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王弟シグルドの離宮へ

「ミズキ・・・私は聖女アキナの言葉を聞いて、思い出した事があるのだが・・・」

「・・・何・・・ですか?」

「ミズキ、お前・・・あの聖女アキナが召喚された日、あの神殿で私に会っただろう?」

「っ!」


 鋭い眼差しで問い掛けてくるシグルドに、瑞希は声を詰まらせ視線を泳がせる。


「・・・やはりな。聖女アキナが、眼鏡の話をした時に思い出した。あの時、柱の影に隠れていた怪しい女はミズキ、お前だったのだな。しかし何故あの時、あの場所から逃げ出した?自分も異世界から巻き込まれて来たのだと名乗り出れば、聖女アキナと一緒に保護して貰えただろう?」

「そ、それは・・・」

「・・・まあどうせお前の事だから、下手に名乗り出て色々巻き込まれるのが面倒だとか思ったのだろう」

「そ、そうなの!!それに正直あんな盛り上がっている所に、私も異世界人ですとか言って出て行きづらかったんだよね。そしてそんな時に、突然シグルド様に声を掛けられたからビックリして思わず逃げちゃったんだ」

「なるほど・・・」


 瑞希の咄嗟の言い訳に、シグルドは顎に手を当てながら納得したのだった。

 するとその時、ずっと黙って事の成り行きを見守っていたロキが、瑞希に近づいてきて問い掛けてきたのだ。


「なあなあミズキ・・・ミズキが異世界人だって事はさ・・・まさか、ミズキが本当は聖女って事無いよな?」

「なっ!?」


 ロキのその発言に瑞希は目を見開いて驚き、シグルドとジルはそんな事思わなかったと言う顔で瑞希を見てくる。


「ロ、ロキ!何言い出すの!!そんな事ある訳無いじゃん!!だって・・・よく見てよ、私と明菜だとどっちが聖女に見える?」


 そう瑞希は内心大焦りしながら三人に問い掛けると、三人はじっと瑞希の顔を見つめそして揃って首を横に振った。


「有り得ないな」

「そうですね」

「ごめんミズキ、聞いたオレが悪かったよ」

「・・・・・分かってくれたなら良いよ・・・」


 その三人其々が同情の目で瑞希を見てきたので、瑞希は複雑な表情で力無く言ったのだ。


(・・・バレなかった事は良かったんだけど・・・何だろう、これはこれでちょっと・・・泣きたい・・・)


 そう瑞希が心の中で思っているなど、三人は知るよしも無かったのだった。

 そうして若干落ち込んでいる瑞希から、シグルドはロキに視線を移したのだ。


「兄上が現れた事でバタバタして話を聞けなかったが・・・確かロキと言ったな、お前の主・・・いや、今はミズキが主だったな。では前主は一体誰だ?」

「隣国ロランドベア王国のガランド王だよ」

「・・・やはりガランド王か」

「あ、やっぱり気が付いてたんだ」

「まあな。それで、そのガランド王の命で聖女アキナの暗殺を?」

「うん、そうだよ」

「・・・そんなに簡単に教えるとは・・・本当に主をミズキに変えたんだな」

「まあね。・・・まあ元々、前の主であるあのおっさんあまり好きじゃ無かったんだよな~。ただ、捨てられてたオレを拾って育てて貰った恩があったから、一応仕えてただけなんだよ」

「・・・拾って育てて貰った?あのガランド王にか?」

「まあ正確にはガランド王に拾われた後、ガランド王お抱えの暗殺集団に預けられて育ったって言った方が正しいかな。けど・・・もうほとんど恩を返してお釣りが出るぐらい働いたし、それにあのおっさんには散々コキ使われて、いい加減そろそろうんざりしてたんだよ」

