娘と絵本
病院の帰りに娘とランチを食べた。娘がオムライスを食べたいというのでこの辺で一番大きいショッピングセンター内にある洋食屋を選んだ。食事の提供がとても早く、頼んでから五分も経たずにオムライスが運ばれたのには驚いた。しかし、食事の後の感想としては料理にはもう少し時間を掛けなければいけないということだ。それでも、娘は口元にデミグラスソースを付けながら「オムライスおいしーね。」と笑っていたので問題はない。その後に、娘が本屋に行きたいと言うので三階の映画館の隣にある本屋に行くことにした。
娘は本屋に入るなりに絵本コーナーに真っ先に向かった。おぼつかない足取りだがなんとか転ばずに辿り着くと振りかえって僕の目を見る。僕は思わず笑うと娘も笑った。
娘が絵本を読むようになったのは僕の母、つまり娘から見れば祖母と図書館に訪れたときに絵本を読んでもらったことがきっかけだった。それ以来、娘の遊び道具はDVDから絵本となった。とはいっても、娘だけでは絵本を読めないので読むのは僕の仕事である。仕事が忙しくて中々娘と遊ぶことができなかったので、絵本は僕としても娘とコミュニケーションを取ることができる大切なツールとなっていた。
娘は子どもでも簡単に絵本を取れるように低く設置された本棚から一冊の絵本を選んで僕の元に持ってくる。
「これがいいのか?」
僕は娘から本を受け取り、しゃがみながら訊ねる。
「あい。」
娘は満面の笑みで頷く。
僕は娘の持ってきた絵本をパラパラと捲った。どうやら、猫が主人公の話のようだった。タイトルは『くろとしろのやくそく』という絵本としてはあまりふさわしくないような気がした。でもまぁ、せっかく娘が自分で選んだ絵本なのだからと思い僕は何も言わず買うことにした。
娘は家に着くと早速僕に絵本を読むように「これ、読むの」と絵本を僕に差しだしてきた。僕は絵本を受け取り、布団で寝転びながら娘に読み聞かせる。
タイトルでも感じたことだが、この絵本は絵本らしからぬ内容だった。全体的に内容が暗い。それでも娘は場面に合わせ表情を変える。子どもというのは色んな表情を持っているのだな、と僕は感心する。僕は面白くなり、なるべく娘に本の内容が伝わるように感情を込めて読んだ。
物語の終盤な差しかかったところで、エンディングを待たずに娘は寝てしまった。僕は娘に毛布を掛けて、絵本を本棚に仕舞おうと手に取った。
その瞬間、僕の頭に昔の記憶が蘇った。僕は慌てて絵本を開くと物語の最後のページを一気に開いた。




