起
ある日拾ったキノコを土に埋めてみた。
次の日には芽が出た。
その次の日には実をつけ。
その次の日には、人の形になった。
その次の日には自立して歩き、言葉を話した。
ある日、キノコは言った、人を殺してしまったと。
そんな、セミの鳴き声が煩く響く夏の日の出来事。ーー
私はその日、高校を中退し、その足で近くの某デパートで夕飯の食材を買い、田んぼ道が続く、家路へ着いた。
この先何も決まっていないが、不思議と心は晴れやかだった。何でもできるような万能感に包まれ、デパートで買った、カップアイスを、木のスプーンで、空を眺めながら、広大に広がる田舎景色を感じながら、自宅の縁側に座り食べていた。
空気は澄み渡り、涼しい風は頬を撫でる。小学生の夏休みのような、そんな気分だった。何故そんなことをしたのかは、分からないが、デパートで買った、エリンギを踵で掘った庭の土に埋めた。エリンギが埋めても、育つことはないことも、何かが起きることがないことも知っていた。しかし、晴れやかな気分というもの意味のないことをしたくなるもので、これが心の余裕なのだと感じた。
しかし、芽が生えた。
翌日は雑草か何かだと思っていた。
エリンギを養分に雑草が生えたのだと。
しかし、その翌日、明確にエリンギでもない、虹色のキノコが生えていた。キノコというものへの知識がないため、結構どこにでも生えてくるものなのかと思っていた。
しかし、その翌日、明確に不気味さを感じた。そのキノコは、30センチほどの高さになり、薄っすらと赤ん坊の様な形になった。
次の日には完全に人の姿をしていた。へその尾のようなものは地中へと繋がり、地上には赤ん坊が寝ていた。呼吸もしていて、ちゃんとした動物へとなっていた。
私はへその尾を切って抱きかかえようかとも思ったが、なにが起こるかわからず怖くて、ひとまずミルクだけをあげてみた。赤ん坊をあやすように話しかけながらミルクをあげていると、真似して言葉を話すようになった。
1時間もすると、お腹すいたという様な簡単な言葉を話すようになり、私はネットで出産の動画を参考にし、ヘソの尾を切り、家の中で面倒をみることにした。
赤ん坊の成長は早く、1週間が経った頃には3歳児くらいになっていた。普通に会話もできるようになり、人間の3歳児と何ら遜色がなかった。人の食べるものを食べ、何ら人と変わらなかった。しかし、その日、夕飯の食材を買い、家に帰ると、玄関がペンキをまき散らしたように、赤く染まっていた。その血は居間の方へ続き、居間に入ると、赤く染まった、宅配業者の制服が目に入った。人の亡骸のようなものはなく、ただ血に染まった服と、血まみれの3歳児の姿がそこにあった。
私は、ここで、現実を叩きつけられた様に、非現実を思い知った。
やはり、普通の人の子供ではなかったと、思い知らされた。その子は言った。人を殺してしまったと。私はどうするべきなのかと、考えた。自分の罪になるのか、警察が調べれば、私の家の宅配途中で居なくなったことも、この残された服が証拠になってしまう可能性もあるのではないかなど、色々な思考が駆け巡った。
私は血に染まった服を庭に埋め、隠し通すことにした。そして、キノコに向かい、キノコの身の上や、今後の取り決めを話し始めた。
キノコ曰く、宅配業者のノックの音までは覚えているが、その後気がつくと、血に染まる男が居間で倒れていて、そこからは急激にお腹がすき、骨まで食べてしまっていたらしい。食べている時は意識はあるが、頭に靄がかかった様で、細かくは覚えていないらしい。
しかし、道具を使ったような痕跡はなく、鋭い牙があるわけでもないので、どうやって骨までなくなるくらい食べたのか、わからなかった。
食事の時だけ、モンスターのように変形するのだろうか。
私以外の人に合わせたことが無かったので、他の人にあったら襲ってしまうのかどうかなどもわからなかった。
わかった情報はほとんど無かったが、一先、キノコの名前や身の上など、人に詰められた時に、どうするかの取り決めをした。
名前は大多数を占める名字の佐藤と、キノコと漢字変換したら鬼の子と出たのでそれにちなんで、鬼子と書いて、キノコと読ませた。我ながら、結構投げやりだった。
私には3年前に行方不明になっている姉がいたので、3年前に、姉が置いていった赤ん坊ということにした。ちゃんと調べられると無理がありそうだが、戸籍登録もせず、置いていき姿をくらました姉の子を、私はその時中学生だったので、戸籍等のことはわからず、育ててしまったということにしようと思った。
色々な事情を聞かれたくなく、秘密裏に育てていたことにしようと。




