真相
佐々木が岩手県警にしょっぴかれてから五日が過ぎた。今のところはさほど進展はないが、達彦も事情聴取をうけた。
今までの人生で事情聴取を受けたことはただの一度もなかった。嫌な予感はしていた。達彦には事件の真相が薄っすらと脳に染み付いているようだった。積年の恨みがあったのか、金の恨みがあったのか、真相はつかめていない。自分にとっては迷惑な話でしかなかったし、直哉を失った喪失感も多かれ少なかれ精神の均衡を崩した。
甘い匂いが部屋に流れ込む。誰かが甘いコーヒーでも入れているのだろうか?ソファーを見ると新兵が二人座ってコーヒーを楽しんでいる。正気かよ。二等陸士がソファーに座ってコーヒーを飲むなんて。
「おい、お前ら何やっている」達彦より二つ先輩の佐々岡が二人に詰め寄って大声をあげる。
「コーヒーを飲んでました。佐々木士長みたいに僕らは悪いことをしている気はありません。人を殺しているわけではないし、何も人には迷惑をかけていません」そう言ってのけると佐々岡は言葉に詰まった。気持ちをふり絞って「バカ野郎」と大声で怒鳴った。一瞬の出来事に新兵の二人はビビったのか、そそくさとコーヒーカップを残して、自分のベッドに戻る。達彦はしょうじきそこまでしなくてもと思ったが、佐々木のことをあんな風に新兵に言われるのは心外だった。
葉子が売店で働きだしてから一ヶ月が過ぎた。楽な仕事だったし、喫煙所もある。
母親は心配したが、何も心配することはない。言い寄ってくる人はいなかったし、案外みんなうぶなのだと思った。だから葉子はいい気になって隊員をからかったりした。すると彼らは喜んでボケまくった。いい気なもんだと思いながら、葉子はこの前見かけた隊員のことを時々考えるようになった。「たしかオスカーの前で私を助けてくれた人だ」そう思うとドキドキした。彼の接客はまだしたことがなかったので会ったらお礼が言いたかった。そう思って出会いを待っていると、すぐにそのチャンスは巡ってきた。




