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聖女アキナ

 和泉の突然の出現に、シグルドとジルはシリウスに気が付かれないようにそっとロキの近くに立ち、ロキがもし動き出したらすぐに対処出来るような位置を取る。

 そしてその二人に警戒されてるロキは、苦笑を浮かべながら何もしないと言うのをアピールするように、頭の後で腕を組んだのだ。


「アキナ・・・危ないから、待っていなさいと言っただろう」

「でもシリウス様、もしわたくしの聖女の力が必要だったらと思いましたら、じっとなんてしていられなかったのですわ!ですけど・・・どうやら必要無かったようですわね」


 和泉は水色のヒラヒラとした衣を纏った姿でシリウスの隣に立ち、少し残念そうな表情で部屋の中を見回してきた。

 するとまずその視線はロキに止まり、その真っ白な髪に「まぁ!」と口を手で隠し小さな声を上げて驚きの表情を見せる。

 そして次に、瑞希の方に視線を移動させた。

 瑞希はその視線に気が付き、それまで突然の事に固まってしまっていた体をなんとか動かそうとしたが、時既に遅かったのだ。


「あら?貴女何処かで・・・」


 そう和泉は怪訝な表情に変わり、じっと瑞希の顔を見てきた。


(お願い!!私の事なんて気が付かないで!!!)


 瑞希はそう焦った様子を表に出さないようにしながら、切実に願っていたのだ。

 しかしそんな瑞希の願いなど、簡単に打ち砕かれる事となる。


「まあ!眼鏡をされていないから気が付きませんでしたけど、貴女あの時あの場所にいらしゃった・・・確か、高坂さんですわよね?」


(ひーーー!!名字も知られてた!!!)


 瑞希は驚いた表情で言ってきた和泉を見ながら、激しく動揺していたのだ。


「・・・コウサカ?聖女アキナ、貴女はミズキの事を知っているのか?」


 そうシグルドは和泉に向かって、不思議そうに問い掛ける。


「ええ、勿論知っていますとも!わたくしと、共通の趣味を持たれている同志ですわ!わたくしいつか、高坂さんと一緒にお話したいとずっと思っていましたのよ」


(・・・いやいやいや!そりゃ確かに私は、ゲームや漫画が大好きなヲタクと言う分類かもしれないけど、さすがにヲタクであり中二病気質の和泉さんとは同志では無いから!!!)


 瑞希は力強く力説した和泉に向かって、心の中でツッコミを入れていたのだった。


「・・・一体どこで出会ったのだ?それに、共通の趣味を持った同志?それは何だ?」

「それは勿論ヲ・・・」

「わぁぁぁぁ!和泉さん、久しぶりだね!元気にしてた?」


 和泉が胸を張って『ヲタク』と言おうとしている所を、瑞希は慌てて言葉を発して遮ったのだ。


「やっぱり高坂さんでしたのね。でも・・・どうしてこちらに?」

「え、えっと・・・」

「ああ!そう言う事ですのね!あの時、わたくしの召喚に巻き込まれてしまわれたのですわね!」

「い、い、い、和泉さん!!!」


 瑞希がなんとか誤魔化そうと考えながら言葉を濁らせていると、和泉が何かに気が付き手をポンと叩いて爆弾を投下してしまったのだった。

 その和泉の言葉を聞き、シグルドを始め他の三人も驚きの表情で瑞希を見てきたのだ。


「召喚?巻き込まれ?・・・もしやミズキ、お前・・・異世界から来たのか?」


(ぎゃぁぁーーーー!!バレた!!!)


 シグルドが怪訝な表情で瑞希に問い掛けてきたので、瑞希は声に出せない悲鳴を心の中で叫んでいたのだった。


「あら高坂さん、皆様に仰られていなかったの?・・・ああそうでしたわね。高坂さん、最初わたくしと間違われて先に・・・」

「ああああああ!!和泉さん!!ちょっとお話が!!」


 和泉がさらに余計な事を口走りそうになっていたので、瑞希は慌てて和泉の手を引っ張り皆から離れた所に連れていく。


「おい!アキナに何をする!!」

「ああすみません!べつに和泉・・・アキナさんに危害を加えるつもりは無いので、心配しないで下さい!ちょっとアキナさんにお話があるので!!」

「しかし・・・」

「シリウス様、わたくしは大丈夫ですから少しそこで待っていて下さいね」

「・・・うむ。分かった」


 シリウスが和泉の微笑みを受け、渋々納得し近付いて来ようとした足を止める。

 それを見て瑞希はホッとし、そしてシグルド達もその場から動かないでいてくれる事を確認した瑞希は、その四人に背を向ける形で和泉に小声で話し掛けたのだ。


「ごめん和泉さん・・・私確かに、和泉さんの召喚に巻き込まれてこの世界に来ちゃったんだ」

「やっぱりそうでしたのね・・・ごめんなさいね」

「ぐっ・・・う、ううん、和泉さんは悪くないから謝らないで!」


(だって、本来巻き込んじゃったのは私の方・・・あれ?あの場合って、私が巻き込んだと言って良いんだろうか?むしろ自分から?・・・とりあえず!聖女の役目を和泉さんに押し付けたのは私だから、本来は私が謝らないといけないんだよね・・・正直あまり謝られると罪悪感が・・・)


