お助け同好会発足 1
四月七日。いつもより早めに家を出ると、雲一つ無い晴天が広がっているのが見える。学校へと向かう道を歩いていると、例年より遅く咲いた桜の花が散り始めているのに気付く。通学路を桃色に染めている花びらを、極力踏まないようにしながら歩く。途中で顔見知りの同級生三名と挨拶を交わす。そいつらも俺と同じことをしているのに気付き、そのことを約一名を指して指摘する。
「お前も踏まないのかよザ、ゲールマン!」
「……俺はゲルマン系の血は引いてねぇっつってんだろうがバアアアアカ!」
金髪碧眼の友人、アランが俺に掴みかかってくる。足を少し浮かせ、ある程度の力を籠めて振る。爪先がアランの脛を捉える。辺りに悲鳴が響く。それと同時に、アダムの足が桜の花弁を潰す。それを見て俺はポケットの中のメモに軽く触れる。
膝を抱える形でうずくまっていたアランが立ち上がる。追走してくるアランを振り切るために、走り出す。後ろの友人に見せつけるように、できるだけ強く地を蹴る。
「さて、走れるもんなら走ってみな!」
「うおっ?!」
再び辺りに悲鳴が響く。後ろを振り向き、立ち止まる。またポケットに手を突っ込み、メモに軽く触れる。アランの手を取って立ち上がらせる。
「まったく、これだから新型は……」
アランに言うと、即座に返事が返ってくる。
「軽々と術を使うバカに言われたくねぇっつうの」
アランが俺の肩に拳を入れる。他二名の笑い声が微かに聞こえる。学校へ向けて歩き出す。桜の花びらを踏み潰しながら、四人で会話を始める。話題は昨日の転校生二人のことだ。
「女の子のほうが1こ上なんて驚きだよなー」
「ああ、俺は1こ下だと思ってたな……ギャップ萌えが通用する奴にはタマラナイのかもしれねぇな」
「いやいやいや、フッツーに可愛かったじゃん。ま、僕様的にはあんまタイプじゃなかったけど」
「何がタイプじゃねぇって女子的に見た時のお前の一人称だよ」
ボサボサ髪の友人、ケンジにアランが目を合わせることなく言う。ケンジは肩をすくめる。俺もそれに合わせて肩をすくめ、ついでに溜め息を吐く。
「ちょっと待て、今のはどっちに対する溜め息だ? まさか俺じゃねぇだろうな?」
「コメントは事務所の都合により伏せさせていただきまーっす!」
「お前は不祥事を起こした若手アイドルか!」
「……ねぇ」
「ん?」
覆いかぶさろうとするアランを抑えながら、背が低くてよく髪をいじられる友人、フレンのほうを向く。フレンは上目づかいでこちらを見ながら口を開く。
「学ランの子のほうがタイプだったんだけど、変かな?」
フレンの発言に全員が押し黙る。沈黙が辺りを包む。誰も口を開くことなく、黙々と歩を学校へと進める。耐え切れなくなった俺が口を開く。
「……言ってくれるなフレンよ。君の主張は確かに正しい! ぶっちゃけてね! けど女子より可愛いって言われることがままある君からしたらどうよ!」
「とても屈辱的だね。いますぐ殺したいよ、ケンジを」
目を合わせるころなく呟かれる言葉を聞いたケンジは、高速スピンをくりだしながらフレンに答える。
「飛び火っ?! しかしそれを拒む僕様ではなく、寧ろそれを甘んじて受ける……! ……そんな春の一日って、どうよ?」
「はいはい、おまわりさんに引き取ってもらおうね」
フレンはケンジの背中を交番に向けて押す。ケンジがよろける。
「えっ、意外と押す力強いんだけど。えっ、俺割りと本気なほうで恨まれてる?」
「まあ……そうなんじゃねぇ?」
ケンジがうろたえ始める。そこでフレンが押すのを止めて背中を蹴る。ケンジは地面に倒れこみ、海老反りながら背中を押さえて悶える。近くを通っていた小学生がそれを見る。木の棒で突っつかれる。ケンジが勢い良く立ち上がり、小学生に襲い掛かろうとする。アランがラリアットをくりだす。ケンジが吹き飛ぶ。
「おおう……自業自得の自得の部分が一気に来たな」
「さすがに可哀想かも……」