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魔法戦士メルフルール その4

「おい、小僧。何をボサッとしとる。さっさと助けんか」


 暗闇に堕ちかけた思考を引き戻したのはそんな嗄れた声だった。


 鯨の動きは僕の感覚の麻痺とは違う形で止まっていた。

 四人のメルフルールの攻撃が鯨の顔面に炸裂した為だ。

 赤い炎が表皮を焼き、氷の礫が太ももを穿った。地面から這い出た植物の蔓が足に絡まり、小さな雷撃が腕を撃った。


 僕が照加に語った事はなにもデタラメばかりではない。

 メルフルールが逆境に強い性質を持っている事は本当だ。彼女達もやはり、このピンチによって潜在能力が解放されたのだろう。


 さすがの怪物もたまらずに片膝を着いている。


「いけーっ、今じゃーっ、畳み掛けろーっ」


 と、先ほどの嗄れた声。そこには、目が隠れるほどの眉毛が生い茂った犬に似た生き物が興奮した様子で短い手足をバタバタとさせていた。彼女達のサポート妖精だろう。


 彼の号令に合わせ、四人は鯨に集中砲火を開始する。

 盛大に魔法が飛び、鯨の姿は火炎や氷柱で見えなくなった。


「よーし、これでえいじゃろう」


「ダメだ、この程度じゃ奴は死なないシオ。限界まで魔力を放出するシオ」


「なんじゃ。小僧はまだそこにおったんか。さっさとそこの小娘を連れて消えろ。こやつはワシらの獲物じゃあ。経験値はビタいち渡さんぞ」


 老犬は僕を一瞥すると横柄に腕組みしそんな言葉を寄越した。


「おいおいおいおい、じーさん。その小僧の言うとーり、なんだぜぇ。俺はこの程度ではくたばらない。故に至強、いや、至強の次だな。だから、お前らの経験値になどならなーい」


 顔は焼けただれて原型を留めていない。

 それどころか、頭部そのものが破壊されて変形している。

 身体も同様でまともに機能している器官はないのではないかと思える程にズタボロの鯨は、ケロイド状になったかつて唇のあった辺りから綺麗に発声していた。

 辺りには肉の焦げる嫌な匂いと、身体から立ち上る煙が漂っていた。


 さすがの老犬も威勢の良さはなくなっていて、小さく、「なんと面妖な」と呟くのがやっとのようだった。


「さあ、これから本気出してお前らミンチ……、と行きたいところだったんだけど、もう今日は止めとくか。面倒になってきた。それに、この身体ももう駄目しな」


 そう言って鯨は公園の入口へ顔を向ける。

 そこには、数台のパトカーと装甲車、機動隊が展開を初めていた。

 派手に暴れて盛大に魔法を使ったので当然の結果ではある。


「おう、ウッシーよ。お前に一つ聞きたい事があるから二秒で答えろ」


「な、なんだシオ」


「扉はどこだよ」


 単刀直入だ。ある程度予想はついていたので、どうにか冷静に対処できるだろう。


「し、知らまいシオ」


 し、しまった。思いっきり噛んでしまった。

 鯨は怪訝な顔でこちらを見ている。何か言うべきだろうか。

 しばらく待ったが、奴は立ち去りもしないし、言葉を重ねる事もしない。


「ほ、本当だシオ。本当に何も知らないシオ」


 無言のプレッシャーに負けてつい余計な事を口走った。どう考えてもクド過ぎる。


「そっか、じゃあいい」


 馬鹿で良かった。


 滴り落ちる肉片を撒き散らして、鯨は跳んだ。

 背の高い樹を軽々と超えてすぐに見えなくなる。


 僕と照加はどうにか生き延びた。

 だが、この後、警察の事情聴取を受ける事になった照加が余計な事を言わないかどうかと、僕の気はまだ休まらない。

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