来る体勢を取る。

 すると魔族の軍団の中から、一人の男が前に進み出てきた。

 その男は背中まである深緑の髪を風になびかせ、頭には立派な角を二本生やし耳は横に長く尖っている。

 さらにその瞳は血のように真っ赤な色をしており、まるで爬虫類の目のような形をしていたのだ。

 しかしその顔は整った顔をしており、その異質な部分が無ければ美青年の人間と言ってもおかしくない顔立ちをしていた。

 そしてその男は、腰に両手を当てニヤリと楽しそうに笑いながら堂々とした様子で立っているのだ。


「よおシグルド!久し振りだな!」

「・・・久し振りにしては早すぎるぞ。魔界の王子・・・カイザー」

「まあそう言うなよ。正直俺は、これよりももう少し早くお前と戦いたかったんだぜ?でも周りの奴等がまだいくらなんでも早すぎるって止めるからよ、こんな遅くなっちまったんだ」

「・・・やはりこの早さ、お前のせいか」

「早くないって!それよりも早く始めようぜ!俺、早くお前と戦いたくてウズウズしてるんだからさ!」

「・・・良いだろう。ここでお前を倒し、暫く我が国に攻めて来れなくしてやろう!」

「やれるもんならやってみろよ!よし!お前達行くぜ!!」

「こちらも行くぞ!!」


 そうカイザーとシグルドが自分達の軍に声を掛けると、其々の兵士達が持っていた武器や拳を振り上げて時の声を上げる。

 そして一斉に、其々の敵に向かって走り出したのだった。






「・・・うわぁ~本当に魔族だ!」


 そう瑞希は、目深に被ったフードを目の部分だけ手で押し上げながらそう興奮した様子で呟く。

 しかしその瑞希の目の前には、木々が沢山生えているだけで全く何も無いのである。

 だがその瑞希の目には、しっかりと戦場で交戦をしているシグルド達の姿が見えているのだ。

 何故なら今瑞希の目には遠視の魔法が掛かっており、瑞希のその黄色く輝いている目には、離れた場所で戦っているシグルド達の様子がよく見えているのである。


「・・・マジで瑞希の魔法って便利だな」


 そんな瑞希を見つめ、ロキが呆れた声を瑞希の側で立ちながら出したのだ。


「そう?」

「ああ。・・・オレも普通の人よりかは目が良い方だけどさ、さすがにここから戦場は見えないぜ?」


 そうロキは言い、木々に囲まれた回りを見回す。

 この瑞希達がいる場所は、治癒部隊がテントを張った場所から少し離れた森の中であった。

 瑞希は治癒の為の準備を手伝った後、さすがにすぐには怪我人が運ばれてくる事は無いと思い、少し魔族と言う者を見てみたいと好奇心が沸き出して、そっとテントから一人抜け出し人気の無い森の中で遠視の魔法を使っていたのだ。

