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その姿は、大きな魚のようでもあり、


また、大きな蛇のようでもあった。






幼き少年アルバは、自分を飲み込んでしまいそうな


裂けた口を持つその大きな生き物を見上げた。




「僕に力を貸してください。


偉大な海の王、『ケートス』。」




アルバは、父譲りの朱金の光を紡いだかのような


暁の髪を海の潮風に遊ばせ、


父より受け継いだ力を持って、語りかけた。


神の力を授けられし、神の子、


遠き異国の巫子王である、父より受け継いだ


精霊達と語り合う力を持って、


今、アルバは、


海の怪獣にして、聖獣、『ケートス』に語りかけたのだ。




「今、とてもこの海洋の国々達は、荒れています。


沢山の哀しむ人達が居て、


苦しむ人達が居て、


涙を流す人が居る。


僕は、守りたい・・


全て守りたい、哀しみを全て取り除きたい・・・


苦しみを取り除きたい


流れる涙を止めたいのです。」




黙って見下ろす『ケートス』に


アルバは語り続ける。




『ケートス』は、自分と比べると小さなアルバの姿を、


自分どころか、人間としてもまだ幼く小さなアルバを、


ただ、見つめていた。




アルバの、母譲りの海色アクアブルーの瞳からは、


アルバの強い想いが溢れていた。




『ケートス』は、知らず瞳を細めた。


幼く小さなアルバの身から溢れる強い力と、


伝わってくる純粋な穢れなき心、


美しい暁の髪と、海の瞳に心が揺れた。






「私は、かつて、ある血族の血に宿る人の強さ欲望そのものの力に憧れ


契約を結び従った・・・。


しかし、代を重ねるごとにその血族の者達は堕落し


私を満足させるものが現れなくなってしまった・・


私は、絶望し・・・・その血族から去って行った・・。」




「・・・・もう、人と関わりあいたくないなどと、思わないで、


私が・・・私の血族が、再び貴方を満足させるから・・


だから、力を貸して下さい・・『ケートス』・・。」


『ケートス』の言葉にアルバの言葉が、想いが、ぶつかる。




「・・・お前が・・?・・・お前の血族が


私に身と心を捧げるというのか・・?


確かに・・・・お前の血と、力と、心はひどく惹かれるものがある・・。


お前のその美しさは、私の心を波立たせる・・。」




どこか楽しげに海の水を揺らし大きな津波を起しながら


笑う『ケートス』に、アルバの心が一瞬揺れる。




自分にこんなに大きな力を持った聖獣を


従わせることが出来るだろうかと、


自分だけでなく、血族まで、捧げて良いのかと、




幼いアルバには、自分の血族、


自分の子、孫といった、子孫といっても


想像が出来なかったが、




自分の大好きで大切な


最愛の母を捧げる事と同じ事だと気が付くと


流れる涙を止められなかった。




じわりとアルバの瞳から涙が溢れ


頬を伝って落ちた。




辛かった。












しかし、


この瞳に映った哀しみと苦しみを


見て見ぬ振りをすることは、


アルバには出来なかった。






「貴方に、私の全てと、私の血族を捧げます・・・・『ケートス』・・・」





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