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魔族

「一体どう言う事だ!?」

「・・・申し訳ありません!今朝方突然魔族の軍団が現れ、こちらの体制が整う前にあっという間に陥落させられました」

「くっ・・・被害状況は?」

「はっ・・・幸いにも死者は出ませんでしたが、負傷者が多数出ています。その為、我々はその負傷者を連れてすぐに後方の砦に移りそこで守りを固めていますが、そこもどれだけ持ち堪えられるか・・・」

「・・・分かった、すぐに援軍を向かわせる。ジル、各部隊の隊長にすぐ出撃出来るよう準備をさせろ」

「畏まりました・・・ただ、今回の部隊の割合はどう致しましょう?」

「・・・剣5魔法5ぐらいで良いだろう」

「了解致しました」


 ジルはシグルドの指示を聞き、一礼してから急ぎ部屋から出ていった。


「お前もその体でわざわざ報告ご苦労だった。・・・おいお前達、この者を至急医務室に連れていき治療を受けさせろ」

「「はっ!」」


 シグルドは、扉の付近で何事かと様子を見に来ていた二人の兵士に、砦の状況を報告しに来た兵士を連れていくように指示を出す。

 そしてその指示を受けた二人の兵士は、そのボロボロに傷付いている兵士の肩を其々支え持ち部屋から連れて出ていったのだった。

 そうして部屋に一人残ったシグルドは、難しい顔でこの後の事を考えていると、すぐにジルが部屋に戻ってきたのだ。


「シグルド様、各隊長に指示を出してきました。準備出来次第城門前に集合致します」

「分かった。では私も、兄上にご報告してからすぐに出撃の準備をする。お前もすぐに準備するように」

「はっ!・・・ちなみにシグルド様、今回の戦場にミズキを連れていかれますか?」


 すぐに部屋から出ようと扉に向かっていたシグルドの背中に、ジルがそう問い掛けてきた。

 そのジルの言葉を聞き、シグルドは険しい顔でジルの方に振り返る。


「・・・何故、ミズキを戦場に連れていく話が出る?」

「シグルド様・・・お忘れのようですけど、元々ミズキをシグルド様の軍隊に入れようとされてましたよね?」

「・・・そんな話もあったな」

「それに今回は対魔族戦。今までの戦いで、魔族には魔法攻撃が一番有効でした。ならば、魔法の力があるミズキを連れていかれた方が宜しいかと思いますが?」

「だが・・・」


 ジルの言葉に、シグルドは渋い顔で返事を渋る。

 何故ならシグルドの脳裏に、あのガランド王の刺客から狙われて怯えていた瑞希の姿が浮かんでいたからだ。

 その為、シグルドは瑞希を危ない戦場に連れていくのを躊躇っていた。


「シグルド様・・・シグルド様がミズキを、戦場に連れていきたくない気持ちは分かります。しかし、今回はそのような事を言っている場合ではありません。・・・そんなに心配でしたら、ミズキには後方の安全な治療所にいて貰いましょう。ミズキの治癒魔法も、とても優秀ですので充分問題無いでしょう」

「・・・分かった。ミズキには私の方から話そう。だが・・・もしミズキが、戦場に行くのを嫌がったら無理に連れて行かないからな」

「・・・了解致しました」


 そうしてシグルドとジルは、今度こそ二人で部屋から出ていったのである。






 本日の講習を終えた瑞希は窓辺の長椅子に座り、メリンダの入れってくれたお茶を飲みながら寛いでいた。

 そしてその向かいの席にロキが座り、料理長が用意してくれていたお菓子を感心しながら食べていたのだ。


「今日のお菓子も美味いな!また今度料理長に教えて貰ってこよう!」

「・・・すっかり料理長と仲良くなったんだね」

「まあね。あの料理長とは、初めて会った時に料理の話で盛り上がってさ。それ以来いつでも厨房に来て良いと言われているんだ」

「ふ~ん、じゃあ今度ロキの手料理も久し振りに食べさせてよ」

「いいよ!その内料理長に頼んでみるな」

「うわぁ~!楽しみ!!・・・ん?何か外が騒がしく無い?」

「・・・本当だ」


 瑞希は外の様子が気になり、椅子から立ち上がって窓辺に近付き窓の外を見下ろす。

 そしてその隣にロキも立ち、瑞希と同じように窓の外を見下ろした。


「なんか、慌ただしく兵士達が走り回っているような・・・」

「そうだね。それに・・・城門前にどんどん武装した兵士が集まっているな。もしかして戦争でも始まるんじゃない?」

「え?戦争!?」


 ロキのその言葉に、瑞希は驚いた表情で隣のロキを見る。

 するとその時、ノック音が部屋の中に響きすぐにシグルドが部屋に入ってきたのだ。

 しかしシグルドの表情はとても固く、さらに戦闘用の軍服を着込んでいる様子から、ロキの言葉があながち外れでは無い事を瑞希は悟った。


「シグルド様・・・」

「ミズキ・・・我が国の領内に魔族が攻め込んで来た」

「・・・え?魔族!?」


 瑞希はシグルドから聞いた魔族と言う言葉に、目を見開いて驚く。


(え?え?魔族って本当にこの世界にいるの!?・・・確かに、冒険者をしていた時に魔族の噂を聞いた事はあったけど、ただの噂話だと思っていたよ!)


