幼馴染み
「タイムマシン、驚きのプライス四千三百万円!」
ある晴れた日、僕は通学路のそばにある天満商店街を歩いている。
高いともいえない建物が並ぶここに、正午のため真上から照り付ける太陽で気温が高くなっており、正直憂鬱だ。
野菜や果物そうだ。誰が見ても元気には見えないと思う。
店の主人(見た目八十歳のご夫人)も暗い顔をしている。
いつも活気付いているこの商店街が、暑すぎるせいで建物が揺れる。
そんな中、若人の売り子が大声を張り上げて宣伝・客引きをしている。タイムマシンの販売だ。そもそもどっちかと言うとこじんまりとしたこの場所で、高価すぎて買う人なんて今まで見たことがない。
ただし、それはついさっきまでの時間の統計だ。
目を丸くした。
黒光り薄さを持つもの。
伝説のブラックカード。
上限が全くないとされるクレジットカード。
近寄って見てみるとそこには「四千三百万」の文字が。周りからも驚嘆の声が上がる。何せ購入者は同じ学校の制服を着た学生なのだ。
「うわ、初めて見たよ、ブラックカードもタイムマシンも」
「流石に現金で払うなんてことはないと思うよ」
「あるかも知れないじゃん。別にありえないっていう訳じゃないでしょ? この世界七十億人いるんだから無いとは言えないよ」
「知ってた? この世界には『無』ということを説明するのは不可能なんだよ」
「視界に入っていない状態で無いと言ったらそれは無いのと一緒なんかじゃないのか」
「あくまで存在するしないかの話だよ。そんなこと言われたら張り合いがないでしょ」
一度何かの頭に飛び込むと帰ってくるまで、溺死しそうな勢いで疲れるのは、小さい頃からの幼馴染、桜乃・U・遥だ。
外国人の血を引いているらしく、名前にUという文字が刻まれている。しかし、外見上クオーターに見えるか見えないかの微妙なラインで、本人は「この微妙さがまた美妙だったりするの」とか言っているがそんなことは置いておこう。
彼女の父、理樹はノーベル物理学賞授与者である。偶然にもタイムスリップを見てしまい、研究に没頭。比較的早い時期に受賞した。
まぁそのせいお金の感覚が少し狂ってしまい、さっきのようなことを言ったりすることが多い。
ちなみに遥の家にはタイムマシンは置いていない。結構な広さを有するためだ。そのかわり研究時代に用いた実験器具あはある、
「桜乃氏の実験器具使えばいいじゃん。バレないって」
「だって使い方分からないもん。それに使ったら何が起るか分からないし。そもそもあのマシンは時間移動しかできないんだよ。空間移動は以ての外。もしタイムスリップしたら昔の音さんに会っちゃうよ。空間×時間の移動は結局私たちの過去を変えてしまう可能性があって、現段階ではパラレルワールドが生成されるのが時間軸にオンリーワンのプロットになるのがタイムパラドックスについては詳細は知られていない。この不景気に、高価なものは売れニアからね。ライトジュエルを生成する技術があれば、タイムマシンの大量生産が可能になって、富裕層に限らず販売できるのに。私のお父さんの情報(内閣府の話だけどね)だと、生成のための材料に、ある「鍵」となる物質が必要なんだって。これ誰にも言っちゃだめだよ」
内密なその情報を平然と他人に告げるような奴が娘とは、恐らく桜乃氏も思ってはいないだろう。
「あなた達、四次航空機が羨ましいのかしら? ちなみに私はお使い。お父様がおつりを全部やるって言ってくださって、百万円くらいは」
ああ、この子どこかで見たことがあると思ったら、天観原沙羅か。
元々天皇家に使えていた家系だと聞いたことがある。
容姿は、問題ない。金髪の縦巻きカールの高校生。性格がいまいち良くない。いや悪いというこどだけどを除けば人気者になれるのに、と思う。
「別に羨ましくなんかないんだからね。ただこういう高価なものを平然と変えることに素直になっただけだよ」
「本当に言葉通り素直な方ですね。こんなの高いなんて滅相もない…。私は基本的に自分をプロテクトしているのよ。あら、リボンの色が一緒じゃない。もしかして二年生?」
「ええ、そうよ。二年一組の遥、桜乃・U・遥よ」
「桜乃…ああ、あのノーベル賞を取った理樹の娘か。理樹が著名人として、遥自身はどうなのかしら…? 性格が曲がっているのではないのかしら・というかタイムマシンなんてあなたみたいな下等な生物にお似合いじゃなさそうね」
「お父さんを侮辱するな!!」
挑発に上手く乗せられた遥は憤りを優駆優人が抑えに掛かる。
「二人とも止めろ。遥も挑発に乗っちゃだめだ」
「だってお父さんを侮辱してくるんだもん」
「沙羅もいい加減にしろ!」
優人は叫んだ。それから遥に言い聞かせた。
「いくら相手が同級生だからっていったって、一応格上だ、あいての 反感を買うといつか「僕たちは消されるかもしれないんだぞ」
「ごめんなさい…」
「あら? 私あなたのお父様を侮辱した覚えはないわよ。勝手な思い上がりじゃないの」
「沙羅止めろ。いざこざができる」
「私の名前を気安く呼ばないでくれる? 愚民の声なんて聞きたくもないわ」
「勝手に言ってろ」
真人と遥はその場から憤りを頭にしながら立ち去った。
「本当なんなのよ、私のお父さんを馬鹿にして」
「落ち着けって、あいつが挑発してきたのも悪いし、呼び捨てしていたのも気になったのかもしれないけど、お父さんを侮辱していたわけじゃない」
三人称視点に近かった真人が一番よく分かっている。
真人が遥に正論を唱えると、彼女は珍しく食い下がらなかった。
「ごめんなさい、真人の言うことは正しかった…。ちょっと冷静が欠けてたみたい」
「分かったのならいいんだ。落ち着くことを忘れるなよ」
「うん!」
どうやら反省して、次にすることが分かったみたいだ。
真人は胸を撫で下ろした。
「じゃ、気を取り直してデパートでも行きますかっ」
「そうだな」
追い風を受けながら二人は商店街からデパートに続く大通りを歩いていた。
二人がデパートに着いたとき、単身は2を指していた。
二時というのは地面に照り付ける太陽光の放射熱が地面にあたり、その熱が昇ってきて空気中をただようため、気温が高くなる。
ちょうど正午が十二時で、放射熱は二時間かかるのでちょうど二時が最高気温となるのだ。
「デパートのパの字を抜いてみて」
「デート…あ…」
遥は顔を赤くした。
それが嬉しくて真人もはにかむ。
元はと言えば、真人が遥と下校するとき、何気なく「別の道から帰ろうぜ」と言ったのが事の始まり。遥も「まぁ、門限を破らない程度なら」と言って誘いを受けた。
そしたらこれが恒例行事となった、いわゆる体のリズムというやつだろうか。人が決まった時間に起きて、やるべきことをやって、そして寝る。
物事全てシンコペーションの様に見える。
「うん…そうだね…ちょっと恥ずかしいかも」
「どうして」
「真人がそんなこと言うなんてびっくりしたの。それに急にデートなんか言うから」
「遥をからかいたかっただけだよ。遥のそうやって照れるところが好きだし」