目が覚めたら~なんて、お約束だな。
暗い部屋でゲームのコントローラーを動かす音がただひたすら響いていて、その速さは最早凡人のレベルを越している。カタン、という音と共にそのコントローラーを机におけば、そのプレイヤーである世羅 雄魔は呟いた。
「はっ…こんなゲーム、楽勝過ぎるだろ。魔王弱すぎてワロタ。」
世の中はクソゲーで溢れている。もちろん、このゲームだってそう。簡単すぎて、彼には面白くもなかったらしい。ベッタベタな展開にため息すら溢す。彼は常に思っている…どのゲームも魔王がクソである、と。自分が魔王になったのならもっとうまく立ち回るだろうし、もっと勇者を苦しめる…いや、むしろ倒せるだろう、と。
「なんで魔王はバカなんだかなぁ…俺が魔王になったら絶対勇者は魔王を倒せねぇな!」
そんなことを呟いて背もたれにのし掛かる。
完全に昼夜が逆転したその体は朝の七時をもう寝る時間だと結論を出したらしい。くぁ、とひとつあくびをこぼし、雄魔は布団に思いきりダイブをした。
彼は世間で言うNEETだ。仕事もせずにひたすらゲームをやることに日々を費やしている。そして確かに…確かに昨日は自分の布団に横になって寝たはずだ、さすがにそれすらわからないほどバカではない。それがどうだ、質素な固いベッドは君の悪い角や骨で装飾を施されたふかふかの物に変わっているし、部屋は自分の部屋の二倍ほどの大きさに広くなっており、これもまた趣味の悪い装飾……。
しかし、どうにも見たことのある風景だと彼は気付く。
(……某人気ゲーム会社、N社にしては珍しいネットゲーム…しかもクソゲーの"SAMARAOU"、魔王の城七階隠しエリア…!!)
「す、すげぇえ…!そっくり、そっくりだ!こんなに忠実に再現できるものなのか!!あの気色悪い絵まで全部作ってある……!」
その部屋は確かにゲームにそっくりで、驚きの再現度だと彼も唾を飲み込む。その部屋の壁の傷、壁に掛かる絵の位置も絵そのものも、わけのわからない装飾品だって本当にそっくり…いや、むしろ見た通り、同じである。
「いやしかし、一体何があったんだ…?俺の部屋はリフォームしたの?しかも一晩で?一晩でなの?」
なんとなく部屋から出ようと思って布団から降りようとすると、自分の手首から"ジャラリ"なんて嫌な予感しかしない音が聞こえる。嘘だろ…なんて思って手首を見れば案の定、彼の手首にはひとつ、真っ赤な宝石の埋め込まれた凝った作りの手錠がかけられていた。
-冷汗が滲む。
朝に目が覚めたら部屋に謎の美少女…なんてお約束の展開ではなく、深夜に目が覚めたら趣味の悪い部屋に監禁されていました。
「いや!こんなもん誰も得しねぇよ!!!」
大きな部屋に、虚しく彼の叫び声が響いた。