第16〜17話 Insertion
第16話を読み終わってから読むことを狂うほどに、酔うほどにお勧めしちゃったりします〜
外伝、第2話。
協会でとある会議が行われた。
この世界の秩序を守るため、NIGHT MAREを討つ為。その為に彼らは“集まり/集められ”、これからの……世界中で繰り広げられている戦いに臨むのだ。
まともに臨んでくれればいいけど……
正直に言おう。
ここが俺にとって間違いじゃなく、場違いな所でしかないんだと。
「面倒臭ぇ……」
樹とコンクリートに包まれたその大きな空間。
『会議室』
重たい純木製の扉に、準金属の柱と石柱。
各種様々な照明装置や冷暖房装置。
中央に設置されたホロスクリーン装置とそれを囲む円卓。
男は会議室の扉を扉をくぐり、無駄ない足取りで自分の席を目指す。
滅多に会議室へ来ることは無いものの、席は絶対指定だ。
入り口側から見て、右側。ちょうど、時計の3時にあたる場所である。
怒髪天を衝く、逆立てられた髪と左の真紅の義手が特徴の男――この世の悪を担う四凶のSR――トウコツは椅子を引いてそこに腰を据えた。
(ほとんど揃ってんな……)
深く、一呼吸。
いままでの鬱憤とこれからの億劫をため息に乗せて吐き出す。
そんな彼を睨む者がいた。
遅刻だと咎めたいのだろう。
だが、言いたい事は遅刻だけじゃないはずだ。山ほどあるに決まっている。
「あんだよ?」
その男、ちょうど右側2つのところに座る彼は、スーツに身を包んだ吸血鬼のSR。
通称:『伯爵』
トウコツの質問に伯爵は笑って返した。
そんな2人の間に1人の男が割って入る。
ここ、協会本部。
特別会議室と呼ばれる場所で、20数名と会長“代理”による『白州唯高校襲撃事件の検討会』及び、『会長が下した特例及び今後の方針を伝える為の会合』が開かれた。
「では、揃ったようなので始めます」
司会を務めるのは、協会長の補佐兼執行部特務隊隊長の彼女。
長い髪を後で束ね、普段は着ないであろう――故に少しムズムズするのだろう――スーツに身を包んでいた。
「なら、早速聞かせてもらう。
何故我々がココに召喚されている?」
そんな彼女に質問を浴びせた男は、おそらく今この会議室の中で最も強大な力を持つSRだった。
しかし、トウコツからすれば、強大であるSRはソイツだけじゃない。
(すげぇ顔ぶれじゃねぇか……)
周囲に目を配りながらトウコツは驚いた。
司会、そして今の質問者。
その他数名…………
というより、この部屋にいる半数近くの者は似て非なる共通点を持っている。
「理由は今から説明します。
まず、手元の資料か中央に注目を」
トウコツは黙って正面を見続けた。
これだけのメンバーに自分が加わっている理由がわからない。
その理由を後で問おうと心に決め、わずか資料に目を落とす。
「3日前、最重要監視・観察対象:色世トキの生活領域にNIGHT MAREが干渉したことは耳にしていますね?
3日前に限らず、近頃NIGHT MAREの活動が活発になってきました。
それは皆さんもご存知のハズです」
「あいつら寝ることを知らねぇみたいに騒ぎやがるしな」
「本格的に組織化したそうじゃないか」
「続けます。
白州唯高校襲撃に加担したSRは20強。
これがそのメンバーです」
中央のホロスクリーンに立体映像の八角形型掲示板が現れる。
その各面に襲撃者達の顔写真と簡単な経歴が表示された。
(呪術師、ゴブリン、バク……
魔法使い――)
トウコツの目がある人物で止まる。
――魔法使い――
たかが一魔術師に過ぎないハズなのに、苦戦を強いられた……確かにあの時の子供だ。
(ベクター・ケイノス。
生きていたか……)
「で、どうして俺たちが集められる?
