フラッシュバック
「佐々木が直哉を殺した」という一報はすぐに駐屯地を噂の海に飲み込んでいった。様々な憶測が行き交う中で達彦は強烈な衝撃をうけた。
「こんなばかげた話があるかよ」正月休み明けで駐屯地に戻ってきたらこの騒ぎだ。
直哉を恨む理由は何だったのか?達彦は冷静になれなかった。と同時に佐々木への憎しみもわいてくる。直哉が不憫でならない。こんなに佐々木が直哉に執着する思いとは何だったのか?一気に同期を二人失ったことについては、まだ考えられずにいた。
佐々木の本性を達彦は知らなかったことになる。あんなにいい奴だったのに。そして疑念は膨らむばかりで、脳みそが潰されそうで、解決の糸口も見ることができなかった。
部屋の先輩に「浜川は佐々木と仲良かったよな。なんか二人の間にトラブルでもあったのか?」と不躾な質問をされ達彦はムッとしながら、「知りません」と言うしか方法がなかった。
「でも、思い当たるフシはあります。佐々木は冷静そうに見えて激昂しやすいタイプだったから、それで直哉が佐々木の逆鱗に触れたのかもしれません」
「それと」と言いかけて達彦は言葉を飲み込んだ。そうだ、あのことがもしかしたら引き金になったかもしれない。直哉は佐々木にかなりの額の借金があった。それは直哉が金にだらしないのと相まって、そういうことに厳しかった佐々木は直哉を許せなかったのだ。その可能性は十分に考えられる。 直哉の奴....。俺への返済も済まさずに死んでしまった。達彦はふとしたことで直哉への怒りがわいてきた。しかしどうにもできない。彼は死んだのだから。すべて後の祭りだ。
菊池士長....。あのトラブルメーカーがこの件に絡んでいなければいいが。あの人はホントにろくでなしだ。達彦は菊池の顔を思い出しながらベットに吸い込まれるように、呼吸を落ち着かせる。これで本当の孤独になった。今すぐにでも自衛隊を辞めたい気分だった。部屋はボイラーが効きすぎていて妙に暑い。真冬なのにな。過ぎたるは及ばざるが如し、だな。達彦はそう言葉を飲み込み、夜の点呼に備えた。