 そう瑞希は思い、罪悪感で痛んだ胸を押さえる。


「高坂さん、どうかなさいましたの?」

「う、ううん、何でも無いよ。えっとそれでね・・・私この世界に来ちゃったけど、和泉さんのように・・・聖女でも無いから、下手に異世界から来たとバレると色々都合が悪くて黙っていたんだ」

「まあ!そうでしたの!それなのにわたくしったら、色々言ってしまいましたわ・・・ごめんなさいね」

「まあ、和泉さんは知らなかったんだし仕方がないよ。ただ・・・私が和泉さんより先に召喚されそうになっていた事、黙っていて欲しいんだ」

「あら?どうしてですの?」

「だって・・・和泉さんと間違われて召喚されそうになっていたなんて・・・恥ずかしいからさ」

「・・・なるほど、分かりましたわ!そう言う事でしたら、その事は誰にも話は致しませんわ!」

「ありがとう和泉さん!」


 和泉が真面目な顔でそう約束してくれたので、瑞希は嬉しそうに喜び和泉の手を両手で握ってお礼の言葉を言う。


「わたくしのせいで、高坂さんは巻き込まれてしまいましたもの・・・これからはシリウス様に、色々高坂さんを助けて貰えるようお頼みしておきますわね!」

「あ、ありがとう・・・でも、出来れば放っておいて貰えるのが一番助かるんだけど・・・」

「何を仰いますの!この世界で唯一の同じ異世界人同士、出来ればこの機会にお友達になりたいと思っていますのよ!」

「あ~まあ、お友達になるのは全然構わないよ」

「本当ですの!では、これからわたくしの事は明菜と呼んで下さいね!」

「じゃあ、私の事も瑞希と呼んでね」

「ええそれじゃあ瑞希、これから困った事があれば何でもわたくしに言ってくださいね!」

「・・・あ~うん。ありがとう」


 和泉の押しの強さに、とうとう瑞希は苦笑いを浮かべながら返事を返したのだった。

 そうして瑞希達は、再びシグルド達の下に戻っていったのだ。


「シリウス様、お待たせしてごめんなさいね」

「いや、私の事は気にしなくて良い。それよりも、話は済んだのか?」

「ええ、終わりましたわ」


 そう言って和泉は、シリウスに微笑んで見せたのだった。


「ミズキ・・・確認するが、お前は本当に異世界から来たのか?」

「うっ・・・・・うん。そうだよ」


 シグルドに問い詰められ、瑞希は観念したように項垂れながら頷いたのだ。


「では・・・そのミズキの、他の者とは違う魔法の力も異世界人だからなのか?」

「え?瑞希・・・貴女、魔法が使えますの?」


 そのシグルドの言葉に、和泉が驚いた声を上げながら反応したのだった。


(ヤ、ヤバイ!!明菜に魔法の説明していなかった!!!)


 そう瑞希は気が付くと、焦った表情で慌てて和泉の方に顔を向ける。


「え、えっとね・・・実はこの世界に来る途中で・・・なんか神様みたいな声が聞こえてね。それでその声の主が、巻き込まれて可愛そうだからって、この世界で生きていけるように魔法の力を与えてくれたんだ」

「まあ!そうでしたの!」

「うん、黙っていてごめんね。あまり言わない方が良いかな?と思ってたからさ」


 瑞希はそう咄嗟に頭に浮かんだ言い訳を言ってみたが、思いの外和泉がそれを信じてくれたようで内心ホッとしていたのだ。


「そうですわよね・・・確かにこの世界は、わたくし達の世界と違って色々危険な事がありますものね。神様はそれを心配して、瑞希に力を与えて下さったって事なのですわね。良かったですわ・・・わたくしのように聖女の力を宿してらっしゃらない瑞希が、この世界でやっていけるのか正直心配でしたのよ。まあ、わたくしの方は厄災の王が現れるまで、力は温存されているようで今は使えませんけど・・・その時が来れば、わたくしの聖女の力でこの世界を救ってみせますわ!安心なさってね!」

「う、うん。・・・よろしくね」


 和泉の力説に、瑞希は空笑いを浮かべながら和泉を応援したのだった。


「アキナ・・・そろそろ戻らないと、神官長が心配しだす頃だろう」

「あ、そうですわね!じゃあ瑞希・・・」

「兄上!少しだけお待ちください!」

「ん?なんだ?」

「ミズキの事なのですが・・・ミズキが異世界人だと言う事は、ここにいる者だけの秘密にして頂きたいのです」

「・・・どうしてだ?」

「ミズキが・・・聖女アキナと同じ異世界人だと他の者に知れれば、それを利用して偽の聖女を担ぎ上げようとする輩も現れる可能性がある為です」

「ふむ・・・確かにその可能性もあるな。うむ、分かった。その事は他言無用に致そう。アキナもそれで良いか?」

「ええ、わたくしはその意見に賛成ですわ。瑞希の安全を考えれば、そうなさった方がよろしいですものね」

「うむ、では皆の者そのように頼むぞ」


 シリウスがそう言って部屋の中を見回すと、皆首を縦に振って頷いたのだ。

 正直瑞希もその対応にはとても助かったと思い、大きく頷いて見せる。

 そうして今度こそシリウスは、和泉を連れて再び中庭に向かって去っていったのだった。

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