あの学校にも“護衛と観察を兼ねて数人潜らせる”って言ってなかったか?」
「確かに言いました。
しかし今回、敵は――」
ホロスクリーンが別の映像を投影する。
白州唯高校とその近辺、周囲1キロメートルの縮小モデル。
「敵は更に遠距離から仕掛けてきたのです」
「どうやって?」
「狙撃?」
ここのにいる全員は白州唯襲撃の話は聞いているものの、詳細を知る者はごく僅か。
そんな質問が上がった時、トウコツの2つ右隣の男が哂った。
「実に安易な仕掛けだ」
全員の目が男に集まる。
トウコツだけが殺意を込めてソイツを睨んだ。
「まずはバク。数体の精神干渉によって人間が眠りやすい状況を作り出す。
この時点で眠りやすい奴、疲労が溜まりに溜まっている奴、眠りに対する耐性が無い者はすでに夢の中だ。
一般人で90%は眠りに落ち、SRも例外なく睡魔に襲われる。
だが、そこに呪術師が追撃をかけることによって、一般人なら100%、SRでも最低90%の確率で夢の世界だ。
全員お休みの時間に出来るわけだ」
「目的はやはり、色世トキか?」
負けじとトウコツが聞く。
今度はソイツがトウコツに殺意を込めた目線を送った。
「はい。
処理班の報告では色世トキ及び、その他複数の“器候補者”の確保が目的だったと」
「ちょっと待て。
その情報は確かだろうな?」
「はい。
襲撃者は運良く逃げ延びた者数名。
その他はほぼ全滅と言って過言ではないでしょう。少数生きていますけど」
「なら、その処理班の情報はどこから来た?
また奴らの罠に嵌るのはゴメンだぜ。
こちとら前回、首まで吹っ飛びかけたんだからな」
「処理班に情報を提供したのは、完璧のSR……
ワルクス・ワッドハウスです」
僅かな波が起こった。
トウコツも少し意外に思ったが、すぐに頭を切り替える。
(あの男……)
「ほぅ?
てっきり協会を抜けたものだと思ってた――」
「話を戻します。
今回の事件では無関係な人々も巻き込まれ、死傷者・建造物への被害も大なり小なり出ています。
そこで、白州唯市における平和維持を目的とした人材派遣、警備強化が決定しました」
「面倒な……」
「平和維持とか言うけど、根本はシキヨトキの拉致・勧誘の事前阻止だろ?」
誰かが呟く。
他の者が何をどう思っているのかわからない。
が、トウコツは言うべきだろうと考え、実行した。
言わなくてはいけないことがある。
「それは執行部隊だけでの話か?
なら、無理な話だと思うぞ」
担当の問題。
戦力の問題。
今回の襲撃メンバーにも、驚異的戦力を誇るSRが何人か居る。
「その点に関しては……」
「まず、こいつが来たらどうする?」
資料のとあるページを開き、なるべく全員に見えるように掲げた。
そこは襲撃者の顔写真と詳細が記されたページ。
「並みの魔法使い、並のアヌビスでコイツの相手はキツイはずだ」
「ベクター・ケイノス?」
「こいつのあだ名を知っている奴はいるか?
“空間殺し” 伊達にそう呼ばれているわけじゃないんだよ」
「戦ったことあるのか?」
「ある。
自分のピンチが増すにつれ、冷静さを欠かなくなるガキだ。
魔法を殺す術や死角を殺す術、武器を潰したり距離を殺す術まで持ってる」
「ほう」
トウコツは更にページを捲る。
「それ以上に……
最も注意しなければならない、コイツ」
「あの、トウコ――」
「陸橙谷 アサ。
あの、哭き鬼一族の最後の長。
コイツが生きていたってだけで最悪のニュースだ。
もしコイツがまだあの街にいたら、こちらの被害が大きくなるばかりだ。執行部隊だけじゃ対処は不可能。返り討ち見え見え」
「あの一族のか」
「そうだ。
あの哭き鬼だぜ?」
その時、伯爵は笑った。
彼にはトウコツの行動が理解できず、哀れにしか見えなかった。
だから哂う。
「何をそんなに恐れているのやら……」
「あぁっ?」
だから、笑った。
哀れに見える者を見て笑う。その何が悪い。
「たかが無所属。
それも、今回加担しただけの男。
何が恐ろしい?」
「敵の戦力を分析することがそんなにおかしいってか?」
「脅えているようにしか見えないが?」
「オイ、誰かこのアホに哭き鬼のこと教えてやれよ」
「はぐらかすな……怖いのなら席を外せ」
「どうしたってんだ?
えぇ、おい?
まさか哭き鬼のこと知らねぇとは言わねぇよな?」
「お前こそ、自分が何に怯えているのか気付いていないわけではあるまい?」
直後――仕掛けようとした2人の首筋に冷たい物が付きつけられた。
「会議中だ。
静かにしていられないなら出てゆけ」
「……………ちっ、わかったよ」
「何のつもりか?
