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愛の成れ果て  作者: サンダー


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4/12

朝は短し


 起床ラッパが駐屯地内にけたたましく鳴る。だいたいの新隊員はビックリして起き上がるが、前後期教育を終了して、中隊に配属されると、新兵の頃に比べたら一様にゆっくりと身支度をして事務室前に整列して点呼を取る。達彦も戦車隊に配属されて一年が経つ。時間というものは実に有意義で、その日の朝も、よく晴れた空を廊下の窓からボーっとしながら見ていた。

 二班の佐々木が後ろから達彦にちょっかいを出してくるので、達彦はやめろよと佐々木の列に下がって二人でコソコソ話していると、日直の遠藤二曹が達彦たちに間髪を容れずに怒号を浴びせる。遠藤二曹は小太りで、ヒゲ剃りのあとが濃く、よく陸士からバカにされていて、陸士の間ではわりと評価の低い人間だった。おまけに頭部が薄く、そういうことも評価の低い点であった。そして遠藤の話題が上がると、二人は口を塞いで笑いをこらえ、佐々木がまたその話題を達彦に振る。

 「遠藤二曹の奥さんって中国人らしいぞ。独身が長いし、今年で三六歳だぞ。そりゃあ低身長、小太り、低給料じゃ誰も嫁に来ないよ。こんな所ぱっぱとやめて、一般企業に就職したほうが、給料いいし、結婚も早いだろ?達彦もやめるんだろ?自衛隊なんて?」愉快そうに話す佐々木を見て、達彦は言い出そうかどうか迷っていた。

 「実は、最低でも四年間務めたいんだ。給料は安いけど、衣食住ただなわけだし、二任期後の手当の九十万円が欲しいんだ。車も買いたいしな。」咄嗟に佐々木の笑い声がした。

 「そうやって陸曹になって一生自衛官か?いい身分だな。見損なったよ」いつしか二人の顔から笑い声は消えていた。佐々木の引きつった目と口が何かをつぶやいている。達彦には「殺す、殺してやる」とクリアに響いてくる「でも、俺もやっぱり一任期でやめようかな。四五万円はもらえる訳だし、ここにいても何もいいことないからさ」佐々木の気持ちを汲んで、達彦は佐々木に寄り添って言ってみた。

 「そうだよな。達彦なら分かってくれると思ったよ。今から飯だろ。俺も山谷士長のパンを取りに行くから一緒に行こう」

 「じゃあ部屋に行くよ。じゃあまた後でな」けっきょく達彦と佐々木はろくに遠藤二曹の話も聞かずに階下へ降りていった。もう少し我慢すればお盆休みが来る。達彦はスロットをたたく素振りをしながら、部屋の中へ吸い込まれていった。


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