パンの争奪戦
「佐々木行こうぜ」達彦が二班のドアを勢いよく開けて佐々木のベッドを確認する。部屋には二度寝する古参陸士がちらほらいて、テレビに見入っている者も何人かいた。佐々木もよくプレスの効いた戦闘服に身を包み短い髪もジェルで整えている。佐々木は最近聞いたんだけどと前置きして川口のベッドの方を見て、あいつ寝てんなーと言って達彦の耳元でささやき始めた。
「川口も誘うか?あいつ昨日は散々だったらしいよ。また例のごとくスロットで一文無しになってさー。菊池士長に殴られたという噂も出回っていて、かなり凹んでるそうだ」
「何かめんどくさそうだな。またいつものようにグチグチ言って場がシラケるんじゃないか?俺はそれは御免だな。川口はパスだ」そうは言ったものの直哉も不憫ではある。まあしょうがないかと言って直哉のベッドの方に二人で向かった。
頭から毛布を被って二度寝している直哉の毛布を剥いで、「貴様起きろ!」と声を荒げて佐々木が直哉の体をくすぐり始めた。
「何だお前ら!奇襲攻撃か。せっかくの睡眠の邪魔をするとは不届き者め」直哉は布団の上で体制を整えると、静かに笑ってまた毛布を頭から被って寝ようとする。
「昨日散々だったんだって?俺を死に者狂いで探しただろ?俺は昨日バーで酒を飲んでいて行けなかったんだよ。悪く思うなよ」達彦はそう言って腰かけていた直哉のベッドから立ち上がり、佐々木に行こうと言って部屋を出て食堂に向かった。