船長、剣をどけろ」
「なら、伯爵。
黙って話を聞け」
揉めて2人。
仲裁に入って3人。
更に4人目、
「申し訳ありませんが、事態は予想以上に深刻です。
ここで内輪もめする方は早急に退場願いたいものですが、そうさせることはできないのが今回の会議です」
司会のSRに言われ、口喧嘩の段階で事態は収まり、2人は黙って前を見続けた。
再びテーブルの中央で映し出されるモノが変わる。
(世界地図?)
次に世界地図に無数の光点が現れる。
その一つ一つはSRによる犯罪発生ポイントを示していた。
過去1週間分の発生件数。
世界中で60件以上も発生していた。
それは、誰から見ても過去最大。1ヶ月の平均が20未満だったいままで。1週間でそれを上回るという、明らかな異常。
「トウコツが言ったとおり、執行部隊には荷の重い任務です。
ましてや犯罪発生率の急増した現在、それほど人員に余裕がありません」
「で、俺たちが動くんだ」
そこでやっと最年少の顔が口を開いた。
司会を務める彼女は、頷く。
「そうです。
我々も、世界中のSRによる犯罪多発地域で任務に就くことが決定しました」
協会が持つ最高の戦力。
通称『HERO'S』
トウコツは今一度その顔ぶれを眺める。
司会する英雄。
任務を冒険と勘違いする子供英雄。
無言に徹する老人英雄。
やる気満々の英雄。
船長に、鬼殺し。
それから、白髭の老人……etc
「確実な戦力だな」
「尚、日本での主な支援はセンタロウに一任してあります」
「あのオジサンに?
嫌だなぁ〜……」
「沈みたいか?ボウヤ」
「あ、すいません!」
本人を前にして勇気ある発言をした子供英雄。
やっぱり脳みそ足りないみたいだな。ガキめ。
いかにHERO'Sとはいえ、アホはアホであることに変わり無い。
「で、主に何をすればいい?
周辺警護か?」
「現在、NIGHT MAREは色世トキを自勢力に組み込もうとする体制を見せています」
「誘拐・勧誘阻止ってか?」
「そうです。
目標に近寄るNIGHT MAREの速やかな排除。それが最優先事項です。
もし誘拐された場合、速やかに救出活動に移行してください。
尚、我々からの勧誘・脅迫・積極的な干渉は一切ご法度です。
出来る限り救出活動及び監視・監察に専念してください」
大勢が頷く中、船長が質問に出た。
「細かな配置は?
よもや、全員が日本という訳ではあるまい」
「はい。各々の配属先は既に決定しています」
「へぇ、じゃあ、早速聞かせてくれ」
「まず、センタロウさんは日本に戻り、支援基地として我々に生活空間と情報、武器弾薬を提供してもらいます」
「全部俺の腹から出せというのか?」
「資金については、会長から許可が下りています。
必要に応じて申し込めば、可能な限り提供するとのことです」
「ワシは?」
それまで沈黙し続けていた老人英雄が挙手。
彼女はすぐに答えた。
「最近、オホーツク海周辺にNIGHT MAREが何らかの調査に立ち寄っているという情報が寄せられました。
その情報の真偽と事の規模・重要性を現地のチームと合流して見極め、NIGHT MAREの行動に圧力をかけてもらい、場合によってはNIGHT MAREの目標を我々が奪うことになるかもしれません」
「とにかく、奴らの目的を知ることが第一だな?