「・・・だからミズキに主を変えたのか?」

「ん~それもあるけど、やっぱりオレが仕えて一緒にいて守ってやりたいと思ったからだよ」


 ロキがそう言って、瑞希を見てニコリと微笑む。


「ロキ・・・」

「だからミズキ、これからもよろしくね!」

「う、うん・・・よろしくね」


 笑顔で言ってきたロキに、瑞希は少し照れ気味に頷いたのだった。


「ゴホン!・・・まあロキの前主は誰か分かったが、しかし何故ガランド王は聖女アキナの暗殺を命じたんだ?・・・あの王が前々から、この国を狙っているのは知っていたが、それなら兄上か私の命を狙ってくるはずだろう?」

「ああそれね。あのおっさん、例のこの国の言い伝えを前から知っててさ。そんな時に、その言い伝えの聖女がこの国に召喚されたって噂を聞いたから、それなら聖女を抹殺すれば、この国は言い伝えの通り厄災の王に滅ぼされるだろうと踏んだらしいんだ」

「・・・安易な考えだな。しかしそれで聖女アキナを、か」

「そう言う事」

「・・・大体の事は分かった。とりあえずミズキとも約束したからな、今回は不問とする。ただし、まだ私はお前を完全に信用した訳では無いからな。お前には、監視を付けさせて貰うぞ」

「まあ、そうなるだろうね」

「そう言う訳でロキは監視の意味で、そしてミズキは異世界人の保護と言う名目で二人共、私の離宮に住んで貰うぞ」

「・・・やっぱりそれ、冗談じゃ無かったんだ」

「当然だ」


 瑞希が呆れながら言った言葉を聞いて、シグルドは何を今更と言った顔でキッパリと答えたのだ。


(・・・ん~多分、ここで離宮に住みたくないと言い張ってロキを連れて逃げ出したら、きっと今度は確実に表立って指名手配犯みたいな扱いで結局追われる事になりそうだな・・・はぁ~仕方がない。ここはシグルドの言う通り、大人しく離宮に住むか~)


