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祝賀会

 瑞希の準備が整った頃合いに、シグルドも祝賀会用の衣装に着替えて瑞希を迎えにやって来たのだ。

 そしてシグルドは瑞希の姿を見て一瞬瞠目し、すぐに口元を手で隠して横を向き少し顔を赤らめながら、ボソッと「綺麗だ・・・」と呟く。

 するとその言葉が聞こえた瑞希も、なんだか恥ずかしくなりシグルドを直視出来ず俯き加減でモジモジしている。

 そしてそんな二人をメリンダ達は、生暖かい目で見ていたのだった。






 祝賀会が行われる大広間に到着すると、瑞希はシグルドの指示でシグルドの差し出してきた腕に手を添えてから会場内に入っていく。

 するとシグルドと共に会場内に入った事で、会場内にいた沢山の貴族達からの視線が瑞希に集まってきたのだ。


(うう・・・予想はしていたけど、シグルド様と一緒だと凄く目立つよ・・・)


 瑞希はその探るようなそして嫉妬のような視線に晒され、今すぐ踵を返してこの場から逃げ出したい気持ちで一杯になっていたのだった。

 しかしそれはそれで凄く目立つ事になるし、一緒に会場内に入ったシグルドにも迷惑が掛かると瑞希は思い、ぐっと我慢して会場内を堂々と歩くシグルドに必死に付いていったのだ。

 そうして瑞希達は広間の中心に向かって歩いていると、沢山の貴族達に囲まれているシリウスと和泉の姿を見付ける。

 するとシグルドは、その貴族達の事など全く気にする様子も無くシリウス達に近付いていったのだ。

 そしてそのシグルドと瑞希に気が付いた貴族達は、すぐに道を開け邪魔をしないように離れて行ったのだった。


「兄上」

「おおシグルドか、それに・・・そなたはミズキだったな。どうだ?シグルドの離宮での暮らしは?」

「まあ・・・なんとか」

「そうか。何か不便な事があれば、遠慮無く私にも言って良いからな」

「あ!じゃあ、私の今の部屋・・・」

「ああ兄上、今日の衣装は聖女アキナとお揃いにしてあるのですね」


 瑞希がここぞとばかりに部屋変えを訴えようとしたら、それよりも早くシグルドが瑞希の言葉を遮ったのだ。

 そんなシグルドに、瑞希は悔しそうな顔でジロリと睨み付けたのだった。


「うむそうだ。アキナ用に用意させた、赤いドレスと同じ布で私の服も作らせたのだ。・・・似合わぬか?」

「いいえ、お二方共よくお似合いです」

「そうか」


 シグルドのその言葉に、シリウスはとても上機嫌になって隣に立っている和泉に視線を向ける。

 そしてその視線を受けた和泉も、とても嬉しそうに微笑みシリウスを見つめた。


(・・・うん、さすが明菜。そんな豪華で真っ赤なドレスがとてもよく似合っている。私には到底似合わないよ・・・)


 そう瑞希は思い、とても美しく着飾っている和泉をうっとりとした表情で見ていたのだ。

 するとその視線に気が付いた和泉が、シリウスから視線を瑞希に移してじっと瑞希の姿を見てきた。


「・・・瑞希も、シグルド様とお揃いの濃い青色のドレスを着ているのね。凄くよく似合っているわ」

「・・・・・へっ?」


 瑞希はその和泉の言葉にすぐに横に立つシグルドを見ると、漸く今シグルドが着ている礼服の袖や襟ぐり、そして至る所の布が今瑞希が着ているドレスと同じ布を使っている事に気が付いたのだ。


「・・・シグルド様」

「ミズキのドレスを作らせていた時に、布が余ったと言われたからな。さすがに捨てるのは勿体無いと思い、それならば私の服にその余った布を使うように指示を出しておいたのだ」


 そうシグルドは瑞希に説明したのだが、その顔がニヤリと笑っている。


(絶対わざとだ・・・)