ついで……
執行部隊も支援してやればいいのか?」
「あなたに支援してもらえれば心強いでしょう。
可能でしたらお願いします」
「わかっておる。
可能なら、な」
次に船長が聞く。
「あなたは日本海、東シナ海を行き来し、日本を伺うNIGHT MAREに対して圧力をかけてもらいます」
「海路を潰せばいいんだな?」
「はい。
手順はいつも通りです。
依頼され派遣された視察団、海上保安の強化活動という名目でお願いします」
次の英雄が目で訴えていた。
彼女はそれを見逃さない。
「あなたにはヨーロッパ全域の探索に当たってもらいます」
「期間」
「1シーズン以内が望ましい」
「対象」
「NIGHT MAREに限定します」
「どこまでやっていい?」
「公共物の破壊は一切御法度です。
もちろん、一般人への被害も。
場合によっては敵SRを殺害するしかない時もあるでしょう。その場合はこちらで簡単に処理できる程度に、加減してお願いします。
また、降伏するものには一切手を下してはいけません」
「よかろう」
それから次の英雄が挙手。
「俺は?」
「君はオーストラリア・南シナ海方面から北上するNIGHT MAREを足止めしてください」
「止めるだけ?」
「いえ、追い返せたら上出来です」
「分かった。追い返せばいいんだな!」
間断なく次々と英雄たちに指示を下す。
「Mr。あなたには中央アフリカで確認されたNIGHT MAREの資源集積所を襲ってもらいます」
「……」
「組織化されて間もないとはいえ、名乗ったのがつい最近であるというだけで、蓄えは前もって用意されているはずです。
少しでも敵の指揮を鈍らせるためにも是非」
無言で頷く白髪の老人。
それからというもの、次々と指示を受けていくなかで2人――トウコツと伯爵の名前が呼ばれることはなかった。
あらかたの指示が終わったところで、司会のSRは説明した。
「私はNIGHT MAREの他に、NIGHT MAREに勧誘される可能性のあるSRへの接触を指示されています。よって、場合によってはそれぞれの担当地区に赴き、自分の任務ついで各々の状況を確認し、状況によっては援護に回るかもしれません」
それは、特定の者に対する注意と警告と威嚇。
「私は皆さんを信じています。
決して自らの職務を怠らないようにしてください」
激励とまではいかないが、そんな誉め言葉と共に放たれるスマイル・オブ・デス。
一部のSRは震えた。
特に、子供英雄。
脳裏に刻み込まれている『サボリ=死』のイメージが湧いて止まない。
それ以外にも詳しい注意事項や、質疑応答が繰り返されること10分。
解散を宣言され、早い者はすぐ現地へ赴く準備に取り掛かった。
しかし、出て行かぬ者もいた。
トウコツ、伯爵、司会を勤めた英雄。
その3人が会議室に残っていた。
「何か質問でも?」
「それ以外に何がある?」
「考えられませんね」
「気のせいか?
私の名前は呼ばれなかった」
愚痴をこぼす伯爵。
それに関してはトウコツも同感だったが、言いたい事は他にあった。
時間がないと言ったのはあっちだ。
トウコツは率直に質問をぶつける。
「ジャンヌの姉さんよぉ、俺はNIGHT MAREよりも先に孫の野郎こそ潰すべきだと思う」
「確かに。
芹真事務所と孫の組合が連合すれば、現段階以上に手出しが難しくなるでしょう」
「おい、トウコツ。
……それだけじゃない。
ホート・クリーニング店と看板を上げたあの4人……
戦力として見るなら、たった4人でも孫・芹真に並ぶ実力がある奴らばかりだ」
2人は納得する。
伯爵は続けた。
「そうなると、奴らは陸路・空路・海路、全てに関する交通の便、往来の自由を手に入れることになる。
孫の影響力は未だに侮りがたい。無論、芹真もな。
そうなれば――」
「それだけじゃねぇ。
ワルクスだってそうだ。
いつあっち側に付くか分かったモンじゃなェ」
「つまり、あなたたちの危惧はNIGHT MAREよりも、芹真事務所や孫・ディマ達の方にあるわけですね?」
「その通り」
「オレとしては――
セブンスヘブン・マジックサーカスの連中に、
国連の至純殺意、
神隠しの3人の行方、
そっちも重要だと思うが?」
しかし――
それに対する答えは実に簡単だった。
「その為に我々が動くのです」
「なら、何で俺らがここに呼ばれている?」
「わかりませんか、トウコツ。
あなたが原因なのですよ?」
「はぁ?
何で俺が?」
と、
ジャンヌさん、深呼吸開始。
やべっ……
来……
「あなたが色世 時の母親、色世 皐を殺害したことがそもそもの発端です。
もし、彼女が生きていたら、誰も、何者も、何人たりとも近寄ることが出来ません。
彼女の力を持ってすれば下手に襲い掛かることはおろか、近付くことさえ儘ならなかったハズです。
そんな絶対城壁の如く彼女を破ったのは誰ですか?バランスを崩したのは誰です?
死に至らしめたのはアナタですよ。自覚はありますか?
例え天地が逆転しようとも、結果的にあなたが招いた災厄です。
いつもいつも苦しい言い訳をして逃れているつもりですが、あれは明らかにあなたの命令違反です。その責任をいま取らずしていつ取るのです?そもそも取り返しがつくほど容易な事態ではないですよ?