 そこを心配して探しに来たロキに見付かったのだが、最初瑞希の目が黄色く輝いている事に酷く驚いていた。

 しかしその理由を聞いてから、今度は呆れた表情を瑞希に向けていたのだ。


「しかし・・・そんなに魔族を見てみたいものか?」

「だって・・・魔族なんて、ゲームや漫画の中でしか見た事無いからさ!実際はどんなのか凄く興味があったんだもん!!」

「ゲーム?マンガ?」

「ああ、そこら辺は深く聞かないで。説明難しいから!!」

「そ、そうなのか?まあミズキがそう言うなら聞かないけどさ・・・それでも、やっぱりミズキは変わってるよな」

「そうかな?」

「・・・普通の女は、そもそも異形の魔族なんて恐ろしくて見たく無いと言うもんだぜ?」

「でも、シグルド様の軍隊にいる女性の人は平気そうだったよ?」

「いやその人達は、魔族を戦うべき敵と認識してるからだよ。ミズキみたいに、興味本位で見ようとする人はいないからさ」

「・・・確かに、そう言われればそんな様子だったかも」


 瑞希は行軍の時に見た、女性の兵士や魔法使い達の様子を思い出しそう呟く。


「・・・まあ、初めてオレを見た時に怖がらなかったミズキなんだから・・・そりゃ魔族も平気か」


 ロキはそう瑞希を見ながら呟くと、苦笑いを溢したのだった。

 するとそんな二人の耳に、遠くの方から瑞希を呼ぶ声が聞こえてきたのだ。


「あれ?どうしたんだろう?」


 そう瑞希は不思議そうに言いながら、遠視の魔法を解きロキと共にその声がした方に向かって走り出した。

 そしてすぐに、瑞希を探していた治癒部隊の兵士と合流する。


「どうしたの?」

「ああミズキ様、お探ししてたんですよ!すぐにテントへお戻り下さい!怪我人が大勢運ばれて来てるんです!!」

「え?だって開戦してからそんなに経って無いよね?」

「理由は分からないのですが、何故か大勢担ぎ込まれて来てるんです!とりあえず早くお戻り下さい!!」

「わ、分かった!!」


 そのかなり焦った様子を見て瑞希は慌てて頷き、ロキと共に再びテントに向かって走り出したのだった。

 そうしてすぐにテントに到着すると、その中は話に聞いていた通り大勢の人が怪我を負った状態で横たえられていたのだ。


「な、何でこんなに!?」


 瑞希はその様子を見て目を見開いて驚いていたが、すぐに気を取り直し急いでまだ治療を受けていない怪我人の下に駆け寄る。

 そうして瑞希はロキの手助けを借りながら、次々と怪我人に治癒魔法を掛けていった。

 しかしどれだけ治療しても、どんどん怪我人が運ばれてくるこの状況にさすがに瑞希は戸惑いを見せ始める。

 一応治療を終えて動けるようになった兵士達は、すぐに戦場に戻って行くので治療場所が足りなくなる事は無かったのだが、こう次から次に怪我人が運ばれてくるので、治癒魔法を使っている兵士達が魔力量切れでどんどん倒れていく事態が起こっているのだ。