 瑞希はそのシグルドの顔を見て、そう確信したのだった。

 そうして暫く四人で話をしていると、そこに水色の髪を頭の上で綺麗に纏め黄色い瞳をした、ガランドより少し年上の王妃を伴ってガランドが近付いてきたのだ。


「シリウス王!それに・・・シグルド公」

「ああガランド王、祝賀会は楽しんで貰えているかな?」

「うむシリウス王、充分楽しんでいるぞ。・・・このお返しに今度ワシの国でも舞踏会を開くから、是非ともシリウス王やシグルド公にも出席して貰いたいな」

「それは楽しみだ」

「その時は是非」


(・・・うわぁ~今までいがみ合っていた者同士なのに、まるでそんな事が無かったかのように笑顔で話をしている姿を見ると・・・王族って面倒くさ)


 そう瑞希はお互い笑顔で話をしている三人を、頬を引きつらせながら見ていたのだった。


「ん?おお、シリウス王の横にみえるのは、もしや噂の聖女では?」

「ええガランド王、お初にお目に掛かりますわ。わたくしはアキナと申します。仰られた通り、聖女をさせて頂いておりますわ」

「おおやはりそうか!ふむ、噂通りの美しさ・・・一目見て聖女だと確信したぞ!!」

「まあ、ありがとうございます」


 ガランドの言葉に、和泉はニッコリと微笑む。

 するとその微笑みを見たガランドは、鼻の下を伸ばしじっと和泉を見つめた。


「聖女アキナよ、もし良ければこの後ワシと二人だけで話を・・・」

「ガランド王、それは遠慮願えるか!」

「あなた!!」


 ガランドの誘いの言葉が最後まで言い終わる前に、シリウスが和泉の腰を抱いて引き寄せてそれを遮り、ガランドの王妃も目をつり上げてその言葉を制したのだ。

 その二人の気迫にガランドは身を縮こませ、慌てて和泉から視線を反らす。

 するとその視線を反らした先に、シグルドの隣に立って呆れた表情で事の成り行きを見ていた瑞希がいたのだ。


「ん?お前は・・・なんと!?あのロキと一緒にワシの下に来た娘か!!」

「あ、ガランド王お久しぶり~」

「・・・ふむ、お前もそのような格好をすれば、だいぶ良くなるのだな。・・・よし、ワシと二人で少し話をしな・・・」

「ガランド王、この女性も遠慮願おうか」


 今度は瑞希を誘おうとしていたガランドの言葉を遮り、シグルドは瑞希の腰を抱いて自分の側に近付けガランドをジロリと睨み付ける。


「あ・な・た!!」

「っ!!」


 そしてそのガランドの言動に、王妃は目くじらを立てガランドの横っ腹をぎゅっとつねったのだ。


「おほほ、主人が色々ご迷惑をお掛けして申し訳ないですわ。でも・・・貴女がミズキですのね。わたくしはマーレッドと申しますわ。貴女の事は、主人から話を聞いていますわよ。それにしても、なかなか話を聞いてくれなかった主人を説得して下さって、わたくしとても感謝していますのよ。ありがとうございます」

「い、いえ、私はべつに・・・」

「そんなご謙遜なさらなくて宜しいのよ。・・・実は貴女の事を息子に話しましたら、貴女に興味を持ったみたいなの。だから良ければ、一度わたくしの息子に会って下さらないかしら?」

「え?」

「失礼マーレッド王妃、それは・・・」


 そう言ってシグルドは困った表情で、瑞希をさらに抱き寄せる。


(ちょっ、さっきから何?近過ぎるんだけど!!)


