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人間不信になった私は

作者: G

私の心は常に居酒屋のカウンター席に居座っているようだ。カウンター席は普段は一人孤独に座ってるものだが、時折、出会いの場に変わることがある。私の心はその出会いに酒を酌み交わし、一期一会を楽しむ。

そして、別れの時間が来れば、私の隣の「他人」は席から離脱し、また私一人、そのカウンター席に取り残される。だが、つい最近、私のカウンター席は突如、華やかになる。

まだ、私が社会復帰をして、数ヶ月のことである。私の将来の妻となる美女がカウンター席の隣に座ってきた。彼女の頬には涙が伝っている。私は元来、女というものに弱く、ましてや泣いている女に声を掛けることは至難のわざだ。そういう時は、カウンター席の向かい側から、声がかかる。店主だ。店主は物静かで職人気質な方であり、私を含め全ての客を和ませてくれる。

店主の問いかけに女は涙声で語り始めた。父のガンの再発、結婚詐欺、終いには借金による取り立て…。私は何て不幸な方なんだと思った。私の居酒屋のカウンター席にひんやりとした雰囲気が漂い始める。店主は黙って聞いおり、彼女の話が終わると静かに小料理を振舞った。ガンの再発は運命に逆らえない無常、結婚詐欺は現代に謳われる契約社会の影、借金の取り立てと言えば財政赤字によるデフレの荒波。どれも一筋縄ではいかない大きな問題である。辛い気持ちを涙で済ませられるこの女を強いと思うと同時に、この場で出会って、話を聞いてあげれてよかったとこれほどまでに思ったことはなかった。

ひと段落ついて、私はようやく彼女の頬に涙が伝ってないことを確認すると、話しかけてみた。辛いことを全て知って、今からどうすべきか、未来をともに語った。彼女の顔は不安でいっぱいだったが、私に心配の余地はなかった。彼女は強いからだ。

それから数日後、ある一通のメールが届く。名前は双葉葵。内容は先日はありがとうございましたから始まる。どうやらあの時の美女らしい。居酒屋の店主にそのメールを見せると、店主は微笑んで静かに語った。

「あなたはカウンター席に一人座る孤独な方ではないんですよ。ただ、周りと距離をとって孤独を繕っているだけで、本当は自分でもわかっているんじゃないんですか?そろそろ居酒屋から本当に自分がいるべき場所へ帰る時が来ていると」

店主は珍しく口を開いて、私の心に新風を吹き込んだ。そして、私のいるべき場所に帰らなければならないと悟った。メールの文末にPS‘‘夕飯までには帰って来てくださいね”と書かれていたからだ。

彼の帰りを待つ女は、台所で夕飯の支度をしながら微笑していた。彼女の名前は双葉葵。あの日、貴女は強いと言われて、励まされたからこそ今こうしてその男を待っていると実感していたのだった。

30分弱で仕上げた作品です。

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