 たが瑞希は魔力量が膨大にある為、特に魔力量切れで倒れる事は無いのだが、その分倒れた治療兵の分まで働く事になり目が回る忙しさであった。


「い、一体何でこんなに怪我人が来るの!?これって普通なの!?」


 そう瑞希は、あまりの忙しさに思わずそう叫んでしまったのだ。

 するとその瑞希の叫び声に、瑞希の後で他の治療兵から治療を終えていた一人の兵士が反応してきた。


「その声は・・・ミズキか?」

「え?・・・あ!マギド隊長!!怪我したんですか!?」

「ああ、ちょっと油断してな。それよりも、久し振りだな。確かあのドラゴン退治以来だったな。しかし・・・相変わらず元気そうだ」

「・・・まあ、一応元気だよ」

「それは良かった。それよりも先程叫んでいた事だが・・・こんなに怪我人が出るのは異例なんだ」

「そうなの?」

「ああ・・・何故か今回、魔族達に攻撃魔法が全く効かないんだ」

「え?効かない?」

「まあ正確には、魔族の体に到達する前に見えない障壁で打ち消されているんだ」


 そうマギドは、戦場での様子を思い出し苦い顔をする。


「・・・確か今回の部隊って、魔法使いが半分を占めていたような・・・」

「そうだ。だから魔法が魔族に効かない今、実質戦力は半分しか無い状況なのだ。さらにその魔法使い部隊を守りながら戦っている為、こんなに怪我人が続出している」

「そんな・・・」


 マギドのその話を聞いて、瑞希は愕然とした表情になった。


「そう言う訳だから・・・私は戦場に戻る。ミズキ、怪我人の事は任すからな」


 そう言ってマギドは立ち上り、テントから出ていったのだ。

 そのマギドの後ろ姿を見送りながら、瑞希は何かを考えるように真剣な表情になる。

 するとその瑞希の側に、他の場所を手伝っていたロキが近付いてきた。


「ミズキ、どうかしたのか?」

「・・・ロキ、確かそろそろ休憩していた治療兵達が戻ってくるはずだから・・・ちょっとここの事お願いね!!」

「え?あ!ちょっ、ミズキ!何処行くんだ!!」


 そうロキが叫んで瑞希を呼び止めようとしていたが、瑞希はその声に振り返らず一目散にテントの外に飛び出していったのだ。

 そしてすぐにテントから離れ人気の無い場所まで移動すると、遠視の魔法を目に掛け戦場を見渡す。


「・・・本当だ。マギド隊長の言った通り、全く攻撃魔法が魔族に効いて無い」


 瑞希はそう呟きながら険しい表情をする。

 確かにその瑞希の見えている戦場では、魔法使いの格好をした者が魔族に向かって炎の玉を撃ち出しているのだが、その炎の玉は魔族の目の前で何かに弾かれるように消滅したのだ。


「あれって・・・相当不味いよね。でも一体何で・・・あれ?なんか魔法が魔族に当たる直前に、魔族が着けている防具が僅かに光ったような・・・」


 そう瑞希は呟くと、さらに撃ち出された攻撃魔法の行方を凝視する。

 すると確かに、その攻撃魔法が魔族に到達する直前に防具が光りそしてその直後魔法が消滅した。


「やっぱり!・・・そっか魔法が効かないのって、あの防具に特殊な加工がされてるからなんだ!!・・・ってそれが分かったからって、どうにかなる訳じゃ無いんだけど・・・ん~そう言えば・・・この場合だとどうだろう?」


 そう言って瑞希は手を前にかざし意識を集中すると、そこから炎の玉を撃ち出したのだ。






「けけ、人間共の魔法なんてこの防具のお陰で全然恐く無いぜ!」


 トカゲのような顔をした魔族が、何度も目の前で消える魔法を見ながらそうせせら笑っている。

 するとその時、再びその魔族に向かって炎の玉が向かって来たのだ。


「けけ、何度やっても同じ事だぜ!」


 そう勝ち誇った言葉を言い、わざと当たるように胸を反らしてその炎の玉が到達するのを待った。

 そしてその炎の玉がその魔族の目の前に到達した瞬間、見えない何かが激しく割れる音が魔族の耳に響く。

 するとその直後、その炎の玉は消滅する事無くその魔族の身に襲い掛かり、そして一瞬にしてその魔族は激しい炎に包まれたのだ。


「うぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 その予想外の事態に周りにいた魔族達は動揺し、そしてそれを見ていた人間側の魔法使い達が一斉に攻撃魔法を撃ち出したが、結局今度は全て消滅してしまったのだった。






「・・・当たった」


 瑞希はそう呟きながら、かざしていた手をゆっくりと下ろす。


「そうか・・・普通の魔法の、三倍の攻撃力だと突き抜けて当たるんだ」


 そう瑞希はブツブツ言いながら、顎に手を当てて考え出した。


「それならいっそ私が・・・いやいや、さすがにあの数を相手にするのは厳しいし目立ち過ぎる・・・どうしたら・・・あ!」


 ふと瑞希は、自分の世界でやっていたゲーム画面を思い出す。


「そっか、それならいけるかも!!でも、どうやって伝え・・・」

「ミズキ!!こんな所で一人で何やってるんだ!!」


 瑞希が再び難しい顔で考え出そうとした時、眉間に皺を寄せながら怒った声で瑞希に近付いてくるロキが現れたのだ。


「・・・あ、ロキ!丁度良い所に来てくれた!!」

「はぁ?」

「ちょっとロキに頼みたい事があるんだ!」

「・・・頼みたい事?」

「うん!あのね・・・」


 そうして瑞希は、怪訝な顔をしているロキに頼み事を説明したのだった。

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