 瑞希はそう思い、胡乱げな目でシグルドの顔を見上げたのだ。


「あらあら、そう言う事ですのね。失礼致しましたわ。息子にはわたくしの方から、諦めるように言っておきますわね。・・・ではこれ以上はご迷惑でしょうから、わたくし達はこれで失礼致しますわ」


 そう言って王妃は、まだ痛がっているガランドを連れて瑞希達の元から去っていったのだった。


「さてアキナ、私達もそろそろ行くか。ではシグルドにミズキ、祝賀会を楽しんでいってくれ」

「では瑞希、またね」


 そうしてシリウスと和泉も、瑞希達の元から去っていく。

 するとそれを見計らったかのように、今度はシグルドに挨拶をしようと続々と貴族達が瑞希達の下に集まってきたのだ。

 しかしそんなのに巻き込まれたく無かった瑞希は、すぐさまその場から逃げ出そうとしたのだが、先程からシグルドがガッチリと瑞希の腰を抱いたままでいたので、逃げ出す事が出来なかったのである。

 そうして逃げ出すタイミングを逃した瑞希は、シグルドと共に貴族達の挨拶を受ける事になると、もうどうにでもなれと言う気持ちで、ただニコニコと微笑みながらシグルドの隣で立っている事にしたのだった。






 瑞希はうんざりする程の挨拶を貴族達から受け続け、そして瑞希に対しての質問を全てシグルドに任せ続けた時間も漸く終わる頃、会場内に生演奏が流れ出す。

 するとその音楽を切っ掛けに、中央に男女のカップルが集まりだしそして自然と踊り始めたのだ。

 そしてその踊りの輪の中にガランドとマーレッドが踊っており、さらにシリウスと和泉がとても楽しそうに華麗に踊りを踊っていた。


(うわぁ~明菜踊り上手だな~!!・・・ああそう言えば、明菜って良いとこのお嬢様だったはず。なるほど、だからあんなに場馴れしているのか)


 大学にいた時に聞いた和泉の家の事を瑞希は思い出し、こんな豪華なパーティーでも、全く物怖じしない和泉を感心しながらも納得した思いで見つめていたのだ。

 するとボーと和泉達を見ていた瑞希の目の前に、シグルドの手がスッと差し出されたのだが、瑞希はそれを不思議そうに見つめた。


「・・・何をしている。私達も行くぞ?」

「へ?何処に?」

「何処にって・・・決まっているだろう。あの輪の中にだ」

「え?何で?」

「・・・お前、本気で言ってるのか?私達も踊りに行くぞと言っているのだ」

「ええ!?む、無理だよ!!」

「何故だ?」

「私、踊れないから!!」

「だが、聖女アキナはあのように踊れているぞ?」


 そう言ってシグルドは、他の貴族よりも一際華麗に踊る和泉に視線を向ける。


「いやいや!明菜と私では、そもそも育った環境が違うから!!それに明菜は、元々お嬢様だったんだよ!!」

「そうなのか?」

「そうなの!!だから、どうしても踊りたいなら・・・あそこでシグルドに、熱い視線を向けているご令嬢と踊ってきなよ!!」


 瑞希はそうシグルドに言いながら、遠巻きにシグルドを見つめている令嬢達をチラリと見た。

 しかしシグルドはその令嬢達を全く見ようとはせず、じっと瑞希の顔を見つめてきたのだ。


「・・・私が一緒に踊りたいのは、ミズキだけだ」

「え?」

「・・・本当に全く踊れないのか?」

「う、うん。唯一踊った事あるのは盆踊りぐらいだから・・・」

「ボンオドリ?」

「あ~ごめん、今の忘れて。それ説明するの色々面倒だからさ・・・」

「そうなのか?まあ良い、とりあえず何の踊りかは分からんが踊った事はあるのだな。ならば多少踊れるだろう」

「いやいや、全然違う踊りだから!!」

「それは踊ってみれば分かる事だ。さあ行くぞ」

「ええ!?ちょ!シグルド様、ちょっと待って!!!」


 結局瑞希の抵抗虚しく、シグルドに引きずられるように踊りの輪の中に二人は入って行ったのだった。

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