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愛の成れ果て  作者: サンダー


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正月休み

 正月休みになって達彦は地元の久慈に帰郷していた。一年ぶりの故郷で、はっきり言って何も変わっているところはなかった。家族仲も悪い方ではなかったが厳格な父と達彦との相性は最悪だった。

 達彦は根暗でよく同級生に暗いと言ってからかわれた。そんなこと言われなくても分かっている。いつしかからかわれるのが嫌になって友達付き合いもおろそかになった時期もあった。しかし今はそれぞれ就職して、就職先での苦労もあってか、わりあいお互い気遣うような雰囲気になっていた。友達の一人に大原という人間がいたが、彼は正月休みは帰郷していなくて、大原の母親がわざわざ達彦の家に訪ねてきて、丁寧に挨拶をして帰っていった。今は九州の現場で働いているということだ。

 帰郷した夜にサガミという高校の同級生が訪ねてきた。サガミは優秀な学生で道路公団に就職していた。高校卒業以来会っていない。

 サガミを玄関先で見た途端、なにか雰囲気が変わったなと思った。派手になってぎらついている。首に金のネックレス。指に数個のリングをはめている。

 「お前派手になったな。ほんとに社会人かよ」第一声がそれだったからサガミは合いの手の言葉がなかなか出てこない。

 「言葉もしゃべれなくなったのか」と余計な一言を言ってしまう。しばらく沈黙が続いて「悪い。俺、道路公団辞めたんだ。今埼玉でヤクザをやっていて、驚かすつもりじゃなかったんだけど」

 「ヤクザって、あのサガミが。嘘つけよ。何かの冗談だろ」思わず達彦は声にしてしまったが、サガミの面持ちは真剣そのものだ。

 「なんでヤクザに。あんなに優秀なお前が」

 「色々あったから。俺も好き好んでヤクザをやっている訳じゃないし。ところで浜川はまだ自衛隊にいるのか?」

 「俺は当分自衛隊にいるよ。他にやりたいこともないし。なんならサガミも自衛隊に入隊すればいいよ」達彦は真剣だった。ヤクザをやっているより自衛隊の方がどれ程いいかは当のサガミも分かるはずだ。それを受けてサガミは何かを言いかけたが、その言葉はついにサガミの口から出ることはなかった。

 「浜川の顔が久しぶりに見れてよかったよ。じゃあ俺帰るな。明日の朝にはもう埼玉に戻らないといけないんだ。浜川も元気でな」そう言って達彦を玄関に残して帰ってしまった。達彦は言葉にできない暗闇をサガミと共有した。それは罪悪感と苦痛との接点のようだった。


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