 そう瑞希は心の中で思いながらも、その時噂で聞いた魔族の特徴を思い出していた。

 この世界の魔族と言われる者は、見た目はモンスターのように人間とは違う異形な姿をしているのだが、モンスターとは違い魔族全員が基本的に二足歩行をしている。

 そして知能も、人間のようにあって言葉を喋る事が出来るのだ。

 さらに魔族の中には、顔立ちが殆ど人間と同じような者もいるらしいのだが、それでも決定的に魔族と分かる特徴がある。

 それは、必ず瞳の色が皆血の色のように真っ赤であるのだ。

 しかしそんな明らかに分かりやすい特徴をした者を、瑞希はこの世界に来てから一度も見た事が無かったので、魔族と言う存在をすっかり忘れていたのだった。


「な、何で魔族がこの国に侵攻してくるの!?」

「それは・・・この国の北にある国境付近に、魔族が住む魔界と通じる洞窟があるからだ」

「え!?」

「我が国は昔からその洞窟を見張り、魔族の侵攻を世界に向かわないように食い止めている。だから時々洞窟から出てくる魔族と、何度も交戦を繰り返してきているのだが・・・今回は思わぬ急襲を受け、いつも以上に領内に侵入されてしまったのだ」

「そうなの!?・・・もしかして、今回はいつも以上に魔族が強かったって事?」

「いや・・・前回の魔族との交戦から、そう日が経っていなかったから・・・油断していたのだ」

「・・・は?何で日が経っていないからって油断するの?普通逆だと思うんだけど?」


 瑞希は、全く意味が分からないと言った表情でシグルドを見る。


「・・・確かに普通はそう感じるだろうな。しかし、何世代も前から続く魔族との交戦には、ある一定の法則があったのだ」

「一定の法則?」

「何故か魔族達は敗戦した後、数年間は攻撃を仕掛けて来ないのだ」

「え?何で?」

「それは分からん。ただ我が国の初代王は、それでも警戒していつでも魔族と交戦出来る体制を整えていたらしいのだが・・・結局次の侵攻があったのは数年後だったらしい。そうして周期的に魔族が侵攻してくる事が続いた為、今回も同じだと油断してしまった」

「・・・何で今回変わったんだろう?」

「・・・多分、前回から魔族側の指揮官が変わったからかもしれん」

「そうなの?」

「ああ。それまでは魔族の王が指揮を取っていたのだが、ある時からパッタリと魔族の侵攻が止まったのだ。そして・・・瑞希がここに来る前に、再び魔族の侵攻があったのだが、その時の指揮官が魔族の王子に変わっていた」

「魔族の王子?もしかして世代交代したのかな?」

「それは分からん。だが、魔族の王子が指揮官になるまでずっと魔族の王が変わらず指揮を取っていたらしい」

「・・・その魔族との攻防っていつからやってるの?」

「文献によれば、建国の時から続いているらしいから・・・およそ千年以上前からだな」

「・・・魔族って不老不死なの?」

「いや、人間よりかは長生きらしいが不老不死では無い」

「・・・だったら、そりゃ完全に世代交代だね」


 シグルドの言葉を聞き、瑞希は呆れた表情でそう呟いたのだ。


(不老不死では無く千年以上生きてるなら・・・いくら魔族でもいい加減老いでしょう)


 そう瑞希は、心の中で思っていたのだった。


「まあ、それに関しては魔族側の情報が分からんから何とも言えんが、前回の戦いから指揮を取った魔族の王子はその父親である魔族の王より好戦的な性格だった。だから多分今回の急襲も、その魔族の王子の性格が影響したのだろうと私は考えている」

「なるほど、確かにその可能性は高そうだね。それで今からシグルド様は出撃するの?」

「ああそうだ・・・そこでだミズキ、お前にも今回の戦に参加して欲しいのだが・・・」

「・・・え?私!?」

「ああ。だが何も前線に出ろとは言わん。ミズキには後方のなるべく安全な場所で、治癒部隊と共に怪我人の治癒に当たって欲しい」


 そうシグルドが言うと、瑞希は顎に手を当てながら真剣な表情で考え出したのだ。


「ちなみにこれは強制では無い。ミズキが嫌なら無理に・・・」

「行くよ」


 シグルドが最後まで言い切る前に、瑞希はキッパリとそう告げた。

 するとそんな答えが返ってくると思わなかったシグルドが、驚きの表情で目を瞠る。


「ミ、ミズキ本気か?頼んでいる私が言うのもなんだが・・・絶対安全とは言い切れんのだぞ?」

「うん、分かってる。だけど・・・もう私が力を使わなかった事で怪我する人が出て欲しく無いんだ」


 そう瑞希は言いながら、シグルドの以前瑞希を庇って怪我をした部分をじっと見つめた。


「ミズキ・・・」

「だから私も行くよ。・・・まあそれでも、やっぱり前線は無理だから治癒担当だけどね」


 瑞希はそう言って、頬を指で掻きながら苦笑したのだ。


「・・・分かった。だが危ないと思ったら必ず逃げるように。それとロキ・・・」

「勿論、ミズキが行くんだからオレも付いていくよ」

「・・・ミズキを必ず守れ」

「ああそんなの・・・言われなくてもそうするさ!」


 シグルドの真剣な表情に、ロキも真剣な表情で頷いた。

 そのロキの返事を聞いたシグルドは、次に部屋の隅で黙って待機していたメリンダ達に視線を向ける。


「メリンダそれにレイラとライラ、聞いての通りだ。今からミズキも出撃するからそのように準備をしてくれ」

「「「畏まりました」」」


 シグルドのその指示を聞き、三人は揃って返事をしてから頭を下げる。


「ではミズキ、準備が出来次第城門前に集合だからな」

「うん、分かった!」


 そうしてシグルドが部屋から出ていった後、三人に手伝って貰って戦闘用の魔法使いの格好に着替えた瑞希は、ロキと共に集合場所に向かいそしてシグルドの軍隊と一緒に戦いの場へと出撃したのだった。

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