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赤錆びとオイル


「……これって、つまりその……AIによる創作、ということでしょうか」

「いや、違う違う。突然変異だ」

「……付喪神?」

「違うって。めたぞん先生は生まれたときからあの姿」

「生まれたときから……ゾンビだったんですか」


 先輩は腹を抱えて笑った。


「そんなわけないだろー!? はっはっははあはは、そりゃ、生まれたときは新品ピカピカのメタルだったって! おっかしなこと言うなあヤナセ君は。あっはっは」


 もう何がおかしくて何がマトモなのか全然わかりません!


「先生は、こういう姿の人間なの。ただそれだけなんだから大げさに騒ぐな。めたるぞんびはそこから取ったペンネームで、本名は山本愛充やまもとめたる。いい名前だろ。愛が充ちるだなんて、ご両親はロマンチストだ。ねえ先生」


「ギギィ、ギ……」


 うなずくめたるぞんび氏。当然のように錆粉が落ちたが、今度はメギギと不穏な音が漏れていた。慌てて先輩が駆け寄って、


「ああ、こりゃいかん。ヤナセ君、油だ。緊急用に調理油でいい、キッチンにいって、油をお借りしよう」


「は、はいっ」


 僕は反射的に、1LDKの小さなキッチンへ飛びついた。シンク下を開いてみると、確かに油がある。しかし、


「せ、せせせ先輩、なんか、いっぱいあるんですけど!」


「いっぱい?」


「これは液体ラード……揚げ物さっぱりヘルシーオイル、これはオリーブオイル、えっまたオリーブ……ああエクストラバージン? ごま油とココナッツオイルと、ええぇぇなんだこれグレープシードオイルってなんですかコレ、あっいいにおい。ロボットのくせに何をこじゃれた趣味もってやがるんだこの野郎ぉおおお!」


「落ち着けヤナセくん、普通のサラダ油でいいんだ!」


「ああーもう、僕、なにが普通なのかなにもかもわからないんですうぅ!」


「落ち着きなさい、何でもいいから手につかんで持ってくるんだ!」


 叫ぶ先輩。僕はとりあえず何も考えないようにして、ヒマワリ油を手に戻った。先輩と協力し、めたぞん先生の首まわりに塗りたくる。熱を持つメタルから、なんだか香ばしい匂いがした。


「……そういや、昼メシまだだったな」


 先輩も同じことを思ったらしい。お腹すきましたねと僕が相槌を打つ前に、


「ギギ……ワタシもまだです」


「しゃべんのかよっ!?」


「そりゃしゃべるだろ、人間なんだから。お前、めたぞん先生をなんだと思ってる? さっきから失礼が過ぎるぞヤナセ君」


 ああああもう。


 どうやらココでは、僕のほうが異質な感覚であるらしい。

 それもそのはず、めたるぞんび先生はベテランの、MZ文庫の売り上げを引っ張る売れっ子作家だ。彼の存在が編集部にとって異質であるわけがない。


 僕はチョット納得はいかなかったけど、それでも無理に、飲み込むことにした。


 ピカピカの新人だって社会人。切り替えて、先生に失礼のないようにしなくては。


「し……失礼しました。じゃあ、僕……みんなの昼ごはん、買ってきましょうか。近場でよければまわりますよ」


 僕の提案に、先輩は嬉しそうにうなずいた。めたぞん先生も目を輝かせる。比喩ではなく、文字通り、眼球部分にはめ込まれた黄色のホグランプがクルクルピカピカ回っていた。


「…………。な……何がいいですか。お弁当かパンか、カップ麺か」


「俺はホカ弁がいいな。ぽっかぽか亭で、デラックス焼肉めだまやき弁当」


「ワタシは、コズモ石油でオーガニック軽油を2リットル」


「やっぱりロボットじゃねえーか!!」


 ガン! ボム! プシュー!


「ああっバカ、ヤナセ君なんてことを! 先生っ! めたるぞんび先生―っ!」



 蛇腹の首をぐらんぐらんぐわんぐわんさせながら蒸気を吐き出しまくる小説家を、先輩は慌てて抱き留め、回転する首を抑え込んだ。


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