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愛の成れ果て  作者: サンダー


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売店の売り子

 葉子は年末に向けて仕事を探していた。いつまでもプータローでは体裁が悪い。得意のスロットでセミプロになる手もあったが、世間的な目を考えると、ちょっと躊躇してしまう。ありがたいことに高校の先輩のひなのが岩手駐屯地の売店の仕事を紹介してくれるという。ひなのは岩手地連に努めている立派な自衛官で、葉子との付き合いは小学生の頃まで遡る。もちろん光の一件も掌握している。ひなのなら信じられるかもしれない。いいお姉ちゃんだし。そう思って岩手地連を訪問することにした。

 アポを取って、ひなのに会いに行くと机一杯に書類を広げ駐屯地内での売店の業務の注意事項が紙一面に書かれていた。

 「これ全部読むの?注意書きみたいだけど、ひなのが読んで聞かせてよ」葉子はこともなげにひなのに言う。ひなのは少し考えてから「分かった。要点を読んで聞かせるからよく聞いていて。分からないことがあったらすぐ質問するのよ。自衛隊では『分かりません』は通用しないからね」

 「ずいぶん厳しいね。でもなんか良く分からないけど、ちゃんと話は聞いておきます」葉子は胸の前で手を合わせるとひなのの話に集中した。

 ひなのの説明を受けて自衛隊ってお堅い所だと思っていたけれど、あんがい緩いところは緩いんだなと妙に安心した気持ちになった。筋肉質の筋肉バカだけがいるイメージだったが、意外とシャイな所も持ち合わせているんだなと、ひなのの経験談を聞いて好感を持てた。

 仕事はそんなに難しい訳ではない。むしろ簡単すぎるほど簡単だ。問題は自衛官に好意を寄せられて言い寄られたときだ。自衛官とのイロコイは御法度だ。そうなることはないと自信はあったが、しつこいのは嫌いだ。「めんどくさいな」思わず本音が漏れる。

 「そんなに難しい仕事じゃないと思うけど。どの辺が難しそう?」

 「男女関係。よくひなのはやってるよね。男に言い寄られないの?」

 「私は駐屯地にいないから。地連本部で仕事しているからそういうのはあまりないかな」ひなのはそう言ってソファーに深く座りなおす。それでも加減が悪いのか「コーヒー飲む?インスタントだけど」そう言って笑って給湯室に姿を消した。

 デスクに向かっている他の自衛官が一斉に自分に目を向けてるような気がして葉子は気まずくなった。誰も知り合いがいないのだ。そうなるのも無理はないだろう。気まずくなった葉子はジャケットのポケットからタバコを取り出し、テーブルの上に灰皿があることを確認してから火をつける。久々の一服に目が冴えわたる。ニコチンが頭のてっぺんまで巡り、さっきまでの緊張が解きほぐされる。すると給湯室からコーヒーを持ってきたひなのが慌てて葉子のくわえていたタバコを抜き取り灰皿に押しつけて火を消した。

 「あなたまだ未成年でしょ。なに堂々とタバコ吸ってるのよ、駐屯地で勤務するからには禁煙してもらうからね」ひなのが血相を変えて葉子を睨みつける「はいはい。それはもう硬いところだから守ります。でも未成年の隊員は吸ってるじゃないんですか。現にスロット屋で未成年の自衛官がタバコを吸っているところをよく見ますよ」

 「それは言わない約束。自衛官は暗黙の了解で許されているの、あなたがとやかく言うことではないわ」手持ち無沙汰になった葉子は書類に判子をついて「わかりました。ひなの先輩には恥をかかせません。タバコもやめます。それほどタバコに執着しているわけでもないし」葉子はひなのに愛嬌のいい顔で笑ってみせた。

 「まあ試験の結果は後日電話するわ。あまり期待しないことね。売店の店員のなり手はいくらでもいるんだから。でもあなたには私の庇護があるから有利であることに変わりはないわ。タバコだけは気をつけてよ」そう言ってひなのは自分のデスクに戻った。

 「葉子今日はもういいわよ。あとは結果を待ってて」そう言われて葉子は岩手地連をあとにした。採用は無理かもな?葉子はひなのの言の葉をバラバラにして『オスカー』に自然と向かっていた。


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