犯罪者
達彦は高橋曹長に退職願を出した。高橋曹長はそれを受け取るのに一度は躊躇したが、考えた末に受け取ることにした。
「今回の事件が辞める理由か?そんなことを気にすることはないのに、お前の気持ちもわからんでもないが・・・・。」
「自分はこれ以上中隊にいれません。佐々木のことを考えると生きた心地がしないんです」達彦の目に輝きはなかった。それを見た高橋は達彦の肩を掴んで、俺にはお前の気持ちがわかると言いたげに「これからどうするんだ。あと二ヶ月で任期満了だぞ。そこまで待てばいいじゃないか」と優しく問いかけた。
「そう言われても自分は傷ついているんです。佐々木も許せないし、直哉は哀れでしかありません。自分なりに事件をみつめなおしましたが、けっきょく何も分かりませんでした。自分もいったいどうしたらいいのかわからんのです」
「誰に問題があった?ほんとに佐々木が犯人なのか?佐々木士長がそんな愚かなことをするかな?俺には到底そう思えないのだが。浜川はどう思う。佐々木士長はシロかクロか?」高橋の問いに達彦は言葉が詰まった。犯人は佐々木ではないことに目星はついている。佐々木は直哉が殺害された時間に、直哉と一緒にいたことは確かだ。しかし佐々木は直哉を殺していない。佐々木にそんな度胸があるわけないじゃないか。しかしその心とは裏腹に達彦は高橋に「佐々木が犯人で間違いないと思います。しょせん佐々木はそういう奴なんです」と言ってのけた。
佐々木は確かにあの時間直哉と一緒にいたのは確かだ。しかし犯行現場にはもう一人いた。たぶんそれは津志田葉子。間違いない。
彼女は今、重要参考人として警察で取り調べを受けている。まず、彼女がなぜあの年の瀬に売店にアルバイトとして採用されたのか?それに府が落ちない。それと実は事件前から佐々木とは懇意にしていたのではないかと思われる。
直哉には直子という恋人がいた。佐々木は直子と繋がっていたことも達彦の調べでだいたいのことは分かっていた。しかしその接点にどういう理由があったかまでは分からない。いまだ点と線は繋がっていない。
高橋の視線をそらして達彦はわざとらしくそして大袈裟に言った。
「自分には犯人は分かっています。しかしいまだにそれは解決していません。直哉の死には不審な点がおおいにあります。それを調べ上げて、犯人を牢屋にぶち込みます。」
「たいそうな。お前に何ができる。仕事もろくに出来もしないのに、さっさと自衛隊を辞めて路頭に迷えばいいんだ。その後泣きついてきても俺は知らんからな」高橋の厳しい叱責が飛ぶ。
「高橋曹長も気が休まらないでしょうが、どうか心穏やかに。それでは失礼します」達彦が事務室ドアを閉めると中から「畜生!」という高橋の虚しい叫び声が聞こえた。
祐実は伸二の逮捕を知って盛岡に来た。直子とは昨日会った。直子はあきらかに伸二を操っていた。怖い。直子を目の前にして佑美は躊躇した。
「あなた、伸二に何をしたの?伸二は人を殺すような人間ではないわ。きっとあなたに操られていたのよ」
「それはどうかしら、あんがい伸二君が私に夢中になっちゃって、身体の関係を求めてきたの。この話を信じるか信じないかはあなた次第よ」直子はいつものカフェで、佑美と対峙した…そのほうがいつもの自分を出せるということを直子は重々承知していた。
「直子さんはどこで伸二と知り合ったんですか?やはりスロットの関係ですか?」
「私はあいにくスロットはやらないの。意外かもしれないけど、直哉の借金が膨らんでそれどころじゃなかったのよ」直子は実直そうに言うと佑美の顔を見てニコリと微笑んだ。その微笑みに嘘はなさそうだ。しかしそうなると、誰が伸二をそそのかして、直哉の殺害に追い込んだのだろうか?
あのもう一人の同期、確か浜川とか言ってたな。彼が非常に疑わしくなってきた。そして私もこのままでは済まないだろう。伸二と共犯と思われてもおかしくない。伸二は直哉のことは悪く言わなかった。どちらかと言うと浜川の二面性について聞かされたことがある。誰を信じればいいのだろうか?私はまるで蚊帳の外だ。もし私に原因があるとすれば、年末年始東京に遊びに行っていたことぐらいだ。このことを責められると私には打つ手がない。伸びをした手を太陽にくゆらせる。祐実は永遠に伸二に会えないことを覚悟した。




