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大好きな皆を助けられるのなら・・・
ケートスは、要らない
アルバの瞳から涙が零れ落ちた。
「・・・・と・・・・父様・・・・・・。」
ねえ・・・僕を見て、
母様と僕にもう一度微笑んで、
掠れた声で、アルバは、
白いベッドの上の父、シルクに呼びかける。
もう2度とこの美しい父の瞳が開かないなんて信じられない
優しい父の手がアルバや、母のエーティルに
触れてくれる事が無いなんて思いたくない。
「とう・・さまぁ・・・と・・さま、とぅ・・答えて、答えてよぅ~」
やっと会えた父様、
大好きな母様が今までずっと愛してた
そして今も愛している
温かくて優しくて綺麗な父様、
アルバは、二度と父の瞳が開かない事も、
触れてくれない事もよく分かっていて、
でも、認めなくなくて、
父の上に伏して涙をその服に染み込ませた。
「ケートスを連れ帰ることは諦めなさい」
父、シルクは、アルバにそう言葉を遺していた
そして、代わりに今だ捕らえられている者達を救うために、
月の大神殿にある、
3つの宝を貸し与えてくれるようにと大神官に
話をしてくれていたらしい。
もともとアルバとしては、
領主が人質にした大切な人を救い出せるのなら
ケートスの事はどうでもよかった。
もともと、
領主リュデクテスが、人質の代わりに、
出来るとも思っていない、領主一族から逃げた聖獣ケートス探しを、
邪魔なアルバに、命じただけだったのだ。
「アルバ様、どうなさいましたか?」
その言葉で我に返ったアルバは声を掛けてくれた
男に微笑を返した。
旅先で友達になった少女レオンが
海の義賊として船長をしている船の男だった。
アルバ達は、人質を助ける為に、
領主リュデクテスの屋敷の下に広がる
ゴツゴツとした岩場を登っていた。
アルバが、身に着けているものは、父シルクの国
『巫子王国サフラ』の、月の大神殿より借り受けた
三つの宝
十字の剣、何物をも、呪いすら、断ち切るとされる
神の祝福を受けたもの。
シルフのサンダル、風の吹く所を
どこでも自在に歩けるというもの。
セイレーンの貝笛、生きとし生けるものを
眠りに誘うというもの。
それらの貴重な物を借り受け、身に着けていた。
アルバは、領主リュデクテスの一族に
代々伝わってきたとされる
海の聖獣ケートスの事を何も知らない。
だから、もちろん、父のシルクが何故、
ケートスを連れ帰ることを諦めるように
言ったのかは分からない。
しかし、それは、少なくとも、
今、自分達がしようとしている
人質を、領主の屋敷から助け出そうとすることよりも
難しくて、危険な事だと、
父のシルクが考えたのだろうとは
何となくアルバに分かった。