一生をかけて償ってもらいたいものですが、あなたは駄々をこねて力づくでも逃げるでしょう。ですが、私達にそんなあなたをいちいち追い回して、追い詰め、咎め、道理を説く余裕があるわけでもなく、また暇などという言葉とは当分無縁であって、アナタのように好き勝手気ままに出かけることなどないでしょう。心の底から余裕が恋しいくてなりません。
聞いた話ですが、最近、あなたはその子に負けてきたそうではありませんか。
そんなに協会の決定方針が気に入りませんか?如何な理由で護衛対象と刃を交えたのです?私は報告書の全てに目を通していませんが、シキヨ トキは護衛対象です。“攻撃対象”ではありません。あなたが敵として認識されるのは勝手、結構ですが、我々まであなたと同等のレッテルを張られては堪ったものではありません。
そもそも、あなたのように功を焦って先走る人が居るから組織の――――………
〜中略〜
……――わかりましたか?
あなたには少しでも功績を挙げなくてはならない“義務”が科せられているのです。汚名返上してください。
あなたが馬車馬以上に働くことに何の異議・異存がありましょうか?誰も抗議、異議申し立てはしないでしょう。
今起こっている事件の発端でありながら、更には護衛対象を下手に刺激し、その影響で更に芹真事務所は守りを固める姿勢を見せたそうではありませんか……。
更にNIGHT MAREからは協会の組織力の甚だしい低下と見られる可能性もあるのですよ?
あなたは責任を感じていないのですか?感じたことはありますか?同じ立場の者として言わせてもらえば、貴方は無駄だらけです!やる事成すこと殆どが無駄で、また無益すぎます。
そんなあなたに対して労働基準法違反が適用されるはずありません。
おそらく協会中探しても、あなたに同情するのはあなたのお仲間くらいです。理由なくしてあなたを呼ぼうとする実力者はこの協会に五万と居るでしょうが、生憎と暇を持て余している方は指の数ほどもいらっしゃいません。あなたは典型的な暇を持て余している数少ないメンバーなのですから、もっと役立とうと自ら志願してもいいのではないかと私は思うのです。
が、あなたにはどうもその自覚が足りて――――
〜中略〜
――でありまして……
〜中略〜
結局、あなたに出来るのは“考える”ことではなく、“戦う”ことです!
それのみです!!
体力を余しているなら訓練生の相手をするか、犯罪根絶のために力を振るってください。その方が効率もよく、また我々としても都合がよい。さらに、組織的活動もやや円滑になることでしょう。
味方同士で揉めることも、『喧嘩するほど仲がいい』の法則に則れば大変すばらしいものでしょうが、時間的・状況的余裕がある時にそういった戯れに興じてください。しかし、いまはNIGHT MAREとの対峙に忙しい時期ですので、出来たらそういう時間を無為にふる行為は極力自重していただきたい。
特にあなたには!
是非とも!!
わかりましたか?
少々長くなりましたが、つまるところ、あなたが禍根です!元凶です!さすが四凶です!
色世 皐を殺さなければこんな事態にはならず、我々はNIGHT MAREを根絶するために全力を注げたのです!
よって今回、罰則的特例としてあなたをメンバーに迎えたのです!」
ですですそうです!はい、そうDEATH!すいませんでした!俺が悪かったです!
どうでもいいが、相変わらずそれしか語尾知らねぇのかよ!
説教されるついで、罰則を科す為呼ばれたのだとやっと理解したトウコツ。
そこで伯爵が口を開く。
隣ではトウコツがストレスと思考回路の混乱と精神的疲労にやつれ、元気と気概を損なっていた。気のせいか、頭から湯気が出ているような……まぁ、どうでもいい。
「ならば、ジャンヌよ。
私は如何な理由で迎えられたのか?」
「それは会議中にも、トウコツの言の中にもありました」
「と、言いうと?」
「孫を抑えるためです。
あなたには船長が海路を抑えている内に、陸路から孫の組織に圧力をかけてください。
それから最近、シルクロードのパミール高原で妙なSRが目撃されたそうですから、そのSRの調査・確認もお願いします。
もしかすれば、トウコツが言った神隠しの1人の可能性があり、大勢の人員を抱えるアナタが適任として指名されていました」
何で俺の時だけ長いんだよ……
「トウコツ、あなたは白州唯市内に侵攻・侵入したNIGHT MAREの迎撃を最優先任務とします」
「監視じゃなくて?」
「あなたにまともな監視役が務まるとは思えません」
あんたにもまともな司会が務まるとは思っていなねぇよ。
……なんて、言いたくても言えない言葉を飲み込みながら、トウコツは会議室から歩いて出て行く。
「あ!
ちょっ、トウコツ!