 そう瑞希は心の中で思い、諦めの表情を浮かべていたのだった。


「さて、ロキから聞きたい事は一通り聞いたからな。そろそろお前達を離宮に案内させよう。・・・ジル、メリンダをここに」

「はい、了解致しました」


 シグルドの指示を受け、ジルは一礼してから部屋から出ていきそうして暫くして再び部屋に戻って来たのだが、その後ろには年配の女性を連れていたのだ。

 その女性は、足元まである黒く長いメイド服をきっちり着こなしており、茶色の髪の毛も頭の後でお団子に纏め白いカバーを付けている。

 するとその女性は、扉の所で一礼してから部屋の中に足を踏み入れてきたが、その茶色い瞳はしっかりとシグルドを見ていた。


「メリンダ、わざわざ来て貰って悪かったな」

「いえいえ。私はシグルド様がお呼びでしたら、如何なる時でもお伺い致します」

「そうか。それでさっそくだが・・・」

「大丈夫です。来るまでに、ジル様から大体の事は伺いました。ですのでもう既に部屋も用意させています」

「・・・相変わらず仕事が早いな」

「私はシグルド様が、お小さい時からお世話させて頂いてますので、シグルド様が為さりたい事はある程度察する事が出来ます」

「そうか・・・ああ、紹介がまだだったな。ミズキにロキ、この女性はメリンダと言って、私の離宮で侍女長を務めて貰っている」

「・・・メリンダと申します。以後よろしくお願い致します」


 シグルドの紹介で、漸く瑞希達の方に体を向けてきたメリンダは、ロキの髪色を見て一瞬瞠目したがすぐにその表情を戻し普通の態度で自分の名前を言ったのだ。


「あ、ミズキって言います。こちらこそよろしくお願いします」

「オレはロキだよ。よろしくね!」

「ミズキ様にロキ様ですね。しっかりと覚えました」

「・・・いや、『様』はべつに付けなくて良いよ」

「オレも要らないかな」

「いいえ!お二方共、シグルド様の大事なお客様ですので、そこはきっちりさせて頂きます!」

「あ、はい・・・」


 メリンダにビシッと言われ、瑞希とロキは苦笑いを浮かべながら結局受け入れたのだった。


「ではシグルド様、お二方を離宮にお連れ致します」

「ああ頼む」


 そうして瑞希とロキは、メリンダに連れられて部屋から出ていったのだ。

 そして部屋から瑞希達がいなくなり、シグルドは再び執務机の椅子に腰掛けて一つ息を吐き、机の上で両肘を付いて組んだ手の上に額を乗せる。

 するとシグルドは、突然肩を小刻みに震わせ始めたのだ。

 そのシグルドの様子に傍らにいたジルは驚いていたのだが、シグルドが手の上に額を乗せているせいでその表情を見る事が出来ずにいた。


「・・・シグルド様?」

「くくっ・・・私に・・・お尻ペンペンとか・・・有り得ぬ。くっ・・・やはりあんな女・・・初めてだ・・・くく」


 恐る恐る声を掛けたジルに気付かず、シグルドは笑いを必死に堪えながらボソリと呟いていたのだ。


「・・・こんなに笑われるシグルド様など、珍しい・・・」


 そんなシグルドを見てジルは目を見開き驚きながら呟くと、暫くシグルドが落ち着くまで黙って見ていたのだった。






 王城から続く回廊を抜け、瑞希達はシグルドの離宮に到着する。

 そしてメリンダの案内で、館内施設の説明を受けながら長い廊下を歩いているのだが、その瑞希達の後ろには二人の兵士が黙って付いてきていた。

 どうやら、シグルドの指示で付いてきているらしい。

 とりあえず瑞希はそんな兵士達を気にしないようにして、離宮内で迷わないようにメリンダの説明をしっかり聞く事に専念したのだ。

 そうして暫く歩いていると、メリンダが一つの部屋の前で立ち止まり瑞希達の方に体を向けてきた。


「こちらが、ロキ様のお部屋になります」

「へ~」


 そう言ってメリンダが扉を開けたので、ロキは興味津々で部屋の中に入って行ったのだ。

 そして瑞希も、その後に続いて中に入って行こうとしてメリンダに止められる。


「ミズキ様・・・ミズキ様には別の部屋がご用意してありますので、先にそちらへご案内させて頂きたいのですが」

「え?べつに私ここで良いよ?チラッと見えた感じだと結構広そうだし、ロキと二人でも充分住めそうだからさ」

「いけません!何を仰られているのですか!?ミズキ様は女性なのですよ?それなのに、結婚相手でも無い男性の方と一緒の部屋など絶対駄目です!」

「べつにロキだから、私は気にしないんだけど・・・」

「絶対駄目です!!」

「うっ・・・」


 そのメリンダの気迫に瑞希が圧されていると、先に部屋の中に入っていったロキが苦笑しながら扉から顔を覗かせてきたのだ。


「オレもメリンダの意見に賛成かな。今までは状況が状況だったから仕方がなかったけど・・・正直ミズキは、もう少し自分が女だって事自覚した方が良いと思うよ」

「なっ!?ロキ!!」

「じゃあオレ少し部屋で休むから、また後でミズキの部屋に遊びに行くよ」

「あ!ちょっ、ロキ!」


 瑞希が呼び止めるよりも早く、ロキは笑顔で手を振って扉を閉めてしまった。

 そして目の前で閉まってしまった扉を見て、瑞希は深くため息を吐いた後メリンダに顔を向ける。


「・・・メリンダさん、案内お願い」

「畏まりました。・・・ちなみに私の事は、呼び捨てでお願い致します」

「で、でも・・・」

「お願い致します!」

「・・・はい」


 そうして再びメリンダの案内で歩き出したのだが、それまで一緒に付いてきていた二人の兵士がその場で止まり、そしてロキの部屋の扉の両サイドに並んで立ったのだ。

 瑞希はその二人の兵士の様子を見て、どうやらロキの監視用にシグルドが付けたのだと理解する。


(・・・シグルド様は本当に、ロキの事信用してないんだね。まあ、あんな事があったんだから仕方がないか・・・)


 とりあえず、ロキ自身に危害が加えられる様子は無さそうなので、瑞希は特に口出しする事はせず、その場を後にしてメリンダに付いてさらに奥へ進んで行ったのだった。

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