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約束の見える花畑  作者: テルミン
Other Side Story
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プロローグ

あっさりとしてますがイジメの描写があります。苦手な方はお戻り下さい。

 四月六日、新入生及び他の在校生に出遅れて学校へ登校する。私は生徒会室で、入学式でどんなことを言おうか考える。二つの原稿を考える。思いついた原稿を紙に書く。文字で埋め尽くされた紙を丸め、ゴミ箱まで歩いて捨てにいく。

 部屋に着いた時にはテーブルの端に映っていた日差しは、今は床にだけ映っている。それを見た私は、ソファーに身を投げ出して寛ぎはじめる。するとそこへ、騒がしい足音が聞こえてくる。私はドアを開ける。遮るものが無くなったため、余計に大きく足音が聞こえてくる。私はドアを閉める。ドアを閉める瞬間、廊下の突き当たりに兄の姿を捉えた私は、再びソファに身を投げ出す。

 寝転がりながら時計を見ると、針は既に八時半を指している。自分の予想とまったく同じ時を示すそれから目を背けると、次にドアの向こうで騒いでいる兄を宥めるために起き上がる。

「いいかげん廊下は走らず歩くようにしろ、(みこと)

瑞希(みずき)……だってさぁ……」

「だっても何もない。いいから用件を伝えろ。まだ始業式が始まらない理由を伝えに来たんだろう?」

 そう言うと、尊は床に転がりながら私にまだ始業式が始まらない理由を伝えはじめる。

「なんか、転校生がまだ来てないんだってさ。男子一人と女子一人って話なんだけど……」

「ああ、そういうことか。生徒会でそんな連絡は入っていなかったが……」

 学校の資料によれば、ここに転校生が来るのは十年ぶりとのことだ。

 私は未だ鼻を押さえながら倒れている尊を助け起こそうとし、手を差し伸べる。力が弱すぎて私のほうが倒れてしまう。先に起き上がった尊の手を借りて起き上がると、私は服についた埃を払い、ついでに尊の背中についた埃も払う。尊に続いて再び部屋に入り、ソファに寝転がる。

「なぁ、尊。その転校生はどんな奴なんだ?」

「あ! そうだそうだ! プリントもらったんだけどね、見たらびっくりするよ!」

 尊は私の顔を指差すと、腰に挿していた丸めたプリントを取り出す。私はそれを受け取り、今朝買ってきたチョコレートを尊に手渡す。それを受け取った尊は、狂喜乱舞して床を転げまわる。そのすぐ後に壁に鼻を打ち、今度は床を悶え転がる。

 そんな兄を一瞥すると、私はプリントをテーブルの上に広げる。そこに書かれていた、予想していたものとまったく同じ名前を確認すると、私はそれを丸めてゴミ箱にあらん限りの力を籠めて投げつける。ところが、プリントはゴミ箱に届く前に失速し、床に落ちて転がっていく。私は立ってそれを拾い、ゴミ箱まで捨てにいく。


 学校に来ると、どうやら始業式が始まるまで暫く時間があるようなので、アタシはいつも通り女子トイレに向かう。いつもの女子達に虐められるためだ。

「キャッハッハ! また来たよこいつ! 被虐趣味でもあるんじゃないの?」

「だよねー! ハハハハ! どうしようもないマゾ野郎だよ!」

 いつもの様に暴言が投げかけられる。顔に唾を吐きかけられる。バケツに溜められた水をぶちまけられる。鳩尾を蹴られる。吐き出した胃液が女子の一人の上履きにかかり、より強く鳩尾を蹴られる。堪えきれずに倒れると、再び鳩尾を蹴られ、背中も蹴られ、顔を数回踏みつけられる。血に塗れた髪を掴まれると、今度は和式便器に顔を擦り付けられる。彼女達からの暴行に抵抗することなく、アタシはそれを受け入れる。

 毎日毎日、同じような行為が繰り返されるけれど、アタシが抵抗することは絶対に無い。しかし、誰かがおせっかいをしに来ることはある。

 足音が響く。今回も誰かがやってきたようだ。アタシの顔は今も踏みつけられているから、どんな人なのかは分からない。足が震えているのは見えている。その人は震える声でいった。

「や、止めろ!」

 何度となく聞いたことのある叫び声が耳に届いた直後、女子達の笑い声がトイレに響く。続いて冷やかしが投げかけられる。

「おー? ヒーロー登場かな、(そう)ちゃん? アッハッハッハッハッハ!」

 女子からの嘲りに、彼の足が下がっていく。五歩下がったところで、彼は再び女子達に向かって言う。

「や、止めなよ……」

 先程の叫び声と比べて小さい声だ。その声が完全に聞こえなくなった後、女子たちが笑い始める。

 それからほんの少し経ってから、連絡の放送が聞こえてくる。始業式がそろそろ始まるので集合しろ、という内容だ。それを聞いた女子達は騒ぎながら立ち去っていく。彼はおぼつかない足取りでアタシに近づいてくる。

「奏ちゃん、大丈夫……?」

「……(おさむ)、アタシにはもう関わんないほうがいいよ。お互いにとって」

 私の言った言葉に、攻は苦笑いと小さな返事で答える。

「無理だよ。僕は弱いから、自分の欲望にさえ勝てやしないんだ」

 言いながら彼は私に手を差し伸べる。アタシはそれを取らずに立ち上がる。トイレを静寂が包むと、彼は涙を流しながら立ち去っていく。アタシはこんな状態で外に出たら騒ぎが起こってしまうので、始業式には出ない。立ち去る彼を見送り、トイレに残る。

 窓を開けて空を見上げると、太陽が一部雲に隠されながら、光を放ち続けている。アタシは太陽を見ても目を閉じない性質(タチ)なので、延々とそれを見続ける。頭痛がする。目を逸らさずに見続ける。

 暫くして、アタシは視線を地面に戻す。先生に急かされながら歩く男子と女子が微かに見える。目を閉じて頭を振る。目を開ける。再びその二人を見る。

 アタシはその場に崩れ落ちる。涙が頬を伝って流れ落ちる。

 太陽を隠していた雲が流れ、隠れていた部分からも日の光が放たれる。水に反射した光に、俯いていたアタシは目を瞑る。

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