まだ話……極秘で伝えなければならないことが――!」
その台詞が出た途端、トウコツは走り出した。
冗談じゃねぇ!
これ以上あんな長話――つぅか、説教――付き合ってられっかってんだ!
長い!
ウザい!
強調し過ぎ!
繰り返しすぎ!
(クソォ……
そうでもなけりゃ、メチャ可愛い奴なのに!)
だからこそ、反論できなかったりもする。
しかし、任務のことを思い返してみると、ジャンヌの説教以上に厳しい現実であった。
“白州唯に入ってきたNIGHT MARE追い返せ”
それって、俺が白州唯に居なきゃ駄目ってことじゃん?
あの街には俺のこと殺そうとする奴がいるってのに。殺されかけなきゃダメなんですかね?
毎日殺されかけるって事だよね?
イヂワルだな〜、ジャンヌ姉さんも。
きっと、それをわかっていながら俺をそのポジションに配置したな。罰則的特例とか言っていたし。
(下手すりゃ本当に毎日追いかけられる破目に……)
なる可能性は決してゼロとは言い切れず、むしろ、高確率で知覚され、追いかけられ、疲れる果て、いつかはリアルに殺される可能性もある。
充分に。十分に。
ふと、トウコツはその気配に足を止めた。
「珍しく浮かない顔してるじゃない?」
ソイツが現れたのは薄暗い廊下をゆく最中。
廊下を走り、階段を降り、左折したところでトウコツに声をかけてきた。
「お前は暇なのか?
キュウキ」
「ああ、君と違って暇を相手にどう振舞おうか迷っていたのさ」
トウコツは鼻で哂う。
同じ四凶だが、コイツは中々憎める奴だ。
いちいち癇に障り、存在そのものが不愉快、それでも似た者同士。
善悪を反転させる四凶。
それが彼女、キュウキ。
「虎穴に入らずんば虎子を得ずってか……」
「ん?
何だって?」
「独り言だ」
「そうか。
ハハッ、あれかい?
そろそろ人生について誰かに打ち明かしてみたくなったとか?
無意味綴りの人生を」
「どうすればそんな結論が出るのか後で教えてくれ。
俺は忙しいんだ。じゃあな」
「ああ、死んでおいで」
「テメェもな」
迷彩服に身を包んだ同類に別れの挨拶を告げ、トウコツは港湾エリアまで移動した。
商店街エリアを抜け、娯楽エリアをかすり、港湾施設に到達する。
表層から、第1階層に降り、続く第2階層へ。
そこで船を捜す。
「次の日本行きの船は何時だ?」
職員は手早くパソコンを使って検索し、時間を教えてくれる。
運良く、30分も待たずに出航する船があった。
僅かな時間を海を眺めて潰すことにし、トウコツはその場に座り込んだ。
(まぁ、反撃アリの罰ゲームだと思えば気楽なモンか)
考え方によっては毎日追いかけられるって事は、毎日退屈せずに済むってことだ。
それに、干渉不可なのは色世 時、奴だけ。
あの哭き鬼娘は殺してもいいということだ。
良い方に考えよう。
トウコツがゆっくりと休めたのは貨物船に乗り込んでからだった。
世界は決して1人の意志で動かない。
当たり前のことを再認識し、協会長オウル・バースヤードは世界地図に目を落とした。
スタノボイ山脈、
フロリダ半島にボストン、
サンタクルス、
ギブソン砂漠、
世界中でそれぞれ動く要注意SRら。
そして……
前回はウラル山脈、今回は白ナイル下流で目撃された最要注意人物、メイトス。
彼らがどう動くかによってNIGHT MARE討伐作戦の動き方は大きく変わってくる。
状況によっては自らが出向くことも有り得なくは無い。
「狙いは何だ〜?」
メンバーはわかっていた。
ただ、何故そのように動くのか、目的がわからない。
NIGHT MAREの連中の武装派は何かを探している。
何か、なのか……
それとも誰か、なのか……
(マーリンの抜け穴――なわけないな。
パンドラの箱はすでに粉々……
破片は回収済みだし)
頭を巡る情報。
その奥の奥に色世時の姿が浮かんだ。
(四凶も動かすべきか……
トウコツは確実に動いてもらうとして、残りの3人は……)
しかし、バースヤードの頭は熱によってオーバーヒートを迎えた。
何故かエアコンがまともに作動してくれない。
「トキに会ってみるかな――……」
呟いてみた。
何気ない呟き。
だが、
(……よし)
1分後、それが決定事